私を越えてみろ(第91話)
タッ。
タッ。
タッ。
無数の足音が、暗闇の奥から近づいてくる。
キーリは星剣を構えた。
胸の奥で星が微かに震え、緊張が全身を締め付ける。
「来るぞ」
レオンも剣を抜く。
その刃が青い光を反射し、地下空間に鋭い線を描いた。
「全員、隊列を組め!」
ミナとカイトが左右へ散り、影のように動く。ルミナはキーリの背後へ回り、光を集め始める。ガルドは王国兵を前へ出し、盾を構えさせた。リディアは管理結晶を握りしめ、震える指を必死に抑えている。
そして──オリオンだけが、動かなかった。
「……おかしいです」
キーリが振り返る。
「何が?」
「足音です」
オリオンは暗闇を見つめる。
その瞳は、何かを数えるように細かく揺れていた。
「多すぎます」
「敵が大勢いるってことじゃないの?」
ミナが尋ねる。
「違います」
オリオンは首を横に振る。
「この施設に、生物がこれほど存在するはずがありません」
「じゃあ、何だ?」
「分かりません」
カイトが小さくため息をついた。
「またそれか」
その瞬間、暗闇から一体が飛び出した。
「来た!」
レオンが斬りかかる。
ガキィン!!!
剣が何かに弾かれた。
「硬い!」
姿を現したのは──人型。
全身が白い金属に覆われ、顔はない。胸には星の文明の紋章が刻まれている。
「守護機兵……」
リディアが呟く。
「星の文明の防衛装置です!」
次々と暗闇から姿を現す。
一体。二体。三体。十体。二十体。
数え切れない。
「多すぎるだろ!」
カイトが叫ぶ。
「キーリ!」
ルミナが叫ぶ。
「分かってる!」
キーリが地面を蹴った。
星剣が黄金に輝き、空気を震わせる。
「流星斬!」
横薙ぎの一閃。
光の刃が守護機兵をまとめて吹き飛ばした。
ドゴォォン!!!
「よし!」
だが──倒れた機兵が起き上がる。
「嘘……」
キーリの顔が引きつる。
傷口が青い光に包まれ、瞬く間に修復されていく。
「自己修復機能です!」
リディアが叫ぶ。
「なら!」
ミナが飛び込む。
ナイフが関節を狙う。
「ここ!」
ガキン!
腕が落ちる。
「やった!」
カイトが続く。
「だったら動けなくすればいい!」
短剣が脚を切断し守護機兵が倒れる。
レオンがその頭部を叩き潰した。
「今だ!」
次々と機兵が倒れていく。
だが──数が減らない。むしろ、増えている。
「キリがない!」
ガルドが叫ぶ。
「オリオン!」
キーリが振り返る。
「止められないのか!」
「やってみます」
オリオンが管理結晶へ手を伸ばす。
「ですが、少し時間が必要です」
「何分!」
「三十秒ほど」
「長い!」
「努力します」
キーリが苦笑した。
「頼む!」
星剣を握り直す。
「みんな!」
レオンが叫ぶ。
「ここは俺たちが抑える!」
「了解!」
ルミナの光が広がる。
「光輪!」
白い光が床を走り、触れた機兵の動きが鈍る。
「今よ」
カイトが飛び込み、ミナが続く。
ガルドの剣が機兵を吹き飛ばす。
キーリは中央へ駆けた。
そこには──あの小さな結晶。
『選択』
そう刻まれた結晶が浮かんでいる。
キーリが手を伸ばす。
「……これが鍵」
触れた瞬間、視界が白く染まった。
まただ。またあの記録。星の文明。巨大な都市。
そして──一人の少年。キーリと同じ年頃に見える。少年は一つの星を抱えている。
誰かが叫ぶ。
『その器を止めろ!』
別の声。
『待ってください!』
『あれは星ではない!』
『では何なのですか!』
『分からない!』
映像が乱れる。
少年が振り返るがその顔は──見えない。
だが、少年が口を開く。
『僕は、世界を──』
そこで映像が途切れた。
「……何だったんだ」
キーリが目を開くと結晶が消えている。
代わりに──掌に小さな光が残っていた。
オリオンが息を呑む。
「キーリさん」
「これ……何?」
「分かりません」
「また?」
「はい」
オリオンは真剣な顔で光を見る。
「ですが、重要なものです」
その時、管理結晶が警告音を鳴らした。
『第二観測室、侵食率上昇』
『第二封印核、危険状態』
オリオンの表情が変わる。
「まずいです」
「何が?」
「第二封印核が、外部から攻撃されています」
「カインか?」
「おそらく」
キーリが立ち上がる。
「戻るぞ!」
全員が走り出す。
だが──その途中、ルミナが突然立ち止まった。
「待って」
「どうしたの?」
ルミナは暗闇を見つめる。
「誰かいる」
全員が動きを止めた。
「敵?」
「分からない」
ルミナの表情が険しくなる。
「でも、黒星じゃない」
「じゃあ何だ?」
返事の代わりに。
暗闇から声がした。
「──やっと来たか」
低い声。聞いたことのない声だった。
次の瞬間、白い影が現れる。
それは人間だった。白い外套に長い髪。そして──右目だけが銀色に輝いている。
「誰だ」
レオンが剣を構える。
男は答えない。ただキーリを見る。
「星の器」
その声には敵意がなかった。
むしろ──長い間待ち続けていたような響きがあった。
「お前が来るのを待っていた」
「俺を?」
「ああ」
男は微笑む。
「ここは、星の文明が最後に残した場所だ」
オリオンが一歩前へ出る。
「あなたは何者ですか?」
男はオリオンを見る。
そして、驚いたように目を細めた。
「観測機構の管理者か」
「……ご存じなのですか?」
「もちろん」
男は答える。
「私は、この場所を守るために残された」
「人間……なのか?」
ガルドが尋ねる。
男は少し考え──
「そうだった」
キーリの胸がざわついた。
「だった?」
男は答えない。
代わりに、地下の奥を指差した。
「第二封印核が壊れれば、この王都は消える」
「……!」
「そして」
男の銀眼がキーリを捉える。
「お前が選択を間違えれば」
銀色の瞳がわずかに光る。
「王都だけでは済まない」
空気が凍りついた。
キーリは剣を握る。
「なら、私は間違えない」
男は笑った。
「その言葉」
そして──
「いつまで言えるかな」
男が手を掲げる。
地下空間に巨大な光が走った。
「さあ、星の器」
「第二封印を守りたいなら」
白い光が爆発する。
「私を越えてみろ」
轟音。
地下施設全体が揺れる。
そして──キーリ達の前に、新たな敵が立ちはだかった。
♢♢♢
その頃。王都から遠く離れた黒星教団の神殿。カインは一人、窓のない部屋に立っていた。
目の前には──七つの黒い光。そのうち二つだけが強く輝いている。
第一席。黒炎のラグナ。
第五席。黒星のヴァルド。
カインは二つの光を見つめる。
「まだ動かす必要はない」
静かな声。
「今は、見届けよう」
黒い霧が揺れる。
「星の器が」
カインは呟いた。
「何を選ぶのかを」
そして──誰にも聞こえないほど小さな声で。
「……私たちと同じ選択をするのか」
そう呟いた。
♢♢♢
地下では、キーリと謎の男が向かい合っていた。
キーリの星剣が輝く。
男の銀眼が光る。
そして──第二封印核が、大きく脈打った。
ドクン。
ドクン。
まるで、これから始まる戦いを待ち望んでいるかのように。
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