危険度特級(第83話)
眩い光が収まると同時に、キーリ達の身体は観測機構の転移広間へと投げ出された。
床に叩きつけられた衝撃が全身を駆け抜け、視界がぐらりと揺れる。
「うっ……!」
「みんな、大丈夫か?」
レオンが周囲を見回しながら声を掛ける。
転移広間は薄暗く、壁面に刻まれた星の文明の文字が淡く脈動していた。
まるで第四封印の崩壊を悲しむかのように、光は弱々しい。
「何とかね……」
ルミナが胸を押さえながら息を整える。
「死ぬかと思ったぞ……」
カイトが大きく息を吐き、床に手をついた。
第四封印は完全に崩壊した。
そして、アルクスはたった一人でその場へ残った。
キーリは無意識に右手を握り締める。
胸の奥が重く、熱く、痛む。
「アルクスさん……」
その名を口にした瞬間、胸の奥に広がる不安がさらに強くなる。
「きっと大丈夫わよ」
ルミナが静かに言った。
その声は震えていたが、どこか確信めいた優しさがあった。
「どうしてそう思う?」
「分からない。でも、あの人は千年間ずっと待ち続けてたんだから」
ルミナはキーリの目を見つめる。
「簡単には負けないと思う」
「……ああ」
キーリは小さく頷いた。
だが、不安が消えることはなかった。
千年前、星の文明最強と呼ばれた剣士グラン。
そして、最後の守護者アルクス。
二人の戦いは、今この瞬間も続いている。
その事実が胸を締め付けた。
「それよりも」
オリオンが静かに口を開く。
その声は柔らかいが、芯に強い意志が宿っていた。
「私達には、やるべきことがあります」
「第二封印核のこと?」
「はい」
オリオンは頷く。
「それと、一度王都へ戻る必要があります」
「王都へ?」
ミナが首を傾げる。
「何かあるの?」
「今回の件をガルドへ正式に報告しなければなりません。それに──」
オリオンの視線が、キーリの持つ星導結晶へ向けられる。
「その結晶について調べる必要があります」
キーリは掌に乗る星導結晶を見つめた。
小さな星が内部で脈動し、淡い光を放っている。
その光は、まるで呼吸しているようだった。
『第二封印核への道標』
アルクスは確かにそう言った。
「共鳴率二〇%にならないと使えないんだよな」
「今のあなたの共鳴率は十六%です」
「あと四%か」
「簡単な数字じゃないぞ」
レオンが苦笑する。
「ここまで十五%になるだけでも大変だったんだ。二〇%となれば、今まで以上の試練が待っているだろう」
「でも、進むしかない」
キーリは星導結晶を握り締めた。
その光が指の間から漏れ、淡く揺れる。
「私は知りたいんだ。星のことを。黒星のことを。そして、この世界のことを」
「それがあなたの答えですか」
「今はまだね」
キーリは静かに微笑む。
「でも、最後まで自分の目で確かめたい」
その言葉に、オリオンは僅かに表情を和らげた。
「それでいいと思います」
「え?」
「ようやく星の器らしくなってきました」
「それ、褒めてるのか?」
「半分だけですね」
「半分なのかよ!」
カイトのツッコミに、一同から小さな笑い声が漏れる。
重苦しい空気が少しだけ和らいだ。
その時だった。
『第一管理権限を確認』
『星導結晶との適合を確認』
「!」
「またか!」
キーリの胸元にある星が淡く輝き始める。
星導結晶も呼応するように光を強めた。
『新規情報を開示します』
「新しい情報?」
『第二管理権限解放条件を更新』
『条件その一──共鳴率二〇%への到達』
『条件その二──星導結晶との完全同調』
『条件その三──三つの星の試練を乗り越えること』
「三つの試練?」
「聞いてないぞ!」
「私も初耳ですね……」
珍しくオリオンが目を見開いていた。
「観測機構にも記録は残っていないのか?」
「第二管理権限については、その大半が失われています」
「じゃあ、試練の内容は?」
『現在の権限では開示できません』
「本当に不親切だな!」
「今さらだろ」
ミナが呆れたように肩を竦める。
『追加情報を確認』
『星導結晶が王都地下遺跡へ反応しています』
「王都?」
「地下遺跡だって!?」
「そんな場所があったのか?」
キーリ達の視線が、一斉にガルドへ向けられる。
「……ある」
「あるのかよ!」
「王国最高機密だ」
「そんなの早く言ってくれ!」
「話す必要がなかった」
ガルドは腕を組みながら小さく息を吐く。
「王都地下には、古くから立ち入りが禁止されている遺跡が存在する」
「星の文明の?」
「それは分からん」
「分からない?」
「あまりにも古すぎてな。王国ですら、その正体を正確には把握できていない」
「まさか」
オリオンが小さく呟く。
「第二封印核に関係している可能性があるかもしれません」
「あり得るな」
その時、星導結晶の輝きが少しだけ強くなった。
まるで王都へ向かうことを促しているかのようだった。
「次の目的地は決まりみたいだな」
レオンが静かに微笑む。
「王都か」
「何だか久し振りだね」
「平和だといいけどな」
カイトが苦笑を浮かべた瞬間だった。
『緊急観測情報を確認』
「まだあるのか!?」
『王都周辺に高濃度黒星反応を確認』
『未確認個体を検知』
『危険度──特級』
「なっ!?」
「特級だと!」
オリオンの表情が一変する。
「そんな反応はラグナ級ですよ!」
『追加情報』
『対象名称──不明』
『七矮星との関連性──確認できず』
「七矮星じゃない?」
「ラグナ達以外にも、あのクラスの存在がいるっていうのか」
誰もが息を呑む。
すると、その文字の最後に一文だけが浮かび上がった。
『王都は既に観測されています』
「観測?」
「誰にだ?」
『黒霧』
「!!!」
「カインか!」
『観測完了まで──残り三十日』
『星の器よ。急ぎなさい』
文字はそれだけを残し、ゆっくりと消えていった。
王都。
第二封印核へ繋がる星導結晶。
そして、黒霧のカインが観測する“何か”。
物語は静かに、そして確実に新たな局面へと動き始める。
誰よりも早く真実へ辿り着くのは、星の器か、それとも黒霧のカインか。
新たな旅路の先で待つものを、まだ誰も知らない。
おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします




