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星を拾った少女  作者: 倉木元貴


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地下の戦い(第32話)

 星塔の地下に、甲高い警報音が響き渡った。


 カン! カン! カン!


 石壁に反響し、耳を刺すような音が空間を満たす。

 冷えた空気が震え、壁に埋め込まれた古い魔導灯がびくりと明滅した。

 ミナが思わず耳を押さえた。


「うるさいな警報の音!」


 レオンはすぐに状況を判断し、剣の柄に手をかける。

 その横顔には、警戒の影が深く落ちていた。


「敵は上から来る。各自、準備をするぞ」


 カイトが短剣を回し、軽く肩をほぐした。

 刃が空気を切るたび、地下の冷気がわずかに揺れる。


「黒星教団だろ。キーリのストーカー」


 ルミナが静かに目を閉じ、気配を探る。

 彼女の周囲だけ、空気が水面のように静まり返った。


「うん。この気配は間違いない」


 地下の空気がわずかに震え、冷たい風が通路の奥から流れ込んでくる。

 湿った土と古い石の匂いが鼻を刺し、遠くで水滴が落ちる音が響いた。


 リディアは焦りを隠せず、中央の装置へ視線を向けた。

 青白い光を帯びた星の装置が、静かに脈動している。


「まずいな」


 キーリが不安そうに尋ねる。


「何が、まずいの?」


 リディアは星の装置を指差す。

 その指先がわずかに震えていた。


「ここが知られたら、黒星教団がこの装置を狙う」


 キーリは装置を見つめた。

 星を呼ぶ機械──星を地上に導く力。

 装置の中心に浮かぶ光球が、彼女の胸の星と同じ色で脈打つ。


 もし黒星教団が使えば、何が起こるのか。

 胸の奥がざわつき、嫌な予感が喉元までせり上がる。


 レオンが言う。


「我々で守るしかない」


 カイトが苦笑しながら短剣を握り直す。

 その笑みの奥に、戦いへの覚悟が滲んでいた。


「防衛戦か。苦手ではないけど、嫌いだな」


 ミナがナイフを抜き、目を細める。

 刃に反射した魔導灯の光が、彼女の瞳に鋭く宿る。


「久しぶり。たぎるね」


 その時──上階から爆発音が響いた。


 ドォン!!


 天井の石が震え、砂がぱらぱらと落ちてくる。

 衝撃で空気が一瞬押しつぶされ、胸がきゅっと締めつけられた。


 リディアが青ざめて呟く。


「突破されたみたいだ」


 レオンは即座に指示を飛ばす。

 声が石壁に反響し、緊張が一気に張り詰める。


「各自、配置につけ!」


「ミナとカイトは入り口! ルミナは後方支援。キーリの護衛も頼んだ!

 キーリは中央で星の準備をしてくれ!」


 ミナが笑う。


「了解!」


 カイトも頷く。


「任せろ!」


 キーリは星装置の近くに立ち、胸に手を当てた。

 胸の星が、脈打つように光を放つ。

 その光が装置の表面に反射し、地下室に淡い星光が広がった。


 リディアが横に来て、小声で言う。


「もしもの時、この装置を使うかもしれない」


「どうやって?」とキーリ。


「星の器……キーリが触れるだけで、反応する」


 キーリは息を呑む。

 自分が触れるだけで星が動く──その重さが肩にのしかかる。

 指先が冷たくなり、心臓の鼓動が耳の奥で響いた。


 その時、通路の奥から足音が響いた。

 規則的で、重く、数が多い。

 石床を踏むたび、低い振動が足元に伝わる。


 カイトが短剣を構える。


「来たか」


 暗闇の奥から影が現れた。

 黒いローブをまとった十人以上の影。

 揺れる松明の光に照らされ、ローブの裾が波のように揺れる。

 その足取りは迷いがなく、まるでこの場所を熟知しているかのようだった。


 ミナが呟く。


「何この人数……多すぎでしょ!」


 先頭の男が低く言う。


「ここだ。ここが──星の装置の部屋だ」


 黒星教団の兵士たち。

 そして、その後ろからゆっくりと歩いてくる影。


 白髪で細い身体。

 薄い笑みを浮かべた男。


 ヴァルド。


 ミナが小声で毒づく。


「またあいつ。しつこいな」


 ヴァルドは楽しげに笑い、手を広げた。

 その動きに合わせて、黒い霧のような魔力が足元に揺らめく。


「こんばんは。そしてお久しぶり──星の器」


 カイトが即座に突っ込む。


「まだ昼だ」


 ヴァルドは肩をすくめる。


「細かいね。僕らの世界ではもう夜なんだよ」


 そして星装置へ視線を移す。

 その目が、狂気じみた輝きを帯びた。


「やっぱりここにあった」


 レオンが剣を構え、前へ出る。

 剣先がわずかに震え、床に星光が反射する。


「ここで止めるぞ!」


 ヴァルドは愉快そうに笑う。


「無理だよ。何人で来たと思っているの」


 指を鳴らす。


 黒星教団の兵士たちが一斉に動いた。


「捕らえろ!」


 戦闘が始まった。


 カイトが最前線に飛び込み、短剣が一人の腕を斬り裂く。

 ミナのナイフが次々と飛び、二人が倒れる。

 ルミナの光魔法が炸裂し、敵が吹き飛ぶ。

 光が石壁に反射し、地下室が一瞬昼のように明るくなる。


 だが──敵の数は圧倒的だった。

 黒いローブが波のように押し寄せ、レオンが前線で必死に支える。

 剣と剣がぶつかり、火花が散る。

 金属音が耳を打ち、空気が焦げたような匂いを帯びた。


 キーリは中央で星の力を集めていた。

 胸の星が強く光り、鼓動が速くなる。

 星の装置が微かに震え、光を返す。

 床の紋様が淡く浮かび上がり、星光が脈動する。


 ヴァルドがその光を見て、恍惚とした声を漏らす。


「いいね、もっと見せて。星の力を」


 そして──黒い影のように姿を消した。


 ルミナが叫ぶ。


「キーリ!」


 キーリが振り向く。


 すぐ背後に、ヴァルドが立っていた。

 黒い霧が彼の足元にまとわりつき、空気が冷え込む。


「取った」


 黒い刃が振り下ろされる。


 その瞬間。


 ガン!!


 レオンの剣が割り込んだ。

 火花が散り、金属音が響く。

 衝撃で床の紋様が揺らぎ、星光が波紋のように広がった。


 レオンが低く言う。


「こいつだけは通さない」


 ヴァルドは楽しげに目を細める。


「また君か。君もしつこいね」


 レオンは一歩も引かず、剣を押し返す。


「何度でもだ。お前だけは、何があっても倒す」


 キーリは胸の星を握りしめる。

 星の力が、熱となって全身を駆け巡る。

 鼓動が星装置の振動と重なり、世界が光に満たされていく。


 戦いはさらに激しさを増し──その中心で、星装置が初めて動き出した。


 低い振動が床を伝い、天井の星光が脈動する。キーリの胸の星と、装置の光が共鳴し始める。


 星が呼ばれようとしていた。

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