12.
ハンガー類を屋外に出したままにしていると、劣化が早く進んでしまうということで、この家では洗濯物はハンガーにセットしてからベランダに持っていくことになっていた。大きな洗濯カゴに、服は全部放り込み、僕はそれを持って、鎌谷は三つのピンチハンガーを持って二階に上がる。
二階には部屋が四つあった。階段を上がって左手側に洋室が二つ、階段に近い手前側が愛香の寝室で、それと繋がっている奥の部屋が彼女のアトリエだった。アトリエは常に作業途中であり、他の人に勝手に物を動かされたくない、という理由から、廊下側、寝室側の出入り口の双方に鍵が掛けられ、家政夫である僕たちは中を見たことがなく、また出入りを許可されていなかった。食事の時など、ここに籠もって仕事をしている彼女を呼ぶ時は、廊下側の扉をノックするのがルールとなっていた。
その反対側、二つの和室の手前側が客人用、奥が事実上の物置となっていた。元々は奥の部屋も、客人や親戚用に使っていたというが、姉妹の両親が亡くなって以降、親戚付き合いが減り、姉が結婚してからは彼女もここにあまり出入りしなくなってからは、収納用の段ボールや引き出しだらけになっていったという。一応空けている手前側の部屋も、僕が出入りするようになってから、一度も使用されているのを見たことがない。
僕たちはその、ほとんど何もない客人用の部屋を通って、広いデッキに出た。斜め右下に視線を向けるとガレージが見えるが、彼女の愛車はそこにはもうなかった。無事に出かけたようだ。
「あー、いい天気」
「そうだね」
日差しが届くよう、鬱蒼とした森の中でも家の周辺は光が入るようになっていた。今日は雲も少なく、太陽の光が眩しい。これだと洗濯物も早くに乾くだろう。
「そういやさあ」
「ん?」
普段は何も掛かっていない物干し竿にピンチハンガーの一つを掛けながら、鎌谷は僕に話しかけてきた。
「どうして女の人じゃなくて、俺たちを雇ったのかな」
「あれ、君も聞いてないの」
「え、お前も?」
「気にはなっているんだけど」
どうやら抱いている疑問は同じだったらしい。しかも、その答えを知らないところも。
「だよね。確かに雪かきは重労働だし、そこは男手があれば助かるんだろうけど、一年中そんな訳ではないし、女の子の一人暮らしのところに男が二人って、色々とまずいんじゃね」
「武術の心得はあると聞いたけど、何かそれ以外にも理由がありそうな感じだった」
「それ以外って」
「タイミング悪く聞きそびれた」
「ええー。じゃあ、今度聞いてみる?」
「覚えていたらね」
だけども、僕は何となく、一つの予感を持っていた。その、「それ以外」を、僕たちは尋ねていないが、彼女の方から積極的に話そうともしない。
――つまり、あまり触れられたくない領域なのかもしれない。
「……いや、やっぱりやめておいた方がいいかも」
「どうして」
「勘」
「……お前、時々そういうところあるよね」
「割とそうやって生きてきたから」
「ふーん……オレはあんまり、そういうの信じないけどさ」
だが、その辺の思考パターンは合わないらしい。仕方あるまい、同じ仕事をしているのだ、多少の考え方の違いは認めなければ。
けれども、もし彼が、この事柄について愛香に尋ねるようなことがあっても、僕は止めないだろう。少なからず、僕もその辺は気になるところだからだ。
僕は洗濯カゴから、ハンガーにセットされた服を物干し竿に掛けていく。考えても仕方ないことは脇に置いて、作業に集中する。昨日、デッキを掃き掃除したとはいえ、誤ってデッキの床に洗濯物を落としたりしないように。




