表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星を拾った少女  作者: 倉木元貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/75

三勢力の対峙(第34話)

 地下深く──星塔の最下層。

 空気はひどく冷たく、湿り気を帯びて肌にまとわりつく。

 石壁に刻まれた古い紋様は、まるで生き物のように淡い光を脈打たせ、地下室全体に静かな呼吸を与えていた。

 天井は高く、闇がどこまで続くのか分からない。そこに散らばる星々のような光点は、星装置の反射か、それともこの場所そのものが持つ古い魔力なのか──判別できないほど神秘的だった。


 中央に据えられた星の装置は、巨大な水晶を中心に複雑な金属の輪が幾重にも重なり、ゆっくりと回転している。

 その光は脈動し、まるで巨大な心臓が鼓動しているように、地下室の空気を震わせていた。


 キーリの剣もまた、装置に呼応するように震え、淡い光をまとっていた。

 剣身に映る彼女の横顔は緊張に強張り、瞳の奥には恐れと覚悟が入り混じっている。

 ヴァルドと対峙するその姿は、光と影の狭間に立つように見えた。


 その時──上階から、重く規則正しい足音が響いた。

 石段を踏みしめる音が、地下の静寂を切り裂き、空気を震わせる。

 その足音は、まるで地上の秩序がこの混沌へ侵入してくる合図のようだった。


 カイトが振り向き、低く呟く。


「来たな」


 通路の奥から現れたのは、鎧に身を包んだ兵士たち。

 王国軍──その紋章が星の光を反射し、鈍く光る。

 彼らが踏み込むたび、床に落ちた瓦礫が小さく跳ね、金属音が重なり合って響いた。


 ミナが息を呑み、小声で言う。


「本当に来た……」


 兵士たちの後ろから、一人の男が姿を現した。

 長い赤いマントを引きずり、鋭い眼光を持つ男。

 その存在だけで、空気が一段重くなる。

 まるで地下室の温度がさらに下がったかのように、周囲の空気が張り詰めた。


 レオンがわずかに目を見開いた。


「……隊長」


 男──ガルド・レイヴン。

 王国軍の指揮官の一人であり、かつてレオンの上官だった。


 ガルドは周囲をゆっくりと見渡す。

 倒れた兵士、散乱した瓦礫、そして**黒星教団**の残した痕跡。

 星装置の光が彼の鎧に反射し、赤いマントの裏地を淡く照らす。

 視線が最後に止まったのは、星装置に触れているキーリだった。


「なるほど……」


 ヴァルドが軽く手を振る。


「やあ」


 ガルドの目が細くなる。


「黒星教団」


 兵士たちが一斉に剣を構え、空気が張り詰めた。

 金属が擦れる音が、星装置の脈動と重なり、不協和音のように響く。

 この狭い地下室に、三つの勢力が同時に存在している。

 カイトが苦笑混じりに呟く。


「カオスだな」


 ヴァルドはしばし考え、肩をすくめた。


「今日はここまでにしよう。人が増えすぎた」


 ミナが叫ぶ。


「またそれ? また逃げるの?」


 ヴァルドは愉快そうに笑う。


「王国軍相手は面倒でね。犠牲は少ない方がいい」


 そして、キーリへ視線を向ける。


「また会おう──星の器。次は逃がさない」


 影が床から湧き上がり、黒星教団の兵士たちを包み込む。

 影はまるで液体のように揺らぎ、光を飲み込みながら広がっていく。

 次の瞬間、彼らの姿は闇に溶けるように消えた。


 残されたのは、星の装置の光と、重い静寂だけ。


 王国軍の兵士たちが周囲を警戒する中、ガルドがレオンに視線を向ける。


「説明してもらおうか、レオン」


 レオンは剣を下ろし、短く答える。


「星の塔が襲われました」


「それは見れば分かる。俺が聞きたいのは──」


 ガルドの鋭い視線が、キーリへ向けられる。


「その少女のことだ」


 空気がさらに張り詰めた。

 キーリはわずかに肩を震わせる。

星装置の光が彼女の頬を照らし、その影が揺れる。

 自分が見られている──その事実が、胸の奥を冷たく締めつけた。


 リディアが一歩前に出る。


「彼女は、私の研究の協力者です」


 ガルドは疑わしげに目を細めたが、今は追及しない。

 代わりに星装置へ目を向ける。


 光が、先ほどよりも強くなっていた。

 水晶の中心が脈動し、天井の星々が明滅する。

 まるで夜空そのものが地下に降りてきたかのようだった。


 リディアが青ざめる。


「まずい……キーリ、起動しすぎ」


「え? 何が?」


 天井の星空が、まるで本物の夜空のように輝き始める。

 光は脈動し、星々が瞬き、地下室が幻想的な光景に変わっていく。

 床に落ちた瓦礫でさえ、星の光を受けて宝石のように輝いた。


 ガルドが問う。


「止められないのか?」


「星の器しか……」


 全員の視線がキーリに集まる。

 胸の奥がざわつく。

 逃げたい気持ちと、やらなければという責任感がせめぎ合う。


 キーリは震える手で水晶に触れた。


 瞬間、光が爆ぜるように広がり、星々が天井いっぱいに散った。

 ミナが叫ぶ。


「逆効果じゃない?」


 だがルミナは首を振る。


「違う……星が収束してる」


 キーリの胸の星が、装置と同じリズムで脈動する。

 その光は、まるで彼女の心臓が世界とつながっているかのようだった。

 光が彼女の髪を揺らし、衣服の縁を淡く照らす。


 やがて、光はゆっくりと弱まり、星空は消えていく。

 最後に、小さな光だけが残り──それも静かに消えた。


 リディアが大きく息を吐く。


「止まった……」


 カイトが肩を落とす。


「心臓に悪い……」


 ガルドはキーリをじっと見つめていた。

 その視線は、ただの少女を見るものではない。

 力を持つ存在──国家が放っておかない存在を見る目だ。


「その力……ただの協力者ではないな」


 レオンが前に出る。


「事情があるのです、ガルドさん」


 ガルドはしばし沈黙し、そして言った。


「……いいだろう。今はレオンの言葉を信じよう。だが──」


 キーリを指す。


「その少女を、王国は放っておかない」


 キーリは何も言えなかった。

 胸の奥が、冷たい水に沈められたように重くなる。


 星の器。

 黒星教団。

 王国。


 三つの勢力が、自分を見ている。


 星塔の戦いは終わった。

 だが、物語はここからさらに大きく動き始める。

おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ