11.
昨日、鎌谷が昼食と夕食後の片付けを主に担ったので、今日の朝食後と、次の食後の片付け当番は僕だった。ジャムなどは冷蔵庫に入れ、食器類はひとまず流しに下げる。
この家には、食器洗い機が標準装備されていたので、食器洗いは、コップやカトラリー類はそのまま、お皿はベーコンによる脂を軽くキッチンペーパーで落としてセットし、洗剤を入れてスイッチを入れるだけで半分は終わる。後は、使い方を鎌谷から教わったサイフォンを綺麗にし、今日の場合はオーブンの中を掃除し、それが終われば食洗機の稼働が終わるのを待つだけである。
愛香は、今日は猫の定期検診だということで、食後すぐから「みい」を連れて行くための準備をしていた。鎌谷は、洗い終わった洗濯機のところに行っていた。
僕は食器の片付けをしながら、今日の昼食と夕食について考えていた。愛香は「何時に帰ってくるか分からないから、お昼は特に用意しなくていい、外で食べるかもしれない」と言ったので、昼食は二人分。夜は、この日は火曜日、カレー・シチュー・ハヤシライスなどの日と決めていたので、ハヤシライスを作ることにした。
「みい、今日はお出かけです」
「にゃっ」
愛香がペットを持ち運ぶためのケージを「みい」の前に見せると、そのケージに入れられる時はあまり良くない目に遭うと分かっているのか、ケージから逃げていく。
「水戸さん、捕まえてくれませんか」
「あ、はい」
しかし、「みい」はキャットタワーの一番高いところによじ登ってしまい、今この家にいる中で一番背の高い僕でも、そこに届きそうにない。
「どうしましょう……よくあることではあるのですが」
だが、こんな時、どうすれば彼女を呼び寄せられるか、ここ数ヶ月で僕はすっかり学習してしまっていた。それは、彼女がこの家を留守にし、僕と「みい」だけになったときに学習させたものである。
僕は、愛香がキャットフードを入れている場所から、一緒に置いてあるおやつを出した。元々はこの家になかったものだが、テレビ・コマーシャルが頻繁に流れ、巷で流行っているらしいので僕が買ってみた、ペースト状のおやつである。そういえば愛香にはまだ見せたことがなかっただろうか。
「あら、それは」
「これでおびき寄せる。確率は百パーセントではないけれど」
みい、とその名を呼び、まぐろのペーストが入った細長い袋をちらつかせながら開封する。すると、これには素直に反応した、キャットタワーから慎重に床に下ってくる。
「愛香さん、捕まえて」
「はい」
捕獲成功。彼女に「みい」を抱っこしてもらい、そのままおやつを与える。小さな舌を出してそれをぺろぺろと舐める様には、飼い主も目がないらしい、微笑ましくそれを見ている。
そして、その袋の中身が空になったところで、僕が素早くカゴを近くまで移動させ、嵌められたことに気付いた「みい」は野島の腕の中で暴れ出すが、「みい」には申し訳ないと思いつつも、半ば無理やり押し込んでもらい、僕がその扉を閉めた。
「みゃあーおー……」
恨めしそうに鳴く「みい」。いつもの愛くるしい表情が台無しである。
「いい子にしてて。帰ったらいいもの、食べさせてあげますから。――では、よろしくお願いします」
「はい、行ってらっしゃいませ」
映画の中のお嬢様だったら、自分で車を運転するようなことはせず、付き人が晴れの日でも日傘を差して、車まで共に歩き、座席まで案内するのだろうが、ここは現代の日本である。玄関先で彼女と猫を見送り、扉を閉める。
――さて。
洗濯機のところに行くと、鎌谷がちょうど、洗濯物を服用のハンガーと小物用のピンチハンガーにセットし終えたところだった。
「行った?」
「うん。ちょっと、格闘したけど」
「格闘って」
「みいが生存本能を発揮したんだよ」
「何それ」




