冒頭としてのエピローグ
「よし、こんなもんかな」
パンパンになったリュックを背負って、僕は家を出た。
裏庭に足を向ける。簡素な板が二本刺さったところで足を止め、手を合わせる。
「エリ、レイナさん。二人をここに置いていくことになっちゃって……ごめんなさい」
二人が死んでから二年の月日が流れた。
村の人から疎まれながら、守ってくれる人がいない中で、それでもあの日の決意を果たすために、僕は今日までみっともなく、かっこ悪く生き続けてきた。
「僕は今日、ここから旅立ちます。……ソラト病を無くす方法を探そうと思うんだ」
それが僕の決意だった。
レイナさんの遺志を継ぎ、エリの願いをかなえるためには、それしかないと思った。
「まずは王都に行こうと思ってる。歩いたら結構な距離があるけど……安心して、二年間、ちゃんと鍛えたから」
ソラト病を無くす方法を探すなら、こんな小さな村に引きこもっている場合ではない。
王都の資料館や、各地に散らばる研究所を訪ねる必要があるだろう。
遺跡にだって足を運ぶ必要があるかもしれない。
そうなれば何より必要なのは、体力と武術だから、僕は二年間鍛え続けた。
「レイナさんの五尺棒、借りますね。レイナさんほどはうまく使えないけど……でも、一番しっくりくるから」
君に使いこなせるのか? と不敵に笑うレイナさんの顔が一瞬脳裏に浮かんだ。
まだまだあなたの足元にも及びませんけど、これからゆっくり追いつきますよと、心の中で返した。
「それじゃあ……そろそろ行きますね」
この家は村から少し外れた場所にある。
あの一件以来、村の人からは忌み嫌われていて、良くも悪くも有名になってしまった。
これまでは僕が住んでいたから、みんな薄気味わるがって近づかなかったけれど……今日からはどうなるか分からない。
心無い者が二人の墓を荒らすかもしれない。
この家は取り壊されてしまうかもしれない。
放っておかれて、自然に飲みこまれて、跡形もなくなるかもしれない。
それでも。
そうなると分かっていたとしても、僕は今日ここを後にする。
ソラト病を無くす方法を探すために、終わりの見えない旅に出る。
「行ってきます」
僕のつぶやきは、ひときわ強く吹いた風に飲まれて、どこか遠くへと運ばれた。
行ってらっしゃいと、背中を押された気がした。
本作はいったんここで完結となります。続編は現在構想中です。
お読みくださり本当にありがとうございました!