地下遺跡(第31話)
アストラの中心部にそびえる〈星の塔〉は、白い石を積み上げて造られた巨大な建造物だった。
街のどこからでも見えるその塔は、昼の光を受けて淡く輝き、夜には星明かりを吸い込んで静かに光を返す。塔の周囲には風が渦を巻き、白石の表面に刻まれた古い紋様が、光の角度によって浮かび上がったり沈んだりする。まるで塔そのものが呼吸しているようだった。
近づくほどに、その圧倒的な高さが実感を伴って迫ってくる。
キーリは足を止め、首が痛くなるほど見上げた。
「高い……ここまでのは初めて見た」
塔は空へ突き刺さるように伸び、雲の切れ間へ吸い込まれていく。
ミナが目を細めて言う。
「この高さは、登るの大変そう」
カイトが肩をすくめ、苦笑した。
「階段何百段だろうな。登り切ったら、何もできなさそう」
リディアが胸を張って言う。
「そんなに心配しなくても大丈夫! 研究者用の昇降機があるから。よく見てごらんなさいよ。私が、何百段の階段を登れると思う」
沈黙が落ちた。
カイトが即答する。
「無理だな」
ミナが吹き出す。
「何それ! 便利!」
塔の入り口には兵士が立ち、鋭い視線で周囲を見張っていた。
リディアが軽く手を上げる。
「星研究部門、リディア・セルフィア」
「確認した」
兵士は頷き、重厚な扉を押し開けた。
塔の内部は外観以上に広大だった。
丸いホールは白石の壁に星図が描かれ、天井は高く、光が反射して淡い青色を帯びている。中央には巨大な観測装置が鎮座し、金属と水晶が複雑に組み合わさっていた。
空気はひんやりとして、どこか乾いている。星を観測するために調整された空気なのだろう。
キーリは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
星の力が反応している──それはルミナも同じだった。
「星の力が……強い」
リディアが振り返り、興味深そうに目を細める。
「星の力を感じるの?」
キーリは小さくうなずいた。
「うん」
リディアは満足げに微笑む。
「やっぱり。私の予想通り。さすが〈星の器〉」
レオンが周囲を警戒しながら問う。
「この塔は何だ?」
リディアは歩きながら説明を始めた。
「表向きは星の観測塔。でも本当は──」
そこで足を止め、振り返る。
「古代遺跡」
ミナが眉をひそめる。
「また古代遺跡……?」
カイトが苦笑する。
「最近多いな。もう前みたいなことは勘弁だぞ」
リディアは階段を降り始めた。
「星の古代遺跡は上じゃない。下にあるの」
「地下?」とキーリ。
「そう。誰でも入れないようにね」
塔の地下へ降りるにつれ、空気がひんやりと変わった。
石造りの通路は地上の建築とは明らかに異なり、壁には古い文字が刻まれている。灯りの魔石が淡く光り、影が揺れた。
足音が石に反響し、静寂が深まっていく。
ルミナが小さく呟く。
「星の文明……?」
リディアがうなずく。
「ここの遺跡は王国が発見したの。数十年前にね」
通路の奥に重厚な扉があった。
リディアが装置に手を触れると、低い振動が足元を伝う。
ゴォン……
扉がゆっくりと開き、冷たい空気が流れ出した。
中は巨大な円形の部屋だった。
床には星の模様が描かれ、中央には透明な水晶の柱が立っている。天井には星空のような光が瞬き、まるで夜空そのものが閉じ込められているようだった。
光はゆっくりと脈動し、部屋全体が呼吸しているように見える。
ミナが息を呑む。
「星空みたい……きれい」
キーリは胸が強く脈打つのを感じた。
次の瞬間、胸の星が光を放つ。
ルミナが驚いたように振り向く。
「キーリ……」
リディアが言う。
「これが──星の装置」
レオンが問う。
「何をする機械だ」
リディアは真剣な表情になり、言葉を選ぶように続けた。
「主な用途は星を観測すること。そして──」
深呼吸をしてから言った。
「呼ぶの」
「呼ぶ?」とキーリ。
「そう。星は自然に落ちるだけじゃない。この装置で地上に導くことができる」
空気が重く沈む。
ミナが青ざめる。
「それって……やばくない?」
カイトが乾いた笑いを漏らす。
「星を落とす装置か……」
ルミナは天井の星を見上げ、静かに言った。
「だからか」
「だから?」とキーリ。
「この塔、昔から星が多く見える」
「その通り」とリディア。
そしてキーリを見る。
「そして、星の器が近づくと──」
装置が淡く光り始めた。
キーリの胸の星が共鳴し、部屋全体に光が広がる。
レオンが驚愕する。
「……反応した」
リディアの目が輝く。
「やっぱり。本物だ」
キーリは戸惑いながら胸に手を当てる。
「私?」
「君は、この装置を起動できる可能性がある」
その瞬間──塔の上階から警報が鳴り響いた。
カイトが振り向く。
「なんだ?」
外から兵士の叫び声。
「侵入者!」
ミナが顔をしかめる。
「タイミング悪すぎ。もしかしてまた……」
ルミナの表情が険しくなる。
「黒星教団……奴らだ」
リディアが低く呟く。
「早すぎる。まるでこのタイミングを狙っていたみたい……」
レオンが剣を抜き、仲間たちを守るように前へ出る。
「来たか。だが、やることは決まっている。キーリと星の装置を守る」
キーリの胸の星が再び光を放つ。
その光は、まるでこれから起こる戦いを予告するかのように、部屋の壁に揺らめく影を作った。
星の塔。星の装置。そして黒星教団。
アストラの街で、新たな戦いが幕を開けようとしていた。
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