↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相合傘 -千春と千秋 そのⅠ-  作者: 関戸守
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/54

20.

 明日は雨だと、携帯電話の中の天気予報アプリで見たので、今日の夕食の材料と明日の食料、備蓄用のレトルト食品、それに切れかけていた猫のおやつを買って帰宅した。家に着いた頃には、もうどんよりとした空になり始めていた。

 僕たちは洗濯物を取り込んだが、自室で昼寝をしようとする僕とは対照的に、あまりそういうことはしない鎌谷は、彼女の鍵一式を本当に玄関から二階に持っていった。

「本当にやるのか?」

「善は急げ、って言うじゃん」

 果たして、それは善なのか。考えていることが相変わらず分からなかった僕は、そこを探ろうとしても無駄と学習していたので、僕は鎌谷を放っておいて自室に向かった。


「それで? 何か分かったのか?」

 もしかすると、何ヶ月ぶりかもしれない二人での夕食は、昼に外食でいいものを食べたので、簡単にうどんと野菜炒めで済ませた。食卓に現れた彼は、何ともいえない微妙な顔をしていた。

「分かったとも言えるし、分からなかったとも言える、ってところかな」

 うどんをすすってから、彼はそう言った。

「どういうことだ」

「何もなかったよ。中に入ったら、普通のアトリエだった」

「不審なところがなかった、てこと?」

「そうそう。学校の図工室みたいな机と椅子があって、絵の具とパレットと絵筆があって、イーゼルに描きかけの絵があって。引き出しとか、押し入れも一通り見たんだけど、紙に描いたスケッチとか、昔描いたんだろうなって作品とか、描き方の教科書みたいなものぐらいしかなくて、逆に何でその部屋を隠す必要があるのかな、って」

「え、そうなの」

「うん、本当本当。変なものとか、怪しいものとかは全然見つからなくて」

「……それはそれで」

「そうそう。何なら見てみる? オレ、食器とか洗っておくけど」

 鎌谷は言動や思考こそ、時々怪しいことがあるが、感情が露骨に出る性格もあってか、嘘をつくのは苦手なようだ。実際、愛香や僕に嘘をついたことは一度もない。

 それに、何もない、というのなら、僕は少し安心して、入って確かめてもいいかもしれない、という気になっていた。

――そう、本当に何もないのなら、それでいいのだ。

「……それなら」


 食後、鎌谷から鍵を教えてもらい、その鍵で問題の部屋の中に入って、手探りで電気を点けると、彼の言っていた通り、何の変哲もない、画家のアトリエ、と聞いて想像する通りの部屋だった。念のため、引き出しや押し入れもすべて確認したが、仕事に関係なさそうなものは、窓際に飾られた、小さな鉢植えのサボテン以外、何もなかった。

 サボテンはあまり水をやらなくとも生きていけるともいうが、念のため、彼女が帰ってくるまでは、部屋の外に出して、僕が世話をすることにした。

 サボテンを持って、部屋の外に出ようとすると、開けぱなっしの入り口に、「みい」が行儀良く座っていた。まるで、僕が気付くのを待っていたかのように。

「にゃお」

「どうしたの」

 「みい」は僕を見上げて、一声鳴いたかと思うと、立っていた僕の横をすり抜けて、中に入っていった。どうやら彼女も、この部屋には出入りしているらしい。

「みい、そろそろこの部屋を閉めようと思ってたんだけど」

 一応、そう声を掛けてみたが、その言葉が通じる訳もなく、彼女は部屋の中を落ち着きなくうろつく。飼い主がいないことに戸惑っているのだろうか。

「にゃーお」

 押し入れの前で立ち止まって、また僕を見上げる。開けてほしいのだろうか。

 試しにそこを開けてみると、二段になっている方の下の段、古そうな道具が入っている場所を、彼女はくんくんと嗅ぎ始めた。そして離れたかと思うと、また戻って、同じ所を嗅いでいる。

「何してんの」

 もう風呂を終わらせたらしい、白いタオルを首にかけた鎌谷が上がってくる。中を覗かせると、彼も「みい」の不思議な行動に気が付いた。

「どうしたのかな」

「さあ……」

 「みい」はやがてその動きをやめ、そこから立ち去り、部屋を出た。僕たちは、彼女が匂いを嗅いでいた場所をよく調べてみたが、子供の時に使っていたような感じの画材道具ばかりで、不審なものは何一つ見つからなかった。

 僕たちも部屋を出た。彼女の寝室に廊下側から入ったが、そこにも「みい」はいなかった、彼女は一階に降りたらしい。いつもは愛香と一緒に寝ている「みい」は、愛香が留守にしている間は、僕と鎌谷が交代で部屋に入れることにしていた。

「結局、何だったんだろうね」

「うーん……」

 電気を消したことを確認して、部屋の鍵をかける。思ったほどの収穫がなかったことに、僕も鎌谷も頭を悩ませた。

「もう、やめよっか。探すの。何も出てきそうにないし」

「その方がいいんじゃないの」

 一階のリビング・ダイニングのソファーの上で、猫はごろごろとしていた。今日は鎌谷が夜の面倒を見るというので、彼が猫を抱きかかえ、風呂に入るために着替えを取りに行く僕と共に、部屋のある離れに戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。