第7章 08
ふむふむ—
担当の書類整理をしながら、思わず鼻歌を歌いそうになった。
デュークの状況が、私をより楽観的にさせてくれた。
そんなに怖がる必要はない、と思った。
世界はゲームの世界と全く同じではない。変えられるのだ。
「エヴァンさん~、今日部活に行かない?新しい本もあるよ~」
作業中に、聖母先輩が突然そう言った。
今は生徒会でいつもの仕事をこなしている。ティーパーティーの仕事はもうすぐ終わる。あとは来週のティーパーティーを待つだけだ。
今は他の新入生と同じように、その日を楽しみにしている。
この機会に、私とクラスメートとの間の隔たりを埋めたいと思っています。
クラスの状況は最初に比べればかなり落ち着いたものの、まだ距離感はある。相変わらず、アイリーンとデュークとばかり一緒にいる。
「うん!」知らせを聞いてさらに嬉しくなり、すぐに返事をした。
「ふふ~、エヴァンさんの笑顔、とっても可愛い~」
「先輩、お世辞を言ってくださってありがとうございます…」
聖母先輩に褒められると、いつも少し照れくさいし、鳥肌が立つ。
「噂とは全然違うわね~噂なんて、本当に当てにならないものね~」
聖母先輩は、片手を頬に当てて微笑んだ。
え?噂の私ってどんな感じなの?
「先輩、噂では私はどんな風に言うですか?」
「ふむ~、そうですね~高貴な聖女とか、地上に堕ちた天使とか、最近はお菓子好きの妖精とか~?」
…誰?
どう答えたらいいのか分からず、私は固まってしまった。
「それって、近寄りがたい人を表す形容詞ばかりじゃないですか、ふふ~」
…え?
まだ疑念が残る中、私は聖母先輩の笑顔を見つめた。彼女の神聖なオーラは、今日もまばゆいばかりだった。
…聖母先輩の方が、その称号にふさわしいと思う。
私は慌てて話題を変え、「今回の新刊でおすすめの本はありますか?」と尋ねた。
私が話題を変えようとしていることに気づいた聖母先輩は、微笑んで答えた。
「ええ~、うーん…『意地悪な王子への反撃』をおすすめします~」
生徒会館を出て図書館に向かう途中、見覚えのある人影を見つけた。
殿下は茶会会場の視察を終えられたのだろうか?
殿下は今日、茶会会場の最終確認に行かれたので、生徒会にはいらっしゃらなかった。会長に報告に戻られたのだろう。
ああ!
彼に声をかけようと近づこうとしたその時、見覚えのある姿が目に入り、思わず立ち止まった。
平地とはいえ、リリスが再び殿下の前で倒れる姿を見て……
平地で倒れるなんて……本当に勇気がいるものだ。
ゲームで文句を言うのと、現実でそれを目にするのは……気まずい。
心の中で文句を言いながら、私は急いで木陰に隠れ、苦笑いを浮かべながら彼らの様子を眺めていた。
落ち着け!
胸にそっと手を当て、落ち着こうとしながら、目の前の光景を見つめた。
ゲームのシーンが脳裏をよぎった――
〈「彼の気高く、優雅で、この上なく魅力的な笑顔に、私は心を奪われ、我を忘れそうになった。」〉
〈「これで2回目だ。」〉
〈殿下は微笑んで、私を再び立ち上がらせてくれました。私はものすごく緊張していて、心臓がドキドキし、頬が熱くなりました。またしても、殿下にこんなにも近づくなんて。〉
〈前回は人前で色々なことが心配だったのに、今回はずっと近くにいるという感覚でした。〉
〈「どうぞお気をつけて。」〉
〈立ち上がると、名残惜しくも殿下の手から自分の手を離し、急いで礼を言いました。〉
〈「ありがとうございます!」〉
〈私の言葉を聞いて、殿下は再び微笑まれました。〉
〈「活発なお嬢さんですね。」〉
〈殿下の褒め言葉に、私はとても照れてしまいました。〉
〈ああ、彼は本当に童話に出てくる王子様みたいだ。〉
〈殿下の王子様のような笑顔を見ていると、そう思わずにはいられませんでした。〉
〈まだ心臓がドキドキしています。まるでプリンセスになったみたい。すべてが美しい夢のようです。〉
〈このまま永遠に、目覚めずにいられたらいいのに。〉
ああ…プレイ中はあらゆることに文句を言っていたけど、同時にあらゆることを楽しんでいたんだ。
今はただ、ものすごく…恥ずかしい気持ちです。
そして、複雑な感情が入り混じっています。
「これで二度目だよ」と、殿下はリリスに微笑みながら言いました。
二人が同じ状況にいるのを見ると、ますます恥ずかしくなります。頭を覆って隠れてしまいたい気分です。
「気をつけてね」と、殿下はリリスを立ち上がらせながら言いました。
私たちの目の前に、二人の世界が現れました。まるで、これから恋を始める二人の見知らぬ人のような光景が、ピンクの泡に包まれて広がっていました。
私は黙ってその光景を見守っていました
「ありがとうございます!」
リリスの少し大きな謝罪の声が耳に響き、近くにいないにもかかわらず、ひどく不協和音のように聞こえた。
うっ……
私の足は思わず前に進み、心臓は激しく鼓動し、まるで抗議するかのように、すべてを止めようとしていた。
「活発なお嬢さんですね」と殿下はくすりと笑った。
……落ち着かなければ。
一方で、理性はこれが単なる通常の助けだと告げ、私はすぐに外出とするのを思いとどまった。
リリスが立ち去ろうとしたその時、殿下は彼女に話しかけ続けました。
「リリスが想像以上におっちょこちょいだとは思いもしなかった。」
「申し訳ございません、殿下。お恥ずかしいところをお見せしました。」リリスは恥ずかしさを隠すようにうつむきました。
……リリス。
殿下の言葉に、私は言葉を失った。
「準備はいいか?」
「はい…はい!殿下、ヴィトと私は心の準備はできております!」
「楽しみにしているよ。」
まるで白黒映画を見ているようだった。理性的にこの光景を捉え続けることはできなかった。
殿下が彼女の名前を呼び捨てにされるなんて。
これはゲームとは状況が違う。
ゲームよりもさらに速いペースで進んでいる。
いつからこんな風になってしまったのだろう?
二人は相変わらず楽しそうに会話を続け、自分たちの世界に浸っている。
〈「リ・リ・ス。」 〉
この三つの言葉が、私の心の中でこだまし、どうしても消えなかった。
殿下にお会いした瞬間から、婚約を経て、今日に至るまで、殿下は一度も敬称を省略されたことがなかった。私の知る限り、殿下は他の女性たちにも同じように接している。
…私の心臓は、他の音をかき消そうとするかのように、ますます速く、ますます激しく鼓動した。
〈「リ・リ・ス。」 〉
〈「リ・リ・ス。」 〉
〈「リ・リ・ス。」 〉
心の動揺を抑えようと、私はしゃがみ込み、両手で耳を塞ぎ、あらゆる音を遮断しようとした。震えが止まらなかった。
〈「レティシア嬢。」〉
しかし、そんな中、殿下が私を呼んでいたあの呼び方が脳裏をよぎり、思わず涙が溢れてきた。
私たちは…本当に、この婚約だけで結ばれているだけなのだろうか?
殿下、私へのご親切は、本当にただの責任感からなのでしょうか?
これまでの私たちのやり取りの中で、私の心を動かすものは一つもなかったのでしょうか?
〈「リ・リ・ス。」 〉
〈「レティシア嬢。」〉
〈「…だめ、もう何も言わないで!」〉
〈「…殿下は私の婚約者!幼い頃から決まっていたんです!」〉
〈「彼は私の全て。彼がいなくなったら…私はどうすればいいの!」〉
私の中で絶え間なく続く嘆きは、もはや本当のレティシアの声なのか、それとも私自身の声なのか分からなくなっていた。
混乱の中で、私には分からなかった。
私はリリスと戦うことを固く決意していたのに、目の前に迫る現実はあまりにも露骨で、あまりにもむき出しで、あまりにも痛烈だった。
すぐに気持ちを切り替えることも、すべてを変える勇気を振り絞ることもできなかった。
ようやく我に返った時には、彼らはもうそこにいなかった。




