星が嘘をつく?(第79話)
「来るぞ!」
レオンの叫びと同時に、灰化した守護兵が巨大な拳を振り下ろした。空気が震え、床が砕け散る轟音が研究区画全体に響き渡る。
「散開しろ!」
キーリ達は咄嗟に飛び退く。
砕けた床から舞い上がった灰が、まるで意思を持つ生物のように蠢き、無数の触手となって襲い掛かってきた。
「まだ来るの!?」
ミナが悲鳴に近い声を上げる。
「これが灰化の力か!」
カイトが短剣で触手を斬り裂く。
だが、斬られた灰はすぐに形を取り戻し、再び伸びてくる。
「普通の攻撃じゃ意味がない!」
「ルミナ!」
「任せて!」
ルミナの杖が強く輝き、眩い光が周囲を満たす。
「聖光陣!」
無数の光の槍が降り注ぎ、灰の触手を次々と消滅させていく。
光が触れるたび、灰は悲鳴のような音を立てて霧散した。
「今だ、キーリ!」
「分かった!」
キーリは星剣を構え、守護兵へと駆け出す。
足元の灰がざらりと音を立て、まるで彼を飲み込もうとするかのようだった。
「流星断!」
蒼き一閃が守護兵の胴を深く斬り裂く。
しかし、その傷口から大量の灰が溢れ出し、瞬く間に再生してしまう。
「再生速度が速すぎる!」
「核があるはずです!」
オリオンが叫ぶ。
「星の文明の守護兵には必ず制御核が存在します!」
「どこにあるの!」
「分かりません! ですが胸の紋章が怪しいです!」
守護兵の胸には、黒く染まった星の文明の紋章が刻まれている。その黒は、まるで光を喰らう闇そのものだった。
「なら、あそこを狙う!」
キーリが飛び出そうとした瞬間──守護兵の両目が赤黒く輝いた。
「危ない!」
ガルドがキーリを突き飛ばす。
次の瞬間、紅黒い光線が二人の間を通り抜け、後方の壁を跡形もなく消し飛ばした。壁が消えた場所には、ただ黒い焦げ跡だけが残る。
「なっ!?」
「冗談だろ……」
ミナが顔を青くする。
「あんなの直撃したら消し飛ぶぞ!」
「キーリ、焦るな!」
ガルドが剣を構え直す。
「敵は強い。だが、一人で戦う必要はない!」
「ガルドさん……」
「忘れるな。お前は星の器だが、一人の人間でもある」
その言葉は、キーリの胸に深く響いた。
「仲間を信じろ!」
キーリは仲間達へ視線を向ける。
皆が武器を構え、自分を信じて立っている。その姿が、胸の奥に温かい力を灯した。
一人ではない。ここまで来られたのは、皆がいたからだ。
「そうだね」
キーリは小さく笑みを浮かべた。
「みんな、力を貸して!」
「もちろん!」
「今さら何言ってんだ!」
「最後まで付き合うわよ!」
仲間達が笑みを浮かべる。その瞬間──胸元の星が強く輝き始めた。
『共鳴反応を確認』
『星の器の精神同調率上昇』
『共鳴率十五・七%から十六%へ上昇』
「共鳴率が!」
「上がった!?」
『新規解析を開始します』
『星剣技の演算補助を開始』
キーリの視界に無数の文字が浮かび上がる。星の力が、彼女の思考と連動して流れ込んでくる。
「これは……」
「どうした!?」
レオンが叫ぶ。
「守護兵の核の場所が見える!」
「何だって!?」
守護兵の身体に無数の光の線が浮かび上がり、その全てが胸の紋章へと繋がっていた。
「あそこだ!」
「なら、私達が道を作ります!」
ルミナが光魔法を展開する。
「レオンさん!」
「ああ!」
「カイト!」
「任せろ!」
「ミナ!」
「了解!」
四人が同時に飛び出す。
「光槍乱舞!」
「迅雷斬!」
「影穿ち!」
「双牙!」
四人の攻撃が守護兵の動きを止める。
巨体がわずかに揺らぎ、胸の紋章が露わになる。
「今だ、キーリ!」
「行く!」
キーリは星剣へ力を込める。
十六%へ到達した共鳴率が、これまでとは比べ物にならないほど星の力を引き出していた。
『星剣技・補助演算完了』
『上位出力を限定解放します』
「これは……新しい力?」
星の力が、一本の蒼き流星となって剣へ集束していく。
身体が自然と動き、星の導きに従うように踏み込む。
「星はまだ眠っている。だけど! みんなとなら、この先へ進める!」
蒼い光が守護兵を包み込む。
「星剣技──天星流・流星閃!」
流星そのものとなった斬撃が一直線に駆け抜ける。
次の瞬間──守護兵の胸に刻まれた黒き紋章が真っ二つに斬り裂かれた。
ギィィィィィィッ!!!
悲鳴にも似た咆哮が響き、巨大な身体がゆっくりと崩れ落ちていく。
「やった!」
「倒したのか!?」
灰となった守護兵は風に溶けるように消えていった。
その跡には、一枚の水晶板だけが残されていた。
「これは……」
キーリが手に取ると、淡い光が辺りを包み込む。
『第四封印観測記録』
『警告』
『第二封印核の覚醒を確認した場合、星の器は選択を迫られる』
『鍵は二つ』
『選ばれし未来は一つ』
『決して全てを信じるな』
『星もまた、嘘をつく』
「!!!」
「星が……嘘をつく?」
誰も言葉を発することができなかった。
星の文明の記録──その星さえも万能ではないと言うのだ。
そして最後に、一文だけが浮かび上がる。
『黒き霧は、既に世界を見ている』
その瞬間、遥か遠く離れた場所で、一人の男が静かに微笑んだ。黒霧の中に座る男。
黒星教団最高指導者、七矮星首座。黒霧のカイン。
「気付いたか」
黒霧が揺らぎ、彼の輪郭がぼんやりと浮かび上がる。
「世界は既に選択を始めている。お前達は何を守る? 世界か。星か。それとも──」
その言葉の先は、誰にも届かない。
一方、第四封印区画の最奥では、巨大な扉がゆっくりと姿を現していた。
「あれは!」
「第四封印の最深部……」
オリオンの表情が僅かに曇る。
「どうした?」
「いや……嫌な予感がしただけです」
「何かあるのか?」
「分かりません。ですが、この先には第二封印核へ繋がる手掛かりが眠っているはずです」
キーリは静かに扉を見つめた。
星は何なのか。黒星とは何なのか。灰化の正体とは。そして、自分は何を選ぶのか。
答えはまだ見えない。だが、その真実へと続く道は確かに目の前にあった。
──そして誰も知らない。第四封印のさらに奥底で、何かがゆっくりと目覚め始めていることを。
「……星の器」
誰にも届かぬ声が、静かに響く。
「ようやく、ここまで来たか」
その声の主を知る者は、まだ誰もいない。
おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします




