31.
僕は警察署の入り口まで、乗ってきた車を移動させた。さらに、車内で寝ていた「みい」をケージに入れて助手席に移動させ、意識を失ったままの鎌谷を後部座席に寝かせた。柿沢さんが付き、心臓マッサージと人工呼吸を続けながら。
「発進します」
「お願いします!」
病院までの道は覚えていた。警察署の駐車場を出て、右折、その次の信号を左折してすぐのところに、病院があった。救急患者専用出入り口に車をつけると、ストレッチャーを持った救急部門の人が外で待っていた。
「鎌谷健人さんですか」
「そうです。私は義理の兄の野島です。先程まで一緒にいました」
「同じく一緒におりまして、こちらに連絡しました、警察の柿沢です。よろしくお願いします」
柿沢さんが、車を駐車場に移動させてくれるというので、僕が先に一緒に中に入った。彼は処置室に入っていく、僕はその外で、医者と思しき男性に声をかけられた。
「これまでの経過は」
「立って話をしていたのですが、何の前触れもなく、突然意識を失って倒れました」
「受け身は取りましたか? どこかぶつけた様子は?」
「受け身は取っていません。頭を半分空になっていた段ボール箱にぶつけた程度です」
「そうですか。呼吸や心臓の方は」
「どちらも止まっていました。気付いた直後から今まで、警察の方が心臓マッサージと人工呼吸をしていました」
「ありがとうございます。あ、それと、鎌谷さんは今まで、何か持病や既往歴とかがあったりはしませんでしたか」
そう聞かれて、僕はこの男についても、無知な部分が多いと気付かされた。まあ、まだ一年も同居していないから、当然といえば当然、なのだが。
「いえ、実はあまり付き合いが長くなくて、今回たまたま一緒にいただけなんです。なので持病については聞いたことがありません。――あ、ちょっと待ってください」
鎌谷は財布をいつも持ち歩いていたが、ポイントに無頓着で、カード類はほとんど持っていない僕とは対照的に、大量のポイントカードを財布に入れていた。そこに何か身分証が挟まっていたりとか、手がかりがあるかもしれない。
僕は一度そこを出て、駐車場に向かった。こちらに駆けてくる柿沢さんがいたので、呼び止めた。
「どうしましたか」
「すいません、ちょっとあの人の私物を確認したいんです」
「分かりました」
柿沢さんに案内され、車に戻る。にゃあ、にゃあと落ち着かない「みい」にごめんね、と言いながら、鎌谷の鞄を車外に出す。その中から財布を見つけ、中身を確認すると、大量のカード類の中に、「緊急連絡先:私の兄です」と書かれ、その下に電話番号も記されていた一枚の厚紙があった。
――これだ。
僕は早速、その電話番号に掛けた。相手はすぐに出た。
『はい、鎌谷昌志です』
「あ、すいません、私、昨日の夜、あなたの弟の健人さんと一緒に車に乗った、野島と申します」
『あ、一緒にいらした方ですね』
「そうです。健人さんの同僚です。えと、健人さんの件で、お兄さんに確認したいことがありまして」
「え、健人が、どうかしたんですか」
「……実は、先程、突然心停止と呼吸停止を起こしまして、病院に救急搬送されたんです。一見、今まで健康そうに見えたのですが、何か持病があったりとか、過去に病気とかされていますか。医者先生に聞かれたもので」
電話の向こうから、息を飲む音が聞こえた。さては、何か心当たりがあるか。
『……実は、あいつ、二歳の時に、川崎病をやっているんです』
「川崎病、って、何ですか」
『全身の血管が炎症を起こす病気です。心臓に後遺症が残ることもあって、あいつはそうなってしまったんです。大人になってから、心臓病を起こすことがあるんですが……とにかく、お医者さんには「赤ちゃんの頃、川崎病にかかって、心臓に後遺症がある」と言ってください。それで通じると思います』
「分かりました」
『それと、私も新幹線でそちらに向かいます。搬送先の病院の名前、教えてくれませんか』
僕は病院の名前を伝え、電話を切った。柿沢さんから名刺をもらい、彼は署に戻っていった。僕は救急出入り口から病院に入り、ちょうど処置室から出てきた医師にそのことを伝えると、すぐに心臓の検査をすると言ってくれた。




