第6章 05
「新入生の皆さん、ようこそ!これからの学校生活で、皆さんに有益なサポートを提供し、素晴らしい思い出を作っていただければ幸いです…」
ステージ上で優雅で流暢なスピーチをする男性を見つめながら、私の心の中には様々な感情が渦巻いていた。
「はぁ…」
観客席の女子生徒の一人からため息が聞こえたような気がした。
長い茶髪の男性が、新入生を歓迎する言葉を流暢に語る、優雅なスピーチをしていた。端正な容姿と落ち着いた物腰に、観客席の女子生徒たちは息を呑み、じっと見つめていた。
やはり、恋愛対象キャラクターの一人らしく、彼の魅力は桁外れだった。
厳密に言えば、彼は代理校長だった。本来の校長は現在病気療養中だった。スピーチをしている校長は、他でもない、ゲームに登場する恋愛対象キャラクターの一人、バルカー・マルティネスだった。唯一の年長の代表であり、ゲーム内でリリスの両親を殺害した犯人でもある。
クイン伯爵事件以来、彼は一時的に容疑者とみなされていました。皇太子殿下の組織による尋問を受けましたが、カルト教団との関連を示す証拠がなかったため、容易には拘束できませんでした。長年の監視下でも、彼は異常な行動を一切見せていないため、事実上容疑者リストから外れています。
うーん――彼が殺人犯であることは分かっていますが、犯人であることを証明できる証拠は何もありません。証拠を提示できないのです。結局のところ、ゲームの中では、それは女性主人公の背景ストーリーに過ぎず、詳細は不明です。私たちは結果だけを知っていて、過程は知らないのです。
殿下と私は、校長の斜め向かいで、かろうじて顔が見える程度で待っています。後ほど、交代でスピーチをする予定です。私は新入生の女子生徒代表、殿下は当然ながら男子生徒代表です。
…後でスピーチをするのは問題ないのですが…幼い頃から殿下とは数々の大きな行事を共に経験してきましたが…自分の番になると…少し気まずいですね。
「…」
客席にいるアイリーンに目をやると、彼女も校長先生をじっと見つめていて、少し驚きました。
…まさかアイリーンまで校長先生に惹かれているなんて?
席順は階級順だったので、当然ながら舞台からはリリスとジーンの姿は見えません。それでも、今探してみたのですが、見つけることはできませんでした。
ゲームに関して言えば……バルク校長はリリスにしか興味がない。他の人の前では、彼は立派な校長であり、立派な教師だ。だから、他の人にとっては問題ないはずだし、ましてや私にとってはなおさらだ。
しかし…やはり少しは用心すべきだ。
そもそも自分の死因すら知らないのだから、軽率な判断は禁物だ。
「最後に、生徒の皆さんが学校で望むものを手に入れられるよう、心からお祈り申し上げます。」
「それでは、生徒代表の方のスピーチをお願いいたします。」
バルク校長のスピーチが予想以上に早く終わったことに驚いた。
それでも、聴衆席のアルジャーは相変わらず眠そうだった。
もう!
入学試験の結果がまだ頭から離れない。見るたびに睨みつけてやりたい!
次に校長の座を譲ったのは生徒代表だった。鮮やかなオレンジイエローの髪とエメラルドグリーンの髪をした少女だ。彼女は落ち着いた足取りで自分の持ち場へと向かった。
…まるでランウェイを歩くモデルのようだ。
ゲームの中でこの生徒会長について具体的に言及されていなかったため、新鮮な体験だったこともあり、先ほどよりも彼女に興味を持つようになった。
殿下は既に生徒会の副会長として1年間務めることが決定しており、2年目には会長に昇格される予定です。私も書記として参加する予定です。
前世では完全な引きこもりだった私にとって、これは大きな飛躍だ!なんて若々しい!まさに青春の章に突入しようとしている!
…ああ…考えるだけで少し疲れてくる。
やはり、人の性格は一夜にして変わるものではない。
この世界には乙女ゲームがないので、図書館で恋愛小説を読むのが私の唯一の救いになるだろう。生徒会に入らなければ、図書館でずっと時間を過ごすことになるだろう。そうすれば、私は文芸部として知られるようになる!
…
文芸部です!
おお! とっても知的ですね!
…
ヒルダ会長の厳粛な眼差しは消え、優しい微笑みに変わり、生徒たちに語りかけた。「新入生の皆さん、はじめまして。ようこそ! 現生徒会長のヒルダ・ガルシアです。」
その微笑みは、多くの男性を魅了するだろう。
ふと、ガルシア家は南部で3番目に大きな領地を支配していたことを思い出した。そこは繊維産業で有名な場所だ……。彼女の母親を以前見たことがあるような気がする。
そうだ! 数年前の夏至祭で、彼女の母親は深いVネックのドレスを着ていた。信じられないほど華やかで美しかった!
「今年は、かなりの著名人が入学しましたね。皆さん、きっと緊張しているでしょう?」
一瞬の沈黙があったが、それはヒルダ会長の言葉を肯定するような沈黙だった。
ヒルダ会長は周囲を見回してから話を続けた。
「しかしながら、この学校は基本的に皆を平等に扱うという原則を堅持しています。ですから、適切な礼儀作法を守っていれば、誰もが平和な学校生活を送ることができます。そう思いませんか、殿下?」
「その通りです、ヒルダ会長。」
隣にいた殿下がそれに呼応し、会場に再び小さなざわめきが起こった。しかし、貴族特有の控えめな態度のため、女子生徒たちは感情を抑えようと必死だったが、張り詰めた空気は依然として感じられた。
「ヒルダ会長のおっしゃる通りです」と殿下は微笑みながら続けた。
その微笑みは、多くの女子生徒を魅了したに違いない。
生徒たちの精神力は限界に達しつつあるようだ。美男子と美人が次々と舞台に上がる。
しかし……私は言いようのない葛藤を感じていた。
その後、ヒルダ会長はしばらく話した後、殿下にバトンを渡した。
殿下は静かに指揮棒を受け取り、スピーチを始められた。
「新入生として、私たちは…」
殿下の態度も非常に落ち着いていた。何しろ、殿下は幼い頃から国家レベルの経験を豊富に積んでこられたのだ。
一方、私はというと…舞台に上がる前は今でも緊張する。殿下のように自然体でいられる自信はないけれど、前世よりははるかに経験豊富になっているのは間違いない…たぶん。
殿下の漆黒の髪と、黒の縁取りが施された濃い緑色の服は、他の生徒たちとは一線を画す独特の雰囲気を醸し出していた。
私たちの制服は、寮の色と同じく、男子は濃い緑と黒の縁取り、女子は薄い緑と白の縁取りが施された、主に緑色だった。前世とは違い、女子はミニスカートを履くことは許されていなかった。スカートは膝下丈で、足が床に引きずらない程度の長さでなければならなかった。この世界では、女性が足を見せることは非常に恥ずべきこととされているからだ。
…女性のドレスが肩や胸の半分でも見えていると、もっと恥ずかしくなる感じる。
まあ、文化の違いってやつでしょうね。
「それでは、女子生徒代表のレティシア・エヴァンさん、どうぞ」
イケメンや美女たちの後ろで、私はひそひそと考えていた。そして、私の番が回ってきた。
最後に登場なんて、運が悪いみたい!
入学してからずっと運が悪い。
観客席の生徒たちは、もう限界寸前なのかもしれない。なんだか落ち着かない様子だ。
それに、私の前の人たちはみんな目立ちすぎる。私はほとんどおまけみたいなもの!
そうだ!そもそも、私のスピーチなんて聞きたい人なんているの!?
こうして自分に言い聞かせ、私は決めた。
さっさと終わらせてしまおう!
練習しておいたスピーチを、慌てて数文にまとめた。
「皆さん、こんにちは。女子生徒代表のレディシア・エヴァンです。」
「私たちはこの学校の一員であることを誇りに思います。学校で教えられるすべてのことを真摯に学び、学んだことを将来に活かしていきます。」
「新入生の女子生徒全員を代表して、ここに学校の皆さんに誓います。私たちはすべての校則を遵守し、規律を厳守します。」
「皆さんの今後の学校生活が素晴らしいものになるようお祈りしています!頑張ってください!」
「それでは、私のスピーチはこれで終わりです。ありがとうございました。」
退席後、次のような感想をいただきました。
ヒルダ会長は少し驚いた様子で、「レディシアさんは本当に意外ですね」と言いました。
殿下は意味深な笑みを浮かべ、「さすがレディシア嬢」とおっしゃいました。
え?意外な褒め言葉?




