10.
その横で、僕たちも朝食を頂く。丸い皿に載ったトースト、その左上にベーコン、右上にミニトマト。そして、サイフォンでの淹れ立てのコーヒー。冷蔵庫からマーガリンと、ブルーベリーとイチゴのジャム、それにマーマレードをテーブルの上に。洋食なので、カトラリーは箸ではなく、もちろんナイフとフォーク。それに、パンに塗るもの用の、バターナイフやスプーン。
「いただきます」
「いただきます!」
お嬢様は四枚切のパンを半分に割り、その一方にマーガリンを、もう一方には果物のソースを。この日はマーマレードを選んだ。鎌谷は果物が好きなので、一枚丸ごとの方にはブルーベリーを、半分の方には、マーガリンを塗った上に苺ジャムを重ねて。僕は柑橘以外の果物は苦手で、特にベリー系は全く受け付けないので、半分の方にマーマレードを、一枚そのまんまの方にはマーガリンを塗りたくる。
「よくマーガリンだけで食べられるよね、パン。オレは絶対無理」
「あいにく一般家庭育ちなもので。僕の家、今テーブルに出てるうちのいずれか一つか二つしか、家に常備されていなかったし」
「しっつれーい」
「あらあら、そこまでにしなさんな」
聞くところによると、鎌谷も野島ほどではないが、両親ともに医師で、上と下に一人ずつ兄と弟がいるが、何一つ不自由なく育ったという。兄は医師として実家のクリニックを継ぐつもりでいて、そこで働いている。弟も大手IT企業に就職、結婚して子供も生まれた。そのため、真ん中っ子である彼自身は、サラリーマンをしていたが出世欲を失い、結婚も特に気が進まなかったため、人生を空しく感じていたときにこの仕事を見つけ、コーヒーを淹れる腕と、洗濯物のたたみ方の良さで彼女のハートを掴んだと聞いている。
彼女は、育ちが全く異なる僕たちが、価値観の違いで少し言い合うようなことがあっても、その大きな包容力でいつも窘めてくれた。彼女が何か言うと、どうも僕たちは、それ以上何か相手に言う気をいつも失うのだった。
「ところで、今日のベーコンの味はどうですか。前回より少し厚めに切ってみたのですが」
「上等です。お母様もいつも上手に焼いてくれていましたけど、それよりも美味しいです」
「……そこまで褒めなくても」
「私が好きで褒めているのですよ」
「……失礼」
彼女は褒め上手でもある。あまり褒め慣れていない僕が、笑顔の彼女から目を逸らしてしまうと、このタイミングだ、と言わんばかりに、オレの淹れたコーヒーは、と鎌谷が聞く。自己主張や承認欲求が強い鎌谷と、それが控えめな僕、そしてお嬢様。彼女はそんな僕たちをいつも楽しそうに見ている。案外、そんな三人でバランスが取れているらしかった。




