光を足す(第51話)
「上だ!!!」
キーリが叫ぶ。その声は張り詰めた空気を裂き、戦場の中心へ鋭く落ちた。
ゼルが空中から落ちる。影の刃が雨粒のように散り、しかしその一つ一つが命を奪うほどの重さを持っていた。
ガキィン!!!
レオンが受け止めた瞬間、火花が白く弾ける。衝撃で地面の砂が跳ね、ガルドがその隙を逃さず薙ぎ払う。
ドォンッ!!!
「数で押す気かよ!」
カイトが黒い地面を蹴る。足裏に伝わる感触は、まるで生き物の背を踏んでいるようだった。
「ならこっちも回転上げる!」
高速連撃。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!!!
影の分体が削れ、黒い霧となって散る。ミナがその隙間を縫うように滑り込む。
「足止めする!」
低く身を伏せ、地面すれすれを滑る。影の匂いが鼻を刺す。
ザンッ!!!
ルミナが前に出る。瞳に宿る光が、揺らぐ影を正確に捉えていた。
「──光、帯びよ」
白い帯が走る。影が焼ける音は、まるで悲鳴のように耳に残った。
だが、地面の黒が脈打つ。
ドクン。
影の分体が補充される。黒い波が足元から這い上がってくるようだった。
「再生源が地面全体にある!」
リディアの声は震えていた。恐怖ではなく、領域の圧に押される感覚。
「ゼルの領域が核!」
「なら核を叩く!」
レオンが踏み込む。靴底が黒に沈むように沈み、しかし彼は迷わず前へ。
「ゼル本体を引きずり出す!」
「任せろ!」
ガルドが突撃。大剣が黒を裂き、道を強引にこじ開ける。
ドゴォン!!!
ゼルが横に滑るように回避。影の中でその輪郭は曖昧で、まるで存在そのものが揺らいでいるようだった。
「遅い」
「抜かせ!」
ガルドが追う。キーリは流れを読む。黒の流動、その中心。
胸の奥がざわつく。腕の痕が微かに疼く。
「……そこだ」
「左奥、三歩先!」
キーリの声は震えていない。むしろ静かで、確信に満ちていた。
レオンが反応。
ガキィン!!!
空を斬るはずの刃が、何か硬質なものを弾いた。
「当たった!」
ミナが目を見開く。
影が剥がれ、ゼルの輪郭が一瞬露出する。冷たい瞳がこちらを見返した。
「今だ!」
カイトが突っ込み、連撃で拘束。
ギン、ギン、ギン!!!
だがゼルは淡々と呟く。
「浅い」
影が反転。カイトの背後から刃が伸びる。
「カイト、後ろ!!!」
「見えてる!」
身を捻って回避するが、頬を掠める。熱い血が一筋流れた。
「チッ!」
ルミナが光を叩き込む。
バチィン!!!
ゼルがわずかに後退。影が揺らぐ。
「押せる!」
リディアが叫ぶ。だがその声の奥には焦りがあった。
「でも時間制限あり、領域が強まってる!」
ドクン。
地面の黒が濃くなる。足が重い。呼吸が少しだけ吸いづらい。
「またかよ……!」
カイトが歯を食いしばる。キーリの腕の痕が疼く。
ドクン。
黒と共鳴しかける。
──取り込め
──速くなる
「……いやだ!」
キーリが低く言う。声は震えていたが、拒絶の意志は強かった。
ルミナが横で囁く。
「揺らがないで。あなたは“流す”側」
「分かってる」
キーリは呼吸を整える。胸の星とリズムを合わせる。
ドクン、ドクン。
白の拍動が黒を押し返す。
「みんな、合わせて!」
キーリが叫ぶ。
「俺の合図で一気に切る!」
レオンが頷く。
「やる」
ガルドが笑う。
「派手にいこうじゃねぇか」
カイトが舌打ちしつつ笑う。
「ようやく見せ場か」
ミナが頷く。
「いけるよ!」
リディアが集中。
「波動同期、いける!」
ルミナが手をかざす。
「光、集約」
キーリはゼルを見据える。黒の中心が揺らぐ瞬間を待つ。
心臓の鼓動が耳の奥で響く。
仲間の気配が背中を支える。
ゼルが言う。
「無駄だ。“器”は揺れる」
影が一斉に襲う。
「今だ!!!」
キーリが叫ぶ。
レオンとガルドが同時に踏み込む。
ガキィン!!!
ドゴォン!!!
カイトが側面から連撃で拘束。ミナが足元を切る。
ザシュッ!!!
ルミナの光が一直線に貫く。
バチィン!!!
影が弾ける。
その中心に──ゼル。
「捉えた!」
リディアが叫ぶ。
キーリが突っ込み、剣に光を集める。
胸の奥で白が強く脈打つ。
「終わらせる!」
だが、ゼルの目がわずかに細まる。
「遅い」
影が、キーリの腕の痕に反応する。黒がそこから逆流するように絡みつく。
「ッ……!」
動きが一瞬止まる。
黒が心臓に触れようとする感覚。
冷たい。
「キーリ!!!」
ミナが叫ぶ。
ゼルが距離を詰める。掌に凝縮された影。
その圧は、触れれば魂ごと削られるほどの重さ。
「選べ。今ここで」
「……もう選んだ」
キーリが歯を食いしばる。腕の黒を押し返す。
背中に、仲間の気配。
その存在が、黒の囁きをかき消す。
「私は──」
ルミナの声が重なる。
「流して」
リディアが叫ぶ。
「波動、合ってる! 今なら通る!」
レオンが吠える。
「撃てぇ!!!」
キーリは踏み込む。黒を“掴まず”、ただ“流す”。
「──星だ!!!」
閃光が走る。
ズバァン!!!
ゼルの影を裂く。だが、核までは届かない。
「……やはり足りない」
ゼルが後退し、影に溶ける。
距離が開く。領域がさらに濃くなる。
空気が重く、黒が視界の端を揺らす。
「くそっ、決め切れねぇ!」
カイトが吐き捨てる。
「あと一手……!」
リディアが焦る。
ゼルが再び姿を現す。影を収束させる。
その姿は、まるで黒い月が満ちる瞬間のようだった。
「次で終わらせる」
空気が張り詰める。
キーリは剣を構える。腕の痕が静かに脈打つ。
ドクン。
「……足りないなら」
小さく呟く。
「足す」
光が、再び集まり始める。
白が黒を押し返し、戦場の中心に新たな拍動が生まれた。
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