【第12話】新たなる限界乳母の溺愛! 〜私の腕は酢味噌で食べると美味しいらしい〜
【オクタビア様の家系図】
【父方:ポセイドン側】
• 祖父:クロノス
言わずと知れたティターン神族の王。ゼウスやポセイドンたちの父です。
神話では「自分の子供を飲み込む」という恐ろしい逸話を持つ巨神ですが、本作では「孫娘のあまりの可愛さに、飲み込んだものを全部吐き出してデレデレになる」という、究極の孫馬鹿としての顔を見せてくれるかもしれません。
• 祖母:レア
クロノスの妻であり、大地の女神。子供たちを夫から守り抜いた強い母親という側面を持ちます。
孫のオクタビア様に対しても、最強の「おばあちゃん」として、リコたち近衛賢母隊を凌駕するほどの溺愛を見せてくれることでしょう。
【母方:アムピトリーテー側】
• 祖父:ネーレウス
アムピトリーテー様の父。予言の力を持ち、変幻自在に姿を変えることができる、穏やかで賢い「海の老人(海神)」です。
海の知恵袋的な存在であり、孫娘のために未来予知を駆使して「先回りして最高級の貢ぎ物を持ってくる」ような、知的な孫馬鹿ぶりが期待されます。
• 祖母:ドーリス
ネーレウスの妻であり、大洋神の娘。
彼女たちの間にはアムピトリーテー様を含む五十人の人魚「ネレイデス」が生まれています。
つまり、オクタビア様には**「四十九人の美しい叔母さん(人魚)」**がいることになります。神殿の賑やかさは、もはや避けられない運命です。
【家系の要約】
オクタビア様は、まさに神域のサラブレッドです。
• ポセイドン側: 破壊的で情熱的な「神の力」
• アムピトリーテー側: 穏やかで知的な「海の慈愛」
この二つの頂点の血を引く、唯一無二の「愛の女神」がどのような運命を辿るのか。
いよいよ始まる祖父祖母連合との対峙にご注目ください!
「あー、オクタビア様成分、補給しました!」
そう言いながら、リコはまた私に頬擦りしてくる。
「さあオクタビア様、少し窮屈ですが、ご辛抱してくださいね」
リコはそう言って、自分のローブのような服の胸元を開けると、私をその中にふんわりと包み込んだ。顔までがすっぽりと覆われてしまう。
『外は見えないけれど、リコの体温が直に伝わってきて……あー、優しさに包まれるー。なんだか、すごく落ち着くわー』
服越しに、リコの手のひらによる規則正しいリズム――お尻トントンが優しく伝わってくる。
『あーもうだめ、抗えない……。この赤ちゃんの体が、ついに眠りに負ける……』
次に意識が覚醒した時には、私は誰かに抱っこされた状態でお乳を飲んでいた。私の大人の精神がハッとして、周りの状況を確認する。
『うん、あの最初の悪趣味な黄金の部屋だ』
『リコ? え!? リコじゃない。あなたはだーれ? どなたですかー?』
そう問いかけつつも、お乳は離さない。相当お腹が空いていたのか、喉がゴキュ、ゴキュと鳴る。両手をしっかりと添えて、無我夢中で飲んでいる私。
『誰だろう。この美味しいお乳を飲ませてくれてる人』
じーっと、その女性の顔を下から見る。
そしてお腹がいっぱいになって、お乳から口を離す。
「さあオクタビア様、ゲップをしましょうね。上手にできますかねー」
女性はお乳をしまい、そう言って肩に私の頭を乗せると、背中をトントンと叩き始めた。
『あーゲップね! あー出る!』
げぶっ!
「おー、オクタビア様、上手に出ましたねー!」
そう言って、今度はお姫様抱っこの体勢にされた。そして私の顔から体全体を、舐めるように見てくる。
「あぁ、オクタビア様ー!」
『めっちゃ嫌な予感がする』
その女性は私のお腹あたりに顔を埋めて、スーハーと深く息を吸い込みながら「グリグリグリー!」と顔でくすぐってきた。
『ちょ、くすぐったーーい!』
「キャッキャ!」
大人の意識とは裏腹に、赤ちゃんの生理的な反応で、たまらず笑い声が漏れてしまう。
それを見て、女性はまた「グリグリグリー!」と顔を私のお腹に押し当てて振動させる。
「オクタビア様ー! ほら! グリグリグリ!」
「キャッキャ!」
『あー、リコと違って、あなたはダイナミックなそっち派なのね』
私はくすぐられすぎて息ができない状態でありながら、冷静にそんな事を考えていた。
しかし甘かった。今度は猛烈な頬擦りを始める。
『確信めいた嫌な予感……これはくる……』
そして始まる、恐怖のほっぺた吸引。しかもリコより力が強い。
『いたたた! いたた! ちょちょ、伸びる伸びる! ほっぺた伸びちゃうよー!』
私を散々いじり倒し、そのシャチの人魚女性は満足したのか、最後にまた優しく私に頬擦りをした。
ようやく解放された私は、赤ちゃん用の、包み込むような柔らかいベッドに寝かされる。天蓋のある豪華なベッドだ。
『いまだにここがどこなのか、なぜリコじゃなくこの女性なのか、わからない』
その女性は、私が落ちないように少し高くなっているベッドの縁に手をかけて座るような仕草をした。
『足がシャチだから「座ってる」って言い方で良いのかわからないけど……』
とにかく、彼女は私と目線を合わせて、優しく見つめている。
その満面の笑顔から、私の事が心から大好きだという想いがひしひしと感じられる。
『うーん。よく考えたらこの人、ずっと前から知っているような気がしてきた』
魂の奥底に残っている、この包み込まれるような深い安心感。
『うん、私もこの女性の事が大好きだ』
多分、ずっとこうやって私の世話をしてきてくれている女性なんだろうなと、私は思った。
「あー、ルルルルー。海の創造神様と、海の女神様が恋をしたー。ルールールー」
「光の愛の御霊が、私たちに愛を教えてくれるー。ルルルルー。ああー、オクタビア様ー。ルルルルー。愛の女神、オクタビア様ー、ルルルルルルー」
『えー! 何その歌!』
至近距離で自分のことを大絶賛する謎の歌を聞かされ、猛烈な羞恥心がこみ上げてくる。
『恥ずかしくて、逆に目が覚めて来たよー! 誰なんだろー? 名前なんなんだろう?』
そう思いながら、私は小さな手を女性の顔に向けて伸ばした。
「あーうー」
『誰ですかー?』
女性が、私の伸ばした手に顔を近づける。そして、手と腕にある赤ちゃん特有の段差……あの『ちぎりパン』のようなムチムチの段差を、指でポニポニと押してきた。
掴んだと思ったら、なんと、私の手をそのまま口の中へ!
『えーー! 手食べられたんだけど!』
あむ、あむと、ベタベタにならないように優しく甘噛みしているみたいだ。
「あー、オクタビア様ー! この手、湯掻いて酢味噌で食べたら、美味しそうですねー!」
ニコニコしながら、とんでもなく怖い冗談を言ってくる。
しかし私は、自分のその白くぷにぷにした小さな手を見てしまう。
『確かに、湯掻いて細く刻んだら、軟骨が柔らかくて周りのお肉がほろほろっと崩れるかも……』
などと、妙に納得してしまうのだった。それほど、私の手は白くぷにぷにで、小さく、自分で言うのもなんだけど、可愛かった。
『あーそういえば、タコも酢味噌で食べると美味しかったな』
そんな前世の記憶とリンクした斜め上の思考を巡らせていると、女性はまたトントンと胸を優しく叩いて、私を心地よい眠りに導いてくれるのだった。
まどろみの中で、私はふと考える。
『シャチの人魚たちはよく甘噛みをしてくるけれど、あれがこの人たちの愛情表現の一つなのかもしれないなぁ』
そういえば、リコなんか、口元だけシャチの姿に戻して私の頭を甘噛みしてくる。普通なら食べられそうで怖いはずなのに、そこに込められた不器用な愛情が伝わってくるから、なんだか可笑しい。
「ふふふっ」
私は少しおかしくなって、思わず笑ってしまった。
そして、今度こそ心地よい眠りへと落ちていった。




