星の塔への冒険(第24話)
レクトの街を出て、半日。
街の景色は徐々に変わって行き、草原、丘。そしてやがて──荒れた大地になった。
乾いた風が頬を刺し、砂が靴の隙間から入り込んでくる。遠くの空は白く霞み、どこか世界の端に近づいているような錯覚さえあった。
「ここが北の荒野?」
ミナが顔をしかめる。砂の匂いと乾いた空気に、彼女の眉が自然と寄っていた。
カイトが答える。
「そうみたいだな。ずいぶんと荒れ果てている」
彼の声は落ち着いていたが、視線は常に周囲を警戒していた。
岩と砂の土地。木はほとんどないか枯れている。風が強く、時折目を塞ぎたくなる砂嵐が起きる。
キーリはそのたびに瞬きをし、胸の奥に小さな不安が積もっていくのを感じた。
レオンは遠くを見ていた。
「遺跡はこの先だ」
その声には、経験者特有の緊張と覚悟が滲んでいた。
ルミナは目を閉じていた。そして言う。
「星の力を感じるわ」
風に揺れる銀髪が、淡く光を帯びて見えた。
ルミナはゆっくりと指を差した。
先には、遠くの丘。その向こうに、細長い影が見えた。
「あれ?」
ミナが目を細める。
「塔……みたいだな」
カイトが呟く。声がわずかに低くなっていた。
キーリの心臓の鼓動が少し早くなる。そして、胸が少し熱くなった。
星の力が反応している。まるで塔が自分を呼んでいるような、そんな感覚。
「あれが……」
レオンが言った。
「星の塔だ」
古代文明の遺跡。
数百年前から存在していると言われている。だが、今はこの場所に、ほとんど人は近づかない。
理由は一つ。魔物も出て、危険だから。
「まだ、お宝ありそう」
ミナが言う。期待と恐怖が入り混じった声だった。
「あったらいいな」
カイトが笑うが、その目は油断していなかった。
レオンが振り向く。
「宝探しもいいが、油断はするなよ。遺跡には魔物がいる。だが、どんな魔物がいるのかはわからない」
「わかった。気を付ける」
キーリは強くうなずいた。自分の声が少し震えているのを自覚しながら。
一行は丘を越えた。そして、塔の全体が姿を現した。
「……すごい……大きい」
キーリは思わず立ち止まった。
石でできた塔。高さはおそらく数百メートル以上。
表面には、星のような模様がいくつも刻まれていた。
風に削られているはずなのに、その紋様はどこか神秘的な輝きを保っていた。
「星の文明……」
ルミナがつぶやく。
「予想していたよりも、随分遺跡は残っているな」
レオンも驚きを隠せない様子だった。
「ここから入れるんじゃない?」
ミナが塔の入り口を見つける。
扉は開いていた。
数メートルはある巨大な扉。半分壊れている。
その隙間から、冷たい空気がゆっくりと漏れ出していた。
「日が暮れない間に行くか」
カイトが言う。
レオンが先頭に立つ。
「俺が前衛を務める。一番後ろはカイト、お前に任せる」
「ああ。わかった」
カイトが短く返す。
キーリたちは、レオンの後ろに続いた。
塔の中は暗かった。石の床。高い天井。そして壁には不思議な模様が数々。
足音が反響し、まるで塔そのものが彼らを見つめているようだった。
「星の文字……」
ルミナが壁に触れる。
「ルミナ、読めるの?」
キーリが聞く。
「少しだけね」
ルミナは静かに答えた。
「さっきから思っていたけど、この塔の中静かすぎない?」
カイトが周囲を見渡す。
その言葉に、キーリの背筋がひやりとした。
その瞬間、廊下の奥から音がした。
ガリ……ガリ……
石を引きずるような、不気味な音。
「魔物が来る」
ミナが小さく言う。
暗闇の中から、影が出てきた。
四本足で、硬そうな身体。赤い目。
その目が光った瞬間、キーリの喉がひゅっと鳴った。
「魔物……」
「石獣だ! 気をつけろ!」
レオンが叫ぶ。
次の瞬間。石獣が吠えて、飛びかかってくる。
レオンが前に出る。
剣を振るうと、金属と金属がぶつかったような高い音が響いた。
火花が散り、石獣の体表に白い傷が走る。
「さすが石獣。硬いな」
レオンが笑う。
カイトが横から攻撃。
「……っ。本当に硬いな」
ミナも背後からナイフで斬りつける。
「まるで石を相手にしているみたい」
ルミナは光魔法で援護し、キーリも剣を構えて飛び込む。
石獣の咆哮が塔の中に響き、床が震えた。
数分後。石獣は、倒れた。
「疲れた……」
ミナが息を吐く。
「さすが遺跡だな。初っ端から強すぎ」
カイトが笑う。
その時、ルミナが廊下の奥を見る。
「まだ……何かある」
「ルミナ。何を感じているの?」
キーリが聞く。
「星……星がある」
ルミナの声は震えていた。
指差した先は塔の中央。そこには、巨大な部屋があった。
天井は丸く、まるで夜空のようだった。
そして、部屋の中央に、光る装置があった。
キーリの胸がドクンと鳴る。星の力も強くなる。
「これ……」
「間違いない……星の装置だわ」
ルミナが言う。
「何が起こるかわからない。触れない方がいい」
レオンが警告する。
だが、その瞬間、キーリの足元に光の円が広がった。
星の魔法陣。
塔全体が震える。
「何? 何? 何が起きてるの?」
ミナが叫ぶ。
天井に星の模様が光る。
「星の塔が──試練を受けろって言ってる」
ルミナが驚きの声を上げる。
「どう言うこと?」
キーリが問う。
「星の器を──試す装置みたい」
ルミナが答える。
その瞬間、塔の奥から巨大な影が動いた。
地面に手をつかないと立てないほどの揺れ。
レオンはふらつきながらも剣を構えた。
「来るぞ!」
暗闇の中から現れたのは、巨大な石の守護者。
高さは三メートル。身体は完全に石。
目だけが、不気味な光を放っていた。
「……こいつがフロアボスってわけね」
ミナがつぶやく。
守護者がゆっくり腕を上げた。
そして、キーリを見た。
「星の器──試練を受けてもらう」
次の瞬間。戦いが始まった。
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