星の欠片(第27話)
塔の中央で、戦いは二つに分かれた。
レオンとカイトとミナVSアレス。
そして、キーリとルミナVSヴァルド。
塔の中心は、星の光が差し込むはずの天井が黒星の気配に濁り、薄暗い空気が揺れていた。石床には戦いの余熱が残り、焦げた匂いが漂う。
ヴァルドは壁にもたれたまま、まるで観劇でもしているかのように、楽しげな目でキーリを見ていた。
その視線は軽く、しかし底の見えない深さを持っている。
「緊張してるの?」
キーリは剣を握りしめた。
手のひらは汗ばんでいる。胸の奥がざわつき、呼吸が浅くなる。だが、それを悟られたくなかった。
「し、してない」
ヴァルドが喉の奥で笑う。
その笑いは、挑発というより“観察者の愉悦”に近かった。
「あはは、君は、嘘をつくのが下手くそだね」
ゆっくりと前に出る。
その足取りは散歩のように軽く、床に落ちる影だけが不気味に揺れた。
キーリは星の力を手に集める。
胸の星が脈打つように光り、熱が身体の中心から広がっていく。
ヴァルドが言う。
「正直面白いよ、君」
キーリは眉を寄せる。
この男は何を考えているのか、本当に読めない。
「何がよ。何も面白くなんてない」
ヴァルドは笑い、指を一本立てた。
「普通。星の器って、力がもっと暴走するもんなんだ。でも、君は違う」
少しだけ首を傾げる。
その仕草は無邪気だが、言葉の裏には鋭い興味が潜んでいた。
「なんでだろうね。不思議だね」
キーリは答えない。
胸の奥で、恐怖と怒りと焦りが渦を巻く。
だが、それを押し込めるように──一気に踏み込んだ。
「星剣!」
光の斬撃がヴァルドの首を狙う。
だが、スッとヴァルドの身体が霧のように揺れ、剣がすり抜けた。
「……え?」
次の瞬間、背後に気配。
ルミナが叫ぶ。
「キーリ後ろ!」
「遅いよ」
ドンッ!!!
背中に衝撃。
肺の空気が一気に押し出され、視界が白く弾ける。
キーリは床を転がり、石の冷たさが肌に刺さった。
ルミナが叫ぶ。
「キーリ!」
すぐに光魔法がかけられ、温かい光が傷をなぞる。
だが、痛みは完全には消えない。呼吸もまだ乱れていた。
「何……今の」
ヴァルドが指を振る。
「黒星の力。その一つ、影の移動。前にアレスが見せたと思うけど」
「厄介だ……」
「褒めてくれてありがとう」
ヴァルドはまた消えた。
気配が霧散し、塔の空気が一瞬静止する。
ルミナが叫ぶ。
「キーリ、上!」
見上げると、黒い影が落ちてくる。
ヴァルドの刃が黒い光をまとい、空気を裂いていた。
キーリは咄嗟に剣を上げる。
ガキィンッ!
火花が散り、衝撃が腕を痺れさせる。
「くっ……」
ヴァルドの目が細くなる。
「よく耐えれたね」
ルミナが魔法を構えるが、ヴァルドの蹴りが先に来た。
キーリは壁に叩きつけられ、息が詰まる。
ルミナは光のかべを作る。
「悪くないけど、それは意味ないよ」
一振りで砕かれた。
「まだまだ」
ルミナの攻撃は霧の身体に触れず、虚空を切るだけ。
ヴァルドは歩くように近づいてくる。
「星の器──もっと強いと思っていたのに」
キーリは歯を食いしばる。
痛みで膝が震える。
でも──倒れたままではいられなかった。
「……まだ」
ヴァルドが首を傾げる。
「まだ? その身体でどうしようと言うんだい?」
キーリは立ち上がる。
膝は震えていたが、それでも胸の奥に灯った光だけは揺らがなかった。
胸の星が強く光り、鼓動が塔全体に響くように感じた。
「まだ終わってない」
その頃、レオンたちの戦いも激しさを増していた。
アレスの剣が黒く光り、レオンの剣とぶつかるたび、塔の空気が震える。
レオンは押されていた。
カイトもミナも援護に入れないほど、二人の剣撃は激しかった。
「お前、なかなかやるな。ただの人間なのに」
「人間だからな」
レオンは剣を押し返す。
その目は折れていない。
「いいな。その剣」
アレスの斬撃がレオンの肩を裂く。
血が飛び散り、ミナが叫ぶ。
「レオン!」
それでもレオンは下がらない。
「まだだ!」
アレスが黒星の力を膨らませる。
塔の空気が重く沈む。
ルミナが呟く。
「まずい。黒星の力を使う気だ」
キーリも感じていた。
アレスの圧力、黒星の脈動。
ヴァルドが言う。
「アレス。そろそろ終わらせてくれる?」
「ああ。もう終わる」
その瞬間──キーリの胸の星が強く光った。
ルミナが驚く。
「そんな……共鳴している」
キーリの頭に、さっき見た映像がよみがえる。
古代の塔。星の装置。星の光。
そして──“集まる”感覚。
「……星を集めることができる?」
キーリは剣を握り直す。
ヴァルドの目が興味で輝く。
「何? どう言うこと?」
だが、次の瞬間、ヴァルドの表情が変わった。
キーリの周りに、小さな光が浮かび始めた。
一つ。二つ。三つ。
空気が震え、星の欠片が舞う。
ルミナが息を呑む。
「星の……欠片」
カイトが叫ぶ。
「まさか、新しい技?」
ヴァルドが笑う。
「いいねいいね。ぜひ見せておくれよ」
キーリは深く息を吸う。
星の欠片が剣に吸い込まれ、光が強くなる。
光は呼吸するように脈打ち、塔の空気そのものが震えているように感じられた。
そして──
「白星剣」
剣が輝き、塔の中が昼のように明るくなった。
ヴァルドの目が細くなる。
「これは……」
次の瞬間、キーリは踏み込んだ。
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