表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星を拾った少女  作者: 倉木元貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/76

次は第一席(第72話)

 パチ……

 パチ……


 静かな拍手だけが、広大な記録庫の空気を震わせていた。

 天井は高く、星の欠片を埋め込んだような淡い光が漂っている。無数の結晶棚が整然と並び、どれも冷たい光を放っていた。

 その静寂の中を、黒眼のシオンはゆっくりと歩き始める。

 その歩みには、一切の揺らぎがない。まるで、ここが自分の家であるかのように。


「止まれ!」


 ガルドが剣を向ける。

 声は鋭いが、記録庫の広さに吸い込まれていく。


「これ以上近付くな」


「怖い顔をするな」


 シオンは肩をすくめた。

 その仕草は軽いのに、どこか底知れない。


「私は戦いに来たわけじゃない」


「信用できるか」


 レオンが前へ出る。

 その足取りは慎重で、床の震えすら探るようだった。

 シオンは小さく笑った。


「できないだろうね」


「それが普通だ」


 キーリは星の剣を構えたまま動かない。

 だが胸の奥で、何かがざわついていた。

 レギスとは違う。

 この男から感じるのは圧倒的な威圧感ではない。

 もっと嫌なものだ。

 見透かされている。

 心の奥まで覗かれているような感覚。


「……あんた」


 キーリが口を開く。


「どうやってここまで入った」


「簡単だよ」


 シオンは右目を指差す。


「私は”見る”ことが得意なんだ」


 銀色の瞳が淡く光る。

 その光は、記録庫の結晶の輝きとは違う。

 もっと冷たく、もっと鋭く、もっと“生きている”。


「結界の綻び、魔力の流れ、封印の弱点、全部見える」


 リディアの顔色が変わる。

 その瞳には、恐怖と理解が同時に宿った。


「だから封印を……」


「壊せた」


 シオンはあっさり認めた。


「便利な目だろう」


 オリオンが険しい表情になる。


「黒眼……その力まで継承されていたとは」


 シオンは少し驚いたように眉を上げた。


「知っているのか」


「星文明にも記録があります」


 オリオンは静かに答える。


「万物の綻びを見る異能、ですが、失われたはずでした」


「残念」


 シオンは笑う。


「まだ残っていた」


 その瞬間、銀色の瞳がキーリへ向けられる。


 ゾクリ。


 背筋を冷たいものが走る。

 空気が一瞬だけ重くなったように感じた。


「なるほど。君の星は……」


 シオンは興味深そうに目を細める。


「まだ眠っているのか」


 キーリは剣を握り直す。

 胸の奥で、星がわずかに震えた。


「何を知ってる」


「色々。でも教えない」


 まるで子供のような返事だった。

 だがその軽さが、逆に不気味だった。


「意地が悪いだろ」


 カイトが舌打ちする。


「性格がな」


 シオンは笑顔のまま頷く。


「よく言われる」


 だが次の瞬間、笑みが消えた。

 記録庫の空気が、ひと呼吸分だけ沈む。


「君たちは勘違いしている」


 静かな声だったが、胸の奥に直接響くような重さがあった。


「敵は黒星だと思っている」


「違うのか」


 レオンが問い返す。

 シオンは首を横に振る。


「黒星は敵であり、敵じゃない」


「何を言ってる」


「今は分からなくていい」


 再び笑う。


「その方が面白い」


 キーリは苛立ちを覚えた。

 胸の奥の星が、怒りに反応して熱を帯びる。


「ふざけるな!」


 星の剣を振るう。黄金の斬撃が一直線に走る。

 記録庫の空気が裂けるような音が響いた。

 しかしシオンは避けない。


 斬撃が体を通り抜けた。


「なっ!」


 身体が揺らぐ。

 蜃気楼のように、そこにあるのに触れられない。


「幻影?」


 ミナが驚く。


「半分正解」


 声は後ろから聞こえた。

 全員が振り向く。

 シオンは結晶棚の上へ座っている。

 足をぶらぶらさせ、まるで遊んでいる子供のようだ。


「いつの間に!」


 カイトが飛び出す。短剣が閃く。

 しかし、また空を切る。


「そこじゃない」


 今度は右。


「こっちでもない」


 左。


「残念」


 声だけが移動する。姿は捕まらない。

 空気が揺れるたびに、誰もが一瞬だけ“そこにいる”と錯覚する。

 リディアが必死に魔力を探る。


「反応が一つじゃありません! 十……二十……」


「全部本物に見える!」


 ガルドが低く呟く。


「幻術か」


「違います」


 オリオンが首を振る。


「視覚そのものを書き換えられています。見る者全員が騙されている」


 シオンは拍手した。


「さすが管理者。正解」


 キーリは目を閉じた。

 見えないなら。感じる。

 レギスと戦った時もそうだった。

 星が教えてくれる。胸の鼓動に意識を集中する。


 ドクン。

 ドクン。


 そして、一か所だけ、空気がわずかに揺れた。


「そこだ!」


 キーリは迷わず剣を振るう。


 ガギィン!!


 初めて確かな手応えが返ってきた。

 シオンの笑みが少しだけ消える。

 彼の手には、細身の黒い短剣が握られていた。


「……驚いた」


 シオンは静かに距離を取る。


「もう見つけるか」


 キーリも驚いていた。

 今のは見えたわけじゃない。星が導いた。


「やっぱり」


 シオンは小さく笑う。


「君は面白い」


 銀色の瞳が妖しく輝く。


「だからこそ、首座が欲しがる」


 その言葉と同時に、記録庫の奥から轟音が響いた。


 ドゴォォォン!!!


 床が激しく揺れ、結晶棚が震え、光が乱反射する。

 空気が重く、灰色の圧力が押し寄せてくる。

 オリオンの顔色が変わる。


「第三封印が……! 破られました」


 シオンは満足そうに微笑む。


「これで仕事は終わり」


「待て!」


 キーリが踏み込む。

 しかし、シオンの身体は黒い霧へ溶け始めていた。

 消え際、彼は一言だけ残す。


「次は、本物を連れて来る……第一席を」


 その言葉だけを残し、黒眼のシオンは完全に姿を消した。

 静まり返る記録庫。しかし、その奥では重々しい扉がゆっくりと開き始めていた。

 扉の向こうから漏れ出す灰色の光は、先ほどまでとは比べものにならないほど濃く、禍々しかった。

 オリオンは震える声で呟く。


「……封印区画が、目を覚まします」

おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ