24.
途中、寝てしまっていた僕は、パーキングエリアで、鎌谷に温かい缶コーヒーを頬に押しつけられて目が覚めた。時刻は午前一時、もらったそれで目を覚ましてから、僕が運転席に座った。
時間が時間だからか、道路はよく空いていた。ペーパードライバーも同然だったので、感覚を取り戻すのに少し時間を必要としたが、慣れると後は楽だった。
しかし、京都に入る頃には、流石にやや交通量が増してきた。大阪に入り、高速道路を降りたのは午前三時半。それから三十分ほど走って、ようやく病院に辿り着いた。
「みい」は車内でお留守番である。救急の出入り口を見つけ、二人でそこに入る。身内扱いなのは僕の方だけなので、僕が窓口の人に話しかけた。
「すいません、こちらに野島愛香が搬送されてきたとお伺いしたのですが」
「はい。えと、昨日夜九時頃に運ばれてきた方ですね。お二人とも、野島さんのご親族の方ですか」
ここで、僕は表情には出ていなかったとは思うが、焦りが生じた。そうだ、このような時は、原則親族しか面会できない。祖父が緊急入院したときも、一緒に病院に向かった僕は続柄を聞かれた。僕は一応、戸籍上の夫だが、鎌谷は愛香の親族ではない。
すると、僕が何か言おうとする前に、斜め後ろにいた鎌谷が口を開いた。
「はい、私が義理の弟で、彼が彼女の夫です」
いいのか、と思ったが、窓口の人は特に不審に思わなかったらしい、担当者を呼ぶので、中に入って待っててくれと言った。
「……嘘でしょ」
「もちろん。いいじゃん、別に今ここで調べられる訳でもないし」
「まあ、そうかもしれないけど……」
まもなく、救急担当の医師が現れた。女性だった。優しそうな、だがどこか男勝りな感じの漂う人だった。
「野島さんの旦那さんですか」
「はい」
「こちらは」
「義理の弟です」
鎌谷は何の違和感もなく答えた。これで通すつもりなのだろう。
「そうですか。私、担当しました北沢と申します。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
「愛香さんですが、現在集中治療室で治療を受けていますが、意識不明の状態です。ここではなんですので、個室にご案内します」
集中治療室。意識不明。彼女は特に病気などは持っておらず、飲んでいる薬などもなかった。仕事も順調そうだったし、何かに悩んでいる様子もなかった。ただ、あの日曜夜から月曜朝にかけての、不自然な行動を除けば、何か最近変わった様子もなかった。
――なのに、どうして?
移動中は、特に運転中は、事故を起こしてもいけないので、あまり考えないようにしていたが、今になって、彼女への想いの強さからか、強い感情や疑問が呼び起こされてくる。
エレベーターで二階に上がり、応接室らしき部屋に通された。待っている間に書いてくれ、と書類と筆記用具を渡されて、担当医は少し場を離れた。
僕の祖父が入院したときに、似たようなものを見たことがあった。患者の住所や親族の連絡先、病歴や家族構成を書くものだった。当時は母が書いていたが、今書けるのは僕しかいない。
彼女の個人情報はすらすらと書けたが、親族の欄を書こうとして、手が止まった。鎌谷の方を見ると、にいっと笑っていた。
『やれ』
ここはやむを得なかった。病院側に嘘をつくことにはなってしまうが、彼女の親族についての情報が乏しい以上、うまく書くしかない。
僕が夫。子供はなし。両親・祖父母は既に他界。既婚者の姉とその夫。鎌谷は姉の夫の弟ということにしておいた。名前と連絡先だけではなく、図で示してくれと書いてあったので、そこも埋めた。
そこを書き終わったところで、あの医者が部屋に入ってきた。
「お待たせしました。書類の方は」
「まだです」
「でしたら、あとで構いませんので」
僕はボールペンを置いた。医者は血液検査の結果らしき資料を提示してきた。
「早速ですが、病状の説明をさせていただきます。運ばれたときの状況はご存じですか」
「車の中で意識を失っていたと聞いています」




