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「いえ、それが全くないんです。入手経路としては、医療関係や化学関係だとは思いますが、彼女は画家――絵描きで、そのような仕事には就いていませんし、親族がそうだという話も聞いたことがありません。動機も全くもって分かりません。仕事や友人関係で悩んでいる様子も見たことがありませんし……」
むしろ、彼女と生活して、悩みを抱えてしまったのは僕たちの方なのだが、そんなことは言えるはずもなく。
「うーん、そうですか……分かりました。入手経路はともかく、動機については、自殺未遂である可能性が高いため、意識が戻り次第、精神医学による解明や治療が必要だと思われます。――何か質問はありませんか」
「入院期間はどのぐらいになるでしょうか」
治療費は出せる。自殺や自殺未遂だと、民間の保険が効かない、と聞いたことがあるが、皮肉にも彼女は資産家の娘だ、多額の貯金があることを僕たちも把握しているし、万が一の場合に引き出せるよう、通帳やキャッシュカードの在処、暗証番号、届け印の保管場所も教えてもらっている。あいにく、今日は持ってくるのを忘れたので、僕が当面の間建て替える予定でいるが。
それよりも、問題はいつまでここにいればいいのか、ということだった。軽井沢は遠い、ここで誰かの親戚や知り合いの家にしばらく居候できればベストだが、それができない以上、僕たちはホテルに泊まるしかないからだ。
「そうですね、中毒症状それ自体は既に収まっていますので、後は意識が回復して、脳障害や麻痺がどれぐらい残るのかを評価して、になりますね。もし障害が残った場合のリハビリや、精神医学的治療は、こちらの病院の性質上、別の病院にて入院、または外来で治療していただくことになります。ですから、少なくとも一週間ぐらい、でしょうか」
「分かりました」
それぐらいなら何とかなりそうだった。僕たちはもう一度、愛香の姿を見てから、病院を出た。
ちょうどその時、僕の携帯電話に着信があった。発信は府内になっていた。
「もしもし、野島です」
『あ、こちら大正警察署の柿沢と申します。野島愛香さんの夫の千春さんのお電話でよろしかったでしょうか』
「はい、そうです」
『はい、ありがとうございます。では、今、お電話大丈夫でしょうか』
「はい、大丈夫です」
『ありがとうございます。現在、愛香さんの件でですね、愛香さんの乗っていたお車を、こちらの警察署の方で預かって調べさせてもらっております。つきましてはですね、千春さんの方にもお話をお伺いしたいので、お手数ですが、警察署の方まで来て頂くことは可能でしょうか』
「はい、大丈夫です。えっと、今から行ったのでよろしいでしょうか」
『はい、大丈夫ですよ。お待ちしております』
電話を切って空を見上げると、どんよりとした雲が頭上を覆っていた。これは一雨降るかもしれない。
「誰?」
「警察。行こうか」
「おー。……いや、その前に腹ごしらえしようよ」
「あ、もうそんな時間か」
腕時計を見ると、もう正午を少し過ぎたところだった。僕たちは、僕が朝食とキャットフードを買ったコンビニに向かった。イートインスペースがあったので、僕はのり弁を、鎌谷はサンドイッチを二袋食べた。
地図アプリで調べてみると、指定された警察署はここからそう遠くないところにあった。病院から歩いても行ける距離ではあったが、病院の駐車場の料金が気になったので、再度車で行ってもいいかと問い合わせたところ、駐車場があるので使ってもよいと言われたので、僕が運転して警察署に向かった。




