19.
「ていうか、どうしてそんなことに気付いたの」
「朝起きてくるときの足音の場所。いつもは部屋を出てすぐに降りてくるのに、時々いつもより奥から聞こえてくることがあって。水戸ちゃんはその時間帯、いつも朝ごはん作ってるから気付きにくいかも」
「ああ、なるほど。で、それで何か不都合でも」
僕たちに与えられた部屋は、一人一部屋。必然的に、いつも同じ部屋で寝ているが、彼女の寝室はアトリエと繋がっている。……ん? アトリエ?
「……それって、アトリエで寝ている、ってこと?」
「そうなんじゃないかなーって。まあ、彼女、夜もアトリエで何かしている時もあるし、疲れてそのまま寝落ちしているのかな、って思ってたけど、よく聞いてみたらさ、毎週月曜日の朝、必ず奥の部屋から出てきてるみたいなんだよね」
「毎週、必ず?」
「そう。前の日の日曜日はあまりアトリエに入っていないみたいだし、何かおかしいなー、って。しかも、あの部屋、僕たち入らせてくれないじゃん。オレも最初は、勝手に掃除とかされたくないから、って彼女が言うのに納得してたけどさ、そういうことがあったらさ、あまりそうしたくはないんだけど、疑っちゃうんだよね。都合の悪い何かを隠しているんじゃないか、とか」
主が使っている時も、使っていないときも、鍵が常に掛けられているアトリエ。そこに立入が許されていない僕たち家政夫。そこに毎週、特定の曜日の夜に出入りし、翌朝必ずその部屋から起きてくるという彼女。
「言われてみれば、気になるかも、だけど」
僕たちは雇われている身である。彼女は雇い主。もし、彼女の秘密を暴いてしまうようなことがあれば、彼女に嫌われて仕事を失ってしまうかもしれない。
「いや、余計な詮索はやめた方がいいと思う。僕たちの雇用に関わるよ」
僕はこの仕事を続けたかった。たとえ、彼女への恋心が報われないと分かっていても、彼女の側にいて、彼女を支えていきたい。恋心、というものを理解した今、僕はそうはっきりと誓える。
だが、目の前の鎌谷は、そうでもないらしい。また、いつか見たような、何か良からぬことを考えている時の表情になる。
「バレないようにやればいいんだよ。ちょっと触ってしまったとしても、先に部屋の写真を撮っておいて、その通りに戻せばいい」
「……それ、部屋に入れることを前提にしていないか?」
「あの子、鍵を置いて行ってるよ」
僕は閉口した。どうやら鎌谷は、意地でも彼女が、何かを隠しているのか、そうではないのか、もし何かを隠しているのならば、その「何か」は何なのか、を突き止めたいらしい。彼女が外出した後、僕たちがあの家に戻ったのはほんの数分だったが、その間にどこを見ていたのやら。
「どこに」
「そりゃ、玄関の靴箱の上に決まってるじゃん。持ってる鍵、全部入ってるみたいだけど」
「……勝手にしたら? 僕は反対だけど」
「そーおー? まあ、別にいいけど。オレ一人でやるよ。けど、何か分かったら教えるからね」
「そこは『何か分かっても教えてくれない』じゃないのか」
「オレは優しいからね」
その発言は、色々と矛盾しているのではないか。そう指摘しようと思ったが、料理が空に近付いてきた僕たちのところに、店員が、食後のコーヒーをお持ちしましょうか、と尋ねてきたので、それは叶わなかった。




