表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星を拾った少女  作者: 倉木元貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/75

道は続く(第61話)

 西側へ回り込むにつれ、遺跡の様子はさらに異様さを増していった。

 正面は白く磨かれた石造りだった。しかし西側は違う。

 壁は大きく崩れ、そこから覗く金属の骨組みは、まるで古代の巨獣の肋骨のように鈍く光っていた。

 風が吹き抜けるたび、崩れた石片が乾いた音を立てる。


「修復途中……いや、違うか」


 リディアが崩れた壁に触れる。指先が冷たい金属に触れた瞬間、彼女の眉がわずかに動いた。


「これは搬入口です」


「搬入口?」


「観測区画の設備を運び込むための通路でしょう」


 キーリは壁に刻まれた文字へ視線を向けた。

 認証鍵が淡く光り、文字も呼応するように青白く輝く。

 その光は、まるで彼を歓迎するかのように柔らかく揺れた。


『第二搬入口』

『管理者認証』

『認証待機』


「また読めるのか」


 レオンが驚きの声を漏らす。


「うん」


 キーリは認証鍵を壁へ近づけた。


 カチリ──。


 小さな音が響く。


 ゴゴゴゴ……


 長い年月閉ざされていた石壁がゆっくり横へ動き始める。

 砂埃が舞い上がり、古い空気が外へ流れ出す。

 その匂いは、乾いた石と金属が混じった、どこか懐かしいような香りだった。


「開いた……」


 ミナが息を呑む。


「認証鍵は本物だったんですね」


 リディアの声は震えていた。興奮と恐れが入り混じった、研究者特有の響き。

 ガルドは剣を抜く。


「兵士隊、先行する」


「いえ」


 キーリが首を振る。


「私が先に入ります」


「危険だぞ」


「認証が必要なら、私が一番安全です」


 ガルドは少し考えたあと、小さく頷いた。


「無理はするな」


「はい」


 キーリはゆっくり通路へ足を踏み入れた。

 ひんやりとした空気が肌を撫でる。

 まるで長い眠りから覚めた遺跡が、彼の存在を確かめているかのようだった。

 長い通路だった。

 天井には無数の光る結晶。

 淡い光は揺らぎながら、まるで星空を閉じ込めたように輝いている。

 何千年も経っているはずなのに、光は失われていない。


「きれい……」


 ミナが見上げる瞳は、子どものように純粋だった。


「これも星文明の技術か」


 リディアは夢中で辺りを見回す。

 彼女の胸は高鳴っているのが見て取れた。

 壁一面には古代文字が並んでいる。

 キーリが近づくと、文字が次々と光り始めた。


『第二管理層』

『観測施設』

『管理権限確認中』

『星の器を確認』


 全員が立ち止まる。


「星の器を確認……?」


 カイトがキーリを見る。


「完全にお前専用じゃねぇか」


 キーリは返事をしようとしたが、その前に──


 キィィン……


 甲高い音が通路に響いた。


「なんだ?」


 レオンが剣を構える。

 壁にはめ込まれていた結晶が赤く変わる。

 一つ。

 また一つ。

 やがて通路全体が赤い光に染まった。


『警告』

『管理者不在』

『施設防衛機構起動』

『侵入者を排除します』


「まずい!」


 リディアが叫ぶ。


 ガコンッ。

 ガコンッ。


 通路の左右に並ぶ石像がゆっくりと動き始めた。

 人型。

 胸には星の紋章。

 腕には剣と盾。


「自動防衛装置か!」


 ガルドが兵士へ指示を飛ばす。


「迎撃準備!」


 石像は十体。

 その瞳が一斉に青く輝く。

 冷たい光が通路を満たし、空気が張り詰めた。


「来るぞ!」


 レオンが飛び出す。


 ギィィン!


 剣と剣が激しくぶつかる。

 火花が散り、衝撃が床へ響く。


「硬い!」


 レオンの一撃でも浅い傷しかつかない。

 別の石像がミナへ迫る。


「速い!」


 ミナは身をひねって斬撃をかわす。

 足元へ滑り込み、ナイフを突き立てる。

 だが。


 ガギンッ。


 刃が弾かれた。


「うそっ!」


「弱点があるはずです!」


 リディアが叫ぶ。


「星文明の防衛装置なら必ず制御核があります!」


 キーリは石像を見る。

 その瞬間、胸の紋章が青く光った。


「胸だ!」


「胸の紋章!」


 レオンがすぐ反応する。


「全員、胸を狙え!」


 カイトが石像の背後へ回る。


「だったら!」


 短剣を全力で突き出す。

 しかし届かない。

 石像が振り返る。


「やべっ!」


「カイト!」


 キーリは駆け出した。

 胸の奥が熱くなる。

 星の剣が黄金に輝く。

 一閃。


 ザシュッ!


 石像の胸を斬り裂く。


 パリンッ!


 青い結晶が砕け散る。

 石像は音を立てて崩れ落ちた。


「それだ!」


 レオンも続く。

 二体目。

 三体目。

 兵士たちも連携し始める。

 ガルドが前衛を押さえ、レオンが隙を作る。

 その隙を突いて、ミナとカイトが胸の核を破壊していく。


「キーリ!」


 ルミナが叫ぶ。


「後ろ!」


 振り返る。

 最後の石像が大剣を振り下ろしていた。


「しまっ──」


 間に合わない。

 そう思った瞬間。

 認証鍵が強く輝いた。


 キィィィン──。


 壁一面の文字が青白く光り始める。


『管理権限を確認』

『星の器を認証』

『防衛機構、停止』


 ガコンッ。


 石像の動きが止まる。

 振り下ろされた大剣は、キーリの頭上数センチで静止していた。

 静寂が訪れる。


「……止まった」


 カイトが大きく息を吐く。

 リディアは認証鍵を見つめ、震える声で呟く。


「防衛装置そのものを停止させた……」


「やっぱり」


 ルミナが小さく呟く。


「星の器にしかできない」


 その直後だった。


 ゴゴゴゴゴ……


 通路の最奥で、大きな扉がゆっくりと開き始める。

 長い年月、一度も開かれなかったかのような重い音が響く。

 その向こうから流れてきたのは、冷たい空気ではない。

 どこか懐かしさを感じる、不思議な気配だった。

 キーリの胸の星が静かに脈打つ。


 ドクン─。


 まるで扉の向こうに、自分を待つ誰かがいるかのように。


「……行こう」


 キーリは星の剣を握り直した。

 その瞳には、恐れと期待が同時に宿っていた。

 誰も反対しない。

 一行はゆっくりと、観測区画のさらに奥へ足を踏み入れた。

 そこで待ち受ける者との出会いが、この世界の真実へ繋がる最初の一歩になるとは、まだ誰も知らなかった。

おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ