第三勢力(第33話)
地下深く──星塔の最下層にある星装置の間。
湿った石壁が冷気を孕み、わずかな振動でも砂粒が落ちるほど古びた空間だった。
天井には星空を模した巨大な魔法陣が刻まれ、淡い光を放っている。だが今は、戦いの熱気と叫び声がその神秘をかき消していた。
カイトの短剣が、星明かりを反射して鋭く光る。
ザッ!
黒星教団の兵士が胸を押さえて崩れ落ちた。
血の匂いが石床に広がり、湿った空気に鉄の味が混じる。
すぐ横を、ミナのナイフが風を裂いて飛ぶ。
「はい! 次!」
軽い声とは裏腹に、刃は正確に敵の肩へ突き刺さる。
ミナの額には汗が滲んでいたが、その目は獲物を追う猫のように鋭い。
後方ではルミナが両手を掲げ、魔力を集中させていた。
彼女の周囲だけ、まるで空気が澄んだように静まり返る。
「ライトバースト!」
白光が弾け、爆風が数人の兵士を吹き飛ばす。
光の余韻が残り、影が揺れた。
だが、敵の影はまだ濃い。
通路の奥から、黒いローブの集団が途切れなく押し寄せてくる。
レオンはヴァルドと剣を交えていた。
火花が散り、金属音が地下に響き渡る。
キィン!!!
ヴァルドは余裕の笑みを浮かべていた。
その瞳は、戦いを楽しむ獣のように光っている。
「いいね。人間なのにここまでやる。アレスの言った通りだ」
レオンは荒い息を整えながら、相手の目を睨む。
腕は痺れ、呼吸は苦しい。それでも退く気はなかった。
「お前は、人間じゃないのか」
ヴァルドは首をかしげ、まるで本気で考えるような素振りを見せた。
「さあ。どうだろうね」
その瞬間、影が揺れ、ヴァルドの姿が掻き消えた。
レオンの背筋が粟立つ。反射で後ろへ剣を振る。
ガン!!!
刃と刃がぶつかり、衝撃が腕を痺れさせた。
ヴァルドは楽しげに笑う。
「勘がいいね」
その頃──キーリは星装置の前に立っていた。
胸の白星が脈打つように光り、装置中央の巨大な水晶が呼応するように輝き始めていた。
水晶の内部では、星のような光点がゆっくりと回転している。
リディアが驚きの声を上げる。
「反応してる!」
キーリは目を見開いた。
「わ、私、何もしてないのに……」
「近づくだけでも起動するんだ」
リディアの声は震えていた。
床に刻まれた星模様が淡く光り、天井の星空がゆっくりと動き始める。
まるで夜空そのものが息を吹き返したようだった。
ルミナが呟く。
「星が……動く」
その神秘的な光景に、敵味方の区別なく一瞬だけ視線が奪われた。
だが、カイトが叫ぶ。
「おい! 敵増えてる!」
通路の奥から、さらに黒星教団の兵士が押し寄せてくる。
ミナが顔をしかめた。
「何、この量! キリない!」
レオンが叫ぶ。
「キーリ! 星の装置を使え!」
キーリは振り向き、迷いを見せる。
「でも……!」
リディアが強く言う。
キーリの指先が水晶へ近づくにつれ、空気が震え、髪がふわりと浮いた。
胸の白星は鼓動のように脈打ち、まるで「進め」と背中を押してくるようだった。
「大丈夫だ。星は君に反応してる!」
キーリは震える手を伸ばし、水晶に触れた。
瞬間──。
光が爆ぜ、地下の部屋全体が真っ白に染まった。
黒星教団の兵士たちが目を覆い、ヴァルドでさえ目を細める。
「これは……」
星装置が完全に起動した。
天井の星空が回転し、無数の星粒がキーリの身体へ吸い込まれるように集まっていく。
光は温かく、しかし鋭い。
キーリの胸の奥に、熱い何かが流れ込んでくる。
ルミナが息を呑む。
「星が共鳴している……」
キーリの剣が光を帯び、これまでとは比べ物にならないほど強く輝いた。
カイトが口笛を吹く。
「パワーアップしたのか」
ミナが笑う。
「主人公っぽいね!」
ヴァルドは興味深そうに目を細めた。
「いいね……それ。やりがいがありそうだ」
キーリは剣を握り直す。
胸の奥で、何かが静かに燃え始めていた。
恐怖ではない。
逃げたい気持ちでもない。
──守りたいという、強い意志。
一歩、前へ踏み出す。
「白星剣」
光の斬撃が走り、轟音とともに黒星教団の兵士を一気に吹き飛ばした。
ズン!!!
石床が震え、天井の星が揺れる。
カイトが羨ましそうに言う。
「派手だね。羨ましい」
その瞬間、ヴァルドが影のように動いた。
キーリの目の前に現れ、黒い刃を振り下ろす。
キーリも剣を振る。
ドン!!!
白星と黒星の力がぶつかり、衝撃波が部屋を揺らした。
ヴァルドは数歩後ろへ下がり、口角を上げる。
「やっと、面白くなってきた……本気で行っても大丈夫だな」
だがその時──。
塔の上層から、耳をつんざくような警報が鳴り響いた。
金属を叩くような甲高い音が、地下まで震わせる。
リディアが顔を上げる。
「え……?」
レオンが叫ぶ。
「どうした、何があった!」
リディアは青ざめた顔で呟いた。
「これ……黒星教団じゃない」
カイトが眉をひそめる。
「じゃあ何が来たんだ?」
リディアは震える声で答えた。
「王国軍だ……」
空気が一瞬、凍りついた。
ミナが呆然と呟く。
「え?」
つまり、この星塔には今──
キーリたち、黒星教団、そして王国軍という三つの勢力が同時に存在している。
地下の戦いは、さらに混乱の渦へと飲み込まれていった。
おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします




