塔の中の激闘(第28話)
キーリの剣に集まる光。小さな星の粒が、塔の薄闇を押し返すように渦を巻き、白い尾を引きながら回転していた。
塔の中が眩しく輝く。古い石壁に刻まれた星紋が、呼応するように淡く脈動する。
ヴァルドの目が細くなっていた。その瞳は、少女の力を値踏みするように冷ややかだった。
胸の奥で、キーリの鼓動が強く跳ねていた。
恐れは確かにある。だが、それ以上に、星の光が身体の中心に集まっていく感覚が彼女を前へ押し出していた。
自分が何者なのか、まだわからない。けれど、仲間を守るために立つことだけは迷わなかった。
「それが、君の新しい力?」
キーリは答えない。ただ、踏み込む。
床石がわずかに軋み、光の粒が尾を引いて散った。
少女の瞳には、迷いよりも決意の色が濃かった。
床を蹴り、一瞬で距離を詰めた。
「白星剣!!!」
剣が振り下ろされ、星の欠片が一斉に弾けた。
白い閃光が塔の空気を裂き、衝撃波が波紋のように広がる。天井から砂塵がぱらぱらと落ちた。
ヴァルドは横に跳んで避けたが、完全には避け切れず肩を光がかすめた。
黒いローブが裂け、そこから黒い霧が漏れた。
ヴァルドの表情に、わずかな驚きが走る。
「当たった⁉︎」
キーリの胸に、かすかな安堵が灯る。
だが、その光はすぐに引き締まった。
この男はまだ本気ではない。少女は直感でそれを理解していた。
二撃目。
ヴァルドは霧となって移動する。姿が揺れ、輪郭が曖昧になる。
だが、星の粒は彼の周囲に残り、淡い光で位置を示していた。
キーリの視線が鋭くなる。
星の粒が教えてくれる。
自分の力が、確かに敵を捉えている。
「見える。そこだ!」
剣を突き出す。
黒い霧がそれを弾くが、ヴァルドはわずかに後退した。
霧が床に触れた瞬間、冷気が広がり、石が白く曇る。
少女の背筋に冷たいものが走る。
この男は、まだ余裕を残している。
それでも、退く気はなかった。
「なるほどね。これが……面白い」
その時、後ろから音がした。
アレスの剣が肩に刺さったまま、レオンが膝をついていた。
血が床に落ち、星光に照らされて黒く光る。
ミナが叫ぶ。
「レオン!」
レオンは荒い息を吐きながらも剣を離さない。
その姿を見た瞬間、キーリの胸が痛んだ。
自分がもっと強ければ、彼を傷つけずに済んだのではないか。
そんな思いが、少女の心を締めつけた。
「これで終わりだ」
アレスの黒星の力が膨らむ。
塔の空気が重く沈み、黒い圧が床を這うように広がる。
光が押し返され、影が揺れた。
キーリは叫ぶ。
「やめて!」
その声には、恐怖と怒りと、仲間を守りたいという焦燥が混ざっていた。
ヴァルドが軽く手を上げる。
「アレス」
アレスの動きが止まる。
「なぜ止める」
「今日はここまでだ」
ミナが怒る。
「は? なんでだよ!」
ヴァルドは笑う。
その笑みは、少女の必死さを嘲るように軽かった。
「星の器の新しい力も見れたし、仕事はできた」
キーリを見るそのヴァルドの視線は、少女の怒りも悔しさも、すべてを“価値のある反応”として楽しむ冷たさを帯びていた。
「星の器──また遊ぼう」
キーリの胸がざわつく。
“遊ぶ”という言葉が、彼女の尊厳を踏みにじるように響いた。
怒りが、星の光よりも熱く胸に燃え上がる。
アレスは剣を引き、納めた。
レオンが崩れそうになり、ミナとカイトが支える。
キーリはその姿を見て、唇を強く噛んだ。
守りたい。
その思いが、少女の中で静かに形を変え始めていた。
ヴァルドは出口へ歩き、振り向く。
「次会うときは、もっと強くなっててね」
キーリは睨む。
「逃げるのか、卑怯者!」
ヴァルドは笑う。
「まさか。違うよ。これは──君たちを蹂躙するための準備」
黒い影が二人を包み、光を吸い込みながら渦を巻く。
瞬きした瞬間、二人の姿は消えていた。
消える直前まで、ヴァルドの視線はキーリだけを捉えていた。まるで、少女の未来をすでに掌の上に置いているかのように。
塔の中には静寂が戻る。
残されたのは、星光の余韻と、黒い霧の冷たさだけ。
「逃げたの?」
「どうやら、そうみたいだな」
キーリはレオンのもとへ駆け寄る。
「レオン! 大丈夫?」
レオンは苦笑する。
「ああ、肩を少し切られただけだ。死んではいない」
ルミナの治癒魔法が光を放ち、傷を包む。
温かい光が広がるのを見ながら、キーリは胸の奥に重いものを感じていた。
守れた。
けれど、守りきれなかった。
その事実が、少女の心に静かに沈んでいく。
「黒星……想像以上の力だった」
「幹部が二人だったもんな……よくやれた方だよ」
「あのいけすかないやつ、またくるのかな?」
「また来るに決まっているわ。あいつら、キーリを酷く狙っているから」
キーリが星石を握ると、胸の星がかすかに光った。
ヴァルドの言葉が、少女の心に影を落とす。
“準備”
その言葉の意味が、まだ掴めない。
だが、自分が狙われているという事実だけは、痛いほど理解できた。
「街に戻ろう。そして我々ももっと、力をつけよう。今回の反省点は多い」
全員がうなづく。
キーリは塔の天井を見上げた。
星の模様。古代の文明。星の力。黒星教団。
そして──少女自身の運命。
物語は、まだ始まったばかりだった。
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