俺の名はレオン(第21話)
夜の広場。空には星が輝いていた。
その光は冷たく、まるでこの場の緊張を見下ろしているかのようだった。
その下で、二つの集団が向かい合っていた。
黒星教団。
そしてキーリたち。
カイトが小さく言う。
その声には、戦士としての直感が張りつめていた。
「中央の男。間違いなく強いぞ」
キーリもうなずく。
胸の奥がざわつく。あの男を見ただけで、肌が粟立つ。
「うん……強そう」
ルミナははっきりと言った。
その目は冷静で、しかしわずかに恐怖を押し殺している。
「相当強いわよ。私たち以上に」
ミナがナイフを握る。その手は少し震えていた。
彼女の震えは恐怖だけではない。仲間を守りたいという焦りも混じっていた。
「逃げる方がいい?」
カイトが笑う。
その笑みは強がりではなく、覚悟を固めた者のものだった。
「もう遅いかもね」
その時、黒星教団の男──アレスがゆっくりと動き出した。
コツ……コツ……
静かな足音。だが、空気だけでわかる。
普通じゃない。
アレスが言う。
その声は静かで、しかし底に冷たい刃が潜んでいた。
「君が星の器か」
キーリが答える。
胸の奥に恐怖があるのに、声は自然と強くなった。
「それがどうした」
アレスが少し笑う。
その笑みは、獲物を見つけた捕食者のそれだった。
「面白い」
剣を抜く。黒い刃。
月の光を吸い込むような漆黒。
その瞬間、広場の空気が一段冷えた。
「試してみようか」
次の瞬間、アレスは消えた。
キーリが目を見開く。
「え?」
カイトが叫ぶ。
「速いぞ!」
アレスはもう目の前にいた。
黒い剣が振られる。キーリは慌てて受けた。
高い金属音が響く。
衝撃が腕を焼くように走り、キーリは後ろに吹き飛ぶ。
「ぐっ」
腕が痺れる。
強い。今までの敵とはまるで違う。
“勝てないかもしれない”という言葉が胸をかすめる。
アレスが言う。
「なるほど。まだ、弱いな」
ミナが怒る。
その怒りは恐怖を押しつぶすためのものだった。
「なに!」
ナイフを投げる。が、アレスは片手で弾いた。
ミナのナイフが床に転がる。
ミナは驚いていた。
「嘘……」
立ち尽くしていたミナを見て、カイトが動く。
消えるような速度で、アレスの背後から短剣で狙った。
だが──アレスは振り向くこともせず、剣を振るう。
高い金属音が響く。
カイトの短剣は最も簡単に弾かれた。
カイトは距離を取る。
その顔には焦りと、戦士としての興奮が入り混じっていた。
「これは……相当厄介だな」
ルミナが光を放つ。白い閃光がアレスを直撃する。
あたりには白い煙が立ち込めていたが、煙の中から声がした。
「その程度か」
アレスは無傷だった。服についた埃をパンパンと払った。
その余裕が、逆に恐怖を増幅させる。
ルミナの顔が青くなる。
「そんな……私の魔法が効かないなんて」
アレスは、キーリに向かって歩く。
その歩みはゆっくりなのに、逃げ場を奪う圧があった。
「星の器──」
剣を構える。
「皆殺しに慣れたくなかったら、力を見せろ」
キーリは歯を食いしばる。
胸が熱い。星の力。だが、また迷う。
ここは街の中だ、使えば街に被害が出るかもしれない。
その一瞬の迷い。それを、アレスは見逃さなかった。
「遅い」
剣が振られる。
剣がキーリの肩を斬った。
熱い痛みが走り、キーリはその場でひざまずいた。
「ぐっ」
ミナが叫ぶ。
「キーリ!」
カイトが動こうとする。だが、教団の兵士が立ちはだかる。
「くそっ……邪魔な奴らだ」
ルミナも抑えられる。
焦りと恐怖が胸を締めつける。
アレスがキーリの前に立つ。そして、剣を向ける。
「終わりだ。星の器」
その時だった。高い金属音がして、アレスの剣が止まった。
誰かが剣で受け止めていた。
長い剣。それに黒いマント。
見たこともない、知らない男だった。
キーリが驚く。
「……誰?」
男は振り返らずに言った。
その声は低く、しかし不思議な安心感があった。
「立て」
アレスが目を細める。
「誰だ! 貴様!」
男はゆっくりと剣を構えた。
その動きには無駄がなく、研ぎ澄まされた静けさがあった。
そして、少しだけ笑った。
「ただの通りすがり……と言いたいとこだが──」
キーリを見て、そして言った。
「お前、星の器だろ」
キーリが驚く。
胸が跳ねる。なぜ知っている?
「なんで……そのこと?」
男は答えない。代わりに名乗った。
「俺の名はレオン」
剣士。その剣から、ただならぬ気配が出ていた。
その存在だけで、空気が変わる。
アレスが笑う。
「お前、強そうだな」
レオンも笑う。
「お前こそな」
次の瞬間、二人が同時に動いた。
剣と剣がぶつかり合い、高い金属音が響く。
その衝撃波で、広場の石畳が崩れる。
カイトが呟く。
「……何だこの戦い……ヤバすぎだろ」
ミナも言う。
「これが──本物の戦い」
キーリはその光景を見ながら思った。
この世界には、まだ知らない強者がたくさんいる。
そして──自分はまだ弱い。
だが、レオンが叫ぶ。
「星の器!」
キーリが顔を上げる。
「力を使え! 街の心配はするな!」
剣と剣がぶつかり合う音の中でレオンは言った。
「俺が全部受け止める!」
その言葉で、キーリから迷いの文字が消えた。
キーリの胸が光り、星が呼ばれる。
戦いは──次の瞬間、さらに激しくなる。
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