13.
全部干し終えたら、今度は掃除である。鎌谷は風呂場、僕は離れの掃除。二人で一階に降り、鎌谷はカゴを戻しに行き、僕はリビング・ダイニングで充電してある二台のロボット掃除機を持ち、台所の奥にある、離れに繋がる屋根付きの通路への出口へ。
離れの掃除は至ってシンプルである。一般的なロボット掃除機を一通り全体にかけ、フローリングになっている廊下とお手洗い部分を、水拭き専用のロボットに任せ、その間に人間が拭き掃除やゴミの片付け、通路の掃き掃除を行う。
僕はまず、廊下にロボット掃除機を置いて起動させた。水拭き担当は待機。人間である僕は、僕の部屋と鎌谷の部屋のゴミをまとめ、一度母屋に戻り、それらを分別する。僕の部屋から出るゴミは、いつかは愛香に何か誇れるものを、と勉強中の刺繍の糸の切れ端や、ちょっと鼻をかんだり汚れを拭いたりしたちり紙がほとんどだが、鎌谷の部屋のゴミ箱には、スナック菓子だったりチョコレートだったり、いつも何かしらのお菓子の包装が大量に入っている。僕より小柄であるにも関わらず、食事の量も僕より多い上に、食事時間以外にもよく食べているようだが、太る気配が一向にないのが不思議である。
離れに戻り、まだ使えるゴミ袋は戻し、汚れたそれは新しいものに交換する。廊下のゴミを取り終えた掃除機が終了を知らせたので、お手洗いに連れて行く。水拭き担当にも起きてもらい、廊下の水拭きをお願いする。
僕はというと、自分の部屋の汚れの気になるところを水拭き。どちらかと言えば潔癖なので、普段から手入れは怠らないでいるが、普段手を抜きがちな隙間も、こんな時は丁寧にやる。窓を開けてやっていると、風呂場から水の流れる音はもちろん、鳥の鳴き声や風のハーモニーもよく聞こえる。
――ここに来て、良かったのだろうか。
やっと、自分のいるべき場所を見つけたような感覚。水を得た魚。何となく生きてきた僕は、軽井沢の緑に包まれて、初めて「自分」を知った。
――これが、幸せ、というものなのだろうか。
だが、ここに来て、理解し難いものにも出会った。幸せな気持ちのよう、ではある。けれども、その気持ちの中に、少し「痛い」ものが存在していた。
それは、彼女の笑顔を見た時に、よく生じるものだった。しかし、僕はその「痛み」が、今もって理解できずにいた。その点だけが、ほぼ唯一、僕の中にある「引っかかり」だった。
――その引っかかりさえ、なければ。
首をぶんぶんと振って、その考えを追い出す。止まっていた手を動かすのを再開すると、また掃除機が終了のアラームを鳴らした。
それから、お昼は簡単に、カップラーメンで済ませ、空の客人用の部屋を勝手に拝借して昼寝。彼女と猫は僕が昼寝をしている間に帰ってきたようだった、気付くと僕一人の隣に、もふっとした身体が寝息を立てていた。彼女を起こさないように起き上がったが、それで目を覚ましてしまったらしい、あくびを一つしてから「構え」と僕を見上げてきたので、抱っこして僕の部屋に連れて行き、お気に入りの猫じゃらしのおもちゃで、彼女が飽きるまで付き合った。愛香はアトリエに籠もっているようだった。
午後四時半には、買い出しに行ってくれた鎌谷からの食材がもう到着していたので、ハヤシライスを作った。好評だったそれは少し残ったので、それは冷蔵庫に入れ、彼女の後に続いてお風呂に入る。
僕は入浴後、入浴が最後になった鎌谷を特に待っている理由もなかったが、愛香がリビングで猫とじゃれあっているのを見て、何となくそこに残っていた。夜はまだ冷える季節、僕は温めた麦茶を飲んでいたが、そこでふと、午前中に鎌谷と交わした会話を思い出した。
『何で身の危険の可能性があるにも関わらず、女性ではなく男性を家政夫として雇い、一緒に暮らそうとするのか』
聞いてみよう、と言ったのは鎌谷。それに対して、聞かない方がいい、と言ったのは僕だ。聞くべきか、聞かないべきか、再びその思考が自分の中に生じる。
――まあ、知ったところで、特に得も損もしないだろう。




