星の文明の記録(第37話)
映像は、ゆっくりと揺らめきながら、かつて存在した星の文明の都市を映し出していた。
最初に現れたのは、光に満ちた街だった。白い石で造られた高層の塔が空へ伸び、塔の間を光の粒子が流れるように飛び交っている。まるで空そのものが呼吸しているかのように、淡い青の光が都市全体を包んでいた。
だが、その光景は、時間の経過とともに少しずつ変質していく。
空の色が濁り、塔の影が長く伸び、街の輝きがどこか不穏なものへと変わっていく。
空の色はゆっくりと濁り、青から灰色へ、そして墨を流したような黒へと変わっていった。塔の影は異様に伸び、街を覆う光はどこか怯えるように揺らめく。まるで都市そのものが、これから訪れる破滅を予感して震えているかのようだった。
カイトが眉をひそめた。
「雰囲気悪いな……時代の流れって、残酷だな」
ミナも腕を抱えながら言う。
「絶対、何か起きるやつだよ、これ」
リディアは一歩前に出て、映像を凝視していた。
彼女の瞳は研究者のそれでありながら、どこか怯えにも似た光を宿している。
映像の中で、空から一つの星が落ちてくる。
だがそれは、夜空に瞬く星とは違った。輝きを持たず、光を吸い込むような黒い球体。
ルミナが小さく呟く。
「……黒星」
黒い星が地面に衝突した瞬間、都市全体が揺れ、塔の一部が崩れ落ちる。
そして、黒い影のような存在が地表に広がり、人々を襲い始めた。
逃げ惑う人々。
光を纏った戦士──星の器たちが黒い影とぶつかり合う。
光と闇が衝突するたび、空間が歪むような衝撃が走り、記録室の空気さえ震えた。
ミナが息を呑む。
「まるで……戦争だよ……」
カイトも低く言う。
「しかも、規模が桁違いだ」
リディアは蒼白になりながら呟いた。
「これが……星の文明の最後……」
映像はさらに激しさを増す。
都市の建物が次々と崩れ、巨大な塔がゆっくりと倒れていく。
その瓦礫の中、ただ一人、長い衣をまとった人物が星装置の前に立っていた。
古代の研究者──そんな雰囲気を纏った人物だった。
その人物が星装置に手を触れると、空へ向かって光が放たれた。
同時に、キーリの胸の星が強く脈打つ。
映像の人物が空に向かって言葉を残す。
その声は直接響くのではなく、文字となって空中に浮かび上がった。
キーリはその文字をゆっくりと読み上げる。
「『もし──この記録を見る者がいるなら──』」
記録室の空気が凍りつく。
誰もが息を潜め、キーリの声だけが響く。
「『星は希望だが、黒星は──』」
そこで文字が途切れた。
リディアが焦った声で言う。
「読める? キーリ」
キーリは目を閉じ、胸の星に意識を向けた。
星が淡く光り、言葉が頭の中に流れ込んでくる。
そして、静かに口を開いた。
「黒星は……星が壊れた姿」
その言葉に、全員が息を呑む。
その言葉を自分の口で言った瞬間、胸の奥に冷たいものが落ちた。もし自分の中の星も、いつか同じように壊れてしまうのだとしたら──そんな不安が影のように広がる。それでも目をそらせなかった。逃げれば、星が泣く気がした。
ミナが震える声で言う。
「壊れた……姿?」
カイトが眉を寄せる。
「つまり、星が失敗すると黒星になるってことか……?」
リディアは唇を噛んだ。
「もしそれが本当なら……星の力そのものが危険ということになる……」
ルミナが静かに言う。
「星は……希望であり、同時に破滅の種でもあるということね」
キーリの胸の星が、まるでその言葉に応えるように、静かに光った。
映像の最後。
古代の研究者が星装置を見つめながら、最後の言葉を残す。
「『未来の星の器へ──』」
キーリが続けて読む。
「『世界は、まだ終わっていない。黒星は、また現れる』」
そして最後の文字。
「『その時、星の器よ──君が世界を選べ』」
光がふっと消えた。
記録室は、深い静寂に包まれる。
誰もすぐには言葉を発せなかった。
ただ、胸の奥に重い石を置かれたような感覚だけが残る。
やがてミナが、ぽつりと言った。
「……内容が重すぎるよ」
カイトも苦笑しながら言う。
「想像より、ずっとでかい話だったな」
リディアは壁にもたれ、深く息を吐いた。
「星の文明……黒星……そして星の器……」
レオンがキーリを見る。
「お前……どうするつもりだ?」
キーリはしばらく黙っていた。
胸の星が、まだ微かに脈打っている。
その光は、不安を煽るものではなく、むしろ『進め』と背中を押すような温かさを帯びていた。恐れは確かにある。黒星の記録を見た今、その重さは以前よりもはっきりと形を持って胸に沈んでいる。それでも──逃げるという選択肢だけは、どうしても自分の中に生まれなかった。
そして、キーリは静かに言った。
「……私、旅を続ける」
ミナが笑う。
「何言ってんの、最初からそうでしょ」
キーリはふっと笑い、記録室の天井──その先にある空を見上げた。
夜になれば、星が見えるだろう。
その中には、まだ落ちていない星もある。
そして、どこかには黒星へと変わる運命の星も。
キーリは剣を握りしめた。
星の器として、自分の答えを探すために。
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