28.
「すいません、先程電話を頂いた野島ですが、柿沢さんはいらっしゃいますか」
「柿沢さんですね、少々お待ちください」
受付の女性が内線をしてしばらく、若いお兄さんと、その上司らしい男性が出てきた。
「すいません、野島さんですか」
「はい。野島千春と、愛香の義理の弟の健人です」
「私、薬物事件や毒物事件担当の柿沢と申します。軽井沢からわざわざご足労ありがとうございます」
「いえ……」
上司らしい男性は、植田と名乗った。僕たちは個室に通され、緑茶を出された。植田さんも同席した。その部屋のテーブルの近くには、一つの大きな段ボール箱が置かれていた。
最初に、毒物による自殺未遂の可能性が高いとのことで、入手経路や摂取の動機について心当たりがないかを聞かれたが、病院で聞かれたときと同じように、僕や鎌谷は心当たりがないと答えた。
「そうですか……入手経路、摂取の動機、共に同居していた二人は心当たりなし、ですか」
柿沢さんは手帳にそのことをメモする。僕はその間、物の少ないその部屋に置いて、異物のような存在感を放つ段ボール箱が気になった。
植田さんが、警察官側にあった段ボールを、こちら側に押してきた。机の上に上げる気配はない、重い物なのだろうか。メモをし終えた柿沢さんに、植田さんが耳打ちした。
「あ、それでですね、愛香さんの乗っていた車と鍵をこちらで預かりまして、毒物が関係しているということで、調べさせてもらったのですが、不審な錠剤が見つかりまして、それが……」
「青酸カリだった、ということですか。先程病院で聞いたのですが」
「あ、もうご存じでしたか。まあ、その方向で治療なさっている、ということですね」
「はい、そうです」
この会話も柿沢さんがメモする。植田さんが口を開いた。
「それと、もう一つ気になることがありまして、トランクから厳重に封がされた段ボール箱が見つかりまして。これについては、何か心当たりはございませんか」
僕たちは立ち上がり、その段ボール箱をぐるっと一周したが、元は野菜の入っていた箱なのだろう、「信州・高原レタス」とやら、それについてプリントされた文字やロゴ以外は特に変わったことは書かれていない。
「見たことある?」
鎌谷が聞いてくるが、こんな野菜の箱、あの家で一度も見たことがない。
「いや……」
「オレもない……何だろう」
「これもご存じない、と」
「ええ、あいにく。何が入っているか、全く分かりません。家の中で見かけたこともありませんし……」
その時、脳裏に、あの秘密の部屋にあったのではないか、という憶測が浮かんだ。しかも、その部屋で、「みい」がとある一箇所を忙しなく確認していたことも。
僕はそのことを伝えてみた。不思議がりながらも、警察官二人は耳を傾けてくれた。
「では、念のため、開けてみましょうか。本人の許可が取れない状況ですので、親族のお二方さえよければ、ですが」
僕たちは顔を見合わせた。鎌谷はうなずく。僕も、彼女がこうなってしまったことについての重要な情報かもしれない、という勘が働いた。
「お願いします」
「かしこまりました」
箱はガムテープを二重、三重にして閉じられていた。柿沢さんが、カッターナイフでそれを開く、と。
「……爆発物、ではなさそうです、が……」
出てきたのは、大きな段ボールの一番上まで積み重ねられた、ピンク色の大量の封筒だった。そして、上から見える限り、その一つ一つに、女性らしい、丸っこい字で、同じ文字が書かれているのに気付いた。
『お姉様へ』
『お姉様へ』、『お姉様へ』、『お姉様へ』……警察官二人が、一つ一つ封筒を箱から出して確かめるが、出しても出しても、書かれている四つの文字は全く同じ。彼らもやや気味悪く感じたのか、眉間に皺が寄ってくる。そうしたいのはこちらの方も同じなのだが、これは、一体……?




