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星を拾った少女  作者: 倉木元貴


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黒星との決戦(第46話)

 空間が軋む。

 金属ではない、世界そのものが悲鳴を上げるような音。

 黒が満ち、視界の端から端まで“夜”が押し寄せてくる。


 だが──キーリの周囲だけ、わずかに澄んでいた。

 まるで彼の存在そのものが、黒を拒むかのように。


「……行くぞ」


 レオンの声は低く、しかし揺るぎない。

 黒の圧に押し潰されそうな空気の中で、その声だけが“地面”のように確かだった。


「任せろ」


 カイトが笑う。

 だがその笑みの奥には、張り詰めた恐怖が薄く滲んでいる。

 それでも笑うのが、彼の戦い方だ。


「時間、稼ぐんだろ?」


「絶対通す!」


 ミナの頷きは小さいが、決意は鋼のように固い。

 彼女の指先は震えている。それでも剣を離さない。


「光、最大」


 ルミナの掌に白が集まる。

 その光は、黒の中で唯一“温度”を持っていた。


「波動、固定する!」


 リディアの声は焦りを含みながらも、術式の線は乱れない。

 彼女の額には汗が滲んでいた。


 キーリは目を閉じる。

 胸の奥にある“星”に触れる。

 温かい。

 幼い頃、夜空を見上げたときに感じたような、静かな安堵。


 ──ドクン。


 黒い“種”が応じる。

 冷たい。

 触れた瞬間、心の奥を奪われるような感覚が走る。


 ──混ざれ

 ──満たせ


 誘惑にも似た囁き。

 だがキーリは、静かに息を吐いた。


「……違う。俺は、与える方だ」


 目を開く。

 光が揺らぎから“意志”へと変わる瞬間、空気が震えた。


「来るぞ!!!」


 レオンが踏み込む。

 黒い存在が、音もなく消え──次の瞬間、正面に現れる。


「正面、高速!」


 キーリの声が反射的に飛ぶ。


 ガキィン!!!


 レオンの剣が火花を散らす。

 衝撃で足元の黒い床が波紋のように揺れた。


「重いが──いける!」


 押し返すレオンの腕は震えていたが、目は折れていない。


「左、低い!」


「任せて!」


 ミナが滑り込み、刃が黒を裂く。

 黒は血を流さない。ただ、空気が悲鳴を上げる。


「後ろ三歩、上から来る!」


「見えてるぜ!」


 カイトが跳び、連撃を叩き込む。

 黒が散るが、すぐに再生する。

 その度に、彼の心に焦りが積み重なっていく。


 ──ドクン。


 空間が反転しかける。

 視界が裏返るような感覚に、全員の胃が軋む。


「固定する!」


 リディアの叫びと同時に、見えない“流れ”が束ねられた。

 足場が安定し、呼吸が戻る。


「ナイスだ!」


 カイトが笑うが、その笑みは汗で濡れていた。


「ルミナ!」


「──光、展開」


 半球状の光が広がり、黒の侵食が一瞬止まる。

 その光の中だけ、呼吸がしやすい。


「今だ、道ができた!」


 レオンの声が響く。


「行け、キーリ!!!」


 キーリは駆ける。

 黒の縁を踏み越えるたび、足元が“沈む”ような感覚が走る。

 だが止まらない。


 視界の中心に、“種”。


 ──ドクン。


 脈動が強い。

 引き込まれる。

 心が揺らぐ。


 ──混ざれ

 ──満たせ


「……断る」


 剣に光が集まる。

 圧縮。

 極限まで。


「私は──」


 振り下ろす。


「──星だ!!!」


 白が弾け、“種”に亀裂が走る。


「……まだだ!!!」


 キーリは踏み込む。

 もう一撃。

 光が“流れ込む”。

 奪うのではなく、満たす。

 その感覚に、彼の胸が熱くなる。


 黒が揺らぎ、悲鳴を上げる。


「効いてる!」


「押し切れ、キーリ!!!」


 だが──


 ──ドクン。


 亀裂の奥で、さらに濃い黒が覗く。


「二重構造……!?」


 リディアの声が震える。


 黒が逆流し、光を押し返す。

 キーリの足が止まる。


 ──足りない


 星でも黒でもない、“中間”の囁き。


「……まだ、足りないの」


 その声に、胸がざわつく。


「キーリ!!!」


「押せぇ!!!」


「崩れるぞ、急げ!!!」


 仲間の声が背中に刺さる。

 焦り、恐怖、必死の願い。

 その全部が、彼を前へ押す。


「……貸す」


 ルミナが背に手を当てる。

 温かい光が流れ込む。

 その温度に、キーリの喉が震えた。


「一人じゃない」


 短い言葉が、胸の奥に深く刺さる。


 リディアが叫ぶ。


「波動、同期させる! 全員、合わせて!」


 レオンが刃を当てる。


「支える!」


 カイトが横から押す。


「乗せろ!」


 ミナが背に触れる。


「いけ!」


 ルミナの光が重なる。


 剣が、さらに輝く。


「……そうか」


 キーリは小さく笑った。

 涙が滲むほどの安堵と、仲間への信頼が胸を満たす。


「与えるってのは……一人じゃない」


 剣を振り下ろす。


「──全部、返す!!!」


 白が奔流となり、黒へ流れ込む。


 バキバキバキィン!!!


 殻が砕け、光が“種”へ届く。


 ──ドクン。


 最後の脈動。


 そして──


 パリン。


 音もなく、“種”が崩れた。


 黒い存在が砂のように崩れ、空間が静寂に包まれる。


「……終わったの……?」


 ミナの声は震えていた。


 誰もすぐに答えられない。

 やがてリディアが、ゆっくりと頷く。


「……波動、消失。黒星……完全停止」


「はぁぁぁ……」


 カイトが座り込む。


「マジで死ぬかと思った……」


 レオンが剣を収める。


「よくやった」


 短いが、重い言葉。


 ルミナがキーリを見る。


「……選んだね」


 キーリは黒星のあった場所を見る。

 そこには、何もない。


「……ああ」


 静かに答える。


 だが──足元に、誰も気づかないほど小さな“欠片”が残っていた。


 黒く、静かに。


 ──ドクン。


 ほんの微かな脈動。

 その鼓動に、キーリだけが目を細めた。

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