表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星を拾った少女  作者: 倉木元貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/75

星の塔での戦い(第26話)

 星の塔の入り口。

 そこから吹き込む風は、まるで塔の奥底から吐き出される怨嗟の息吹のように荒れ狂い、砂粒を鋭い刃へと変えて肌を刺した。

 塔の内部で戦った熱気は、外気に触れた瞬間に奪われ、キーリの体温を容赦なく引きはがしていく。

 彼は思わず肩をすくめ、胸の奥に残る戦闘の余熱が、冷気に押しつぶされるような錯覚を覚えた。


 その風の中に、二つの影が立っていた。

 黒星教団の幹部、アレス。そして、白髪の男──黒星のヴァルド。

 塔の荒れた空気よりも冷たく、重く、圧迫感を伴う存在感。

 彼らの立つ場所だけ、まるで光が吸い込まれているかのように暗く沈んで見えた。


 ヴァルドは塔の内部をゆっくりと見渡す。

 倒れ伏した石の守護者。崩れかけた床。

 そして──キーリたち。

 その視線は、獲物を値踏みする捕食者のそれで、ほんのわずかな動きすら逃さない冷徹さがあった。


 ヴァルドは楽しげに笑う。

 その笑みは軽いのに、底が見えない深淵のような冷たさを孕んでいた。


「思ったより強いみたいだね──星の器」


 その声が響いた瞬間、キーリの背筋に氷の針が走る。


 アレスはキーリを見据えていた。

 黒い炎のように揺れる瞳。そこに宿る執念は、塔の闇よりも濃かった。


「星の器。今度こそ」


 キーリは剣を握り直す。

 手のひらに汗が滲むが、逃げる気は微塵もなかった。

 前衛のレオンが一歩前に出る。その足音が、塔の静寂に重く響く。


「ここで止めるぞ」


 アレスは静かに言った。

 その声は、運命を告げる鐘の音のように冷たく、揺るぎなかった。


「お前には無理だ……諦めろ」


 次の瞬間、アレスの身体から黒い光が広がる。

 塔の空気が一気に重くなり、まるで闇そのものが形を持って押し寄せてくるようだった。

 床の砂が震え、壁の影がざわめく。


 ミナが眉をひそめる。


「なんか、嫌な魔力の気配がする」


 ルミナの銀髪が、黒い気配に反応するように揺れた。

 彼女の表情は険しく、光の魔力がわずかに震えているのが見て取れた。


「星じゃない」


 カイトが短剣を構え、低く言う。


「じゃあ、なんだ?」


 ルミナは短く答えた。


「黒星……」


 その言葉が落ちた瞬間、塔の空気はさらに冷え込んだ。

 まるで見えない氷が空間を覆ったかのように、呼吸すら重くなる。


 ヴァルドが軽く拍手する。


「さすが運び手。よく知っているね」


 キーリが問う。


「ルミナ。黒星って?」


 ヴァルドは笑う。

 その笑みは、底なしの闇を隠しきれない。


「星には二種類ある」


 一本の指を立てる。


「光の星。そして──」


 もう一本の指が立つ。


「闇の星」


 ミナが息を呑む。


「何それ……聞いたことない」


 カイトが小声で言う。


「何にせよ、敵であることには変わらない」


 レオンが剣を構え直す。


「来るぞ」


 アレスが前に出た。

 床が割れ、黒い残光を引きながら、瞬きより速くレオンの前へ。

 キーリはその動きを目で追えず、息を呑む。


 剣と剣がぶつかり、火花が散る。

 塔の壁に反射した光が、一瞬だけ闇を押し返した。


 レオンの表情に驚きが走る。


「思っているよりもずいぶん速い……」


 アレスは冷たく言う。


「こんなのまだ序の口」


 次の斬撃。

 レオンが受け止めるが、その重さに足が沈む。

 その隙を狙い、カイトが横から攻撃を仕掛けた。


 短剣がアレスへ──

 だが、黒い幕のようなものが剣を弾いた。


 カイトが舌打ちする。


「何今の……」


 ヴァルドが笑う。


「黒星の力。便利だろ?」


 ミナのナイフ、ルミナの光魔法。

 だがアレスは影のように滑らかにかわし、攻撃は一つも届かない。


 キーリは星の力を解放する。


「星剣!!!」


 光の刃が塔の闇を裂く。

 その輝きに、アレスが初めて動きを止めた。


 キーリが剣を掲げ、アレスも構える。


 ドンッ!!!


 星と黒星。光と闇。

 力と力がぶつかり、塔全体が震えた。

 天井から砂がぱらぱらと落ち、空気が震動する。


 アレスがわずかに後退し、キーリを見据える。


「……なるほど。星の力は本物のようだ」


 ヴァルドが言う。


「アレス。遊びすぎだ」


 アレスは肩を回し、笑う。


「ええ、わかってますとも。力を見せるのはここからですよ」


 次の瞬間、アレスの身体がさらに黒く染まる。

 黒い霧が渦を巻き、塔の空気が震え、光が押しつぶされる。


 レオンが叫ぶ。


「まずい。全員、目の前に集中しろ!」


 アレスが消え──

 キーリの背後に現れた。


 ルミナが叫ぶ。


「キーリ!!!」


 振り向いた瞬間、アレスの剣が振り下ろされる。

 冷たい殺気が肌を刺し、時間が一瞬だけ伸びたように感じた。


 だが──レオンの剣が割り込む。


「お前の相手は、この俺だ!」


 アレスが愉悦を滲ませる。


「いい剣だ。戦い甲斐があるな」


 本気の斬撃。

 レオンが受け止めた瞬間、地面が割れ、砂が爆ぜる。

 キーリは思わず目を細めた。


「レオン!」


 ミナが叫ぶ。


「キーリ! 今のうちにヴァルドの相手をしてくれ!」


 カイトの声が飛ぶ。


 キーリが振り向く。

 ヴァルドは壁にもたれ、戦う気配すら見せず、ただ楽しげに戦いを眺めていた。

 その余裕が、逆に恐ろしい。


 ヴァルドが言う。


「こっちも始める?」


 キーリは剣を構える。

 心臓は早鐘のように鳴っていたが、足は震えていなかった。


「行く。レオンを一人にはできない」


 ルミナが言う。


「キーリ。気をつけて。あいつ、まだ何か持っている」


 ヴァルドの目が光る。

 星の光とはまるで違う、底なしの闇の輝き。


「いいね。それでこそ、星の器だよ」


 塔の中で、戦いが二つに分かれた。


 レオン・カイト・ミナ VS アレス

 キーリ・ルミナ VS ヴァルド


 そしてこの戦いで、キーリは初めて本当に追い詰められる。

おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ