間章 09
アルジャーは、私たちが前進するのと同時に、自分と私に透明化に似た魔法をかけた。一瞬にして、まるで目に見えないベールに包まれたかのように、誰も私たちに触れることも見ることもできなくなった。
この魔法をかけられるのは初めてだったので、私は戸惑い、腕を左右に振ったが、感覚はまるで何もかけられていないかのように自然だった。最初の瞬間だけ、特別な感覚を覚えただけだった。
「このレベルはほとんどの人にちょうどいい。これなら気配が感知されにくくなるし、効果は約1時間持続するはずだ。」
「これは初心者レベルの隠蔽魔法よ。」
アイリーンはそう言いながら、自分にも同じ呪文をかけたようだった。
わあ…こんな魔法があるなんて知らなかった…
こんな魔法が存在するなんて、少し驚いた。一体どうやって想像できるんだろう?
それに、気配ってそんなに簡単に感知できるものなの?!
私は無意識のうちに「どうすればこの魔法を習得できるんだろう…?」と自問した。
「うーん…まずは気配を感知することから始めないといけないわ」とアイリーンはためらいがちに答えた。
…気配を感知するには具体的にどうすればいいの?
おそらく、まず気配そのものを知らなければ、隠蔽感を想像できないのだろう。
前世では、戦闘をテーマにした作品でこうした描写をよく見かけ、多くの読者が「かっこいい!」と感嘆し、自分もできるようになりたいと願っていた。しかし、今、これほど間近でそれを感知できる人を見ると、やはり自分には到底無理なことのように思える。
気配は本当に驚くべきものだ。
「急ごう。」
戸惑いながらも、アルジャーの促しに我に返り、いわゆる追跡活動に参加することにした。
騎士に先導され、比較的人通りの多い商店街の反対側へと歩いた。アンナと伯爵のいる場所まで慎重に進み、後ろにいた騎士は殿下の元へと戻った。
追跡には少人数の方が都合が良いので、アルジャー、アイリーン、そして私の3人だけで行き、殿下とデュークは先ほど訪れた店で待っていてくれた。
「おお、ターゲット発見、10時方向。」
アルジャーは素早く、通りの向かい側の木箱の後ろに隠れるように指示した。アイリーンの指示に従い、私はすぐに隠れた。どうやらアルジャーが先頭に立ち、アイリーンが私をサポートしているようだった。
標的の位置を特定した後、アルジャーが示した方向を見た。少し距離はあったものの、確かにアンナと伯爵がいた。二人は花屋の前に立っていた。伯爵は花屋の店員と話しており、アンナは静かに彼から距離を置いていた。
…アンナ。
先ほどのインタビューで伯爵のイメージがひどく損なわれてしまったようですね…大変申し訳ございません。
私は状況を見て、ぎこちない、苦笑いを浮かべた。
でも、どうしてアルジャーはそんなに詳しいの?
「でしょう?レティシア?」
「ええ…どうして彼らの顔を知っているんですか?」
「しばらく君の後をつけていたんだ。気づかなかったのか?」
えっ!いつから?!
私は驚いて尋ねた。「いつから?!」
「シーッ、声を小さくして。」
私は慌てて口を覆い、頷いた。
アルジャーは彼らを見ながら続けた。「騎士として、標的とその周囲の地形を熟知しているのは当然のことだ…おっと、標的が動いた。レティシア集中しろ。」
私は小声で答えた。
「はい…はい。」
うっ…まさかアルジャーに叱られるとは。
アルジャーの言う通りだった。標的とその周囲の状況に不慣れであれば、追跡など不可能だ。すぐに見失ってしまうだろう。
彼の助言通り、私は集中して周囲を見渡した。伯爵は赤いバラの花束を手に持ち、アンナに渡そうとしていた。アンナが何か言ったようだったが、明らかに拒絶されたようで、伯爵は花束を自分で持ち、アンナと共に次の店へと歩いていった。
伯爵はアンナの気を引こうとしていたようだが、彼女は興味を示さなかった。
…私は伯爵に少し同情を感じた。
「兄は私以上に集中しているのよ。この辺りは彼にとってまるで自分の家みたいだから」とアイリーンは微笑みながら付け加えた。
「それは意外ね…」
私はアルジャーをちらりと見た。集中した表情が妙にハンサムで、私は彼をこれまでとは違った目で見るようになった。
しかし、今の状況はまるで探偵が犯人を追っているようで、スリリングだった!
「ところで、レティシアさんが買ったぬいぐるみ、すごく可愛いですね。ちょっと近くで見てもいいですか?」とアイリーンはそっと尋ねた。
「えっ?ぬいぐるみを買ってるところまで見られてたの?!」
私は少し驚きながら小声で答えた。
「今度、ぬいぐるみを授業に持って行くね。」
アイリーンはそれを聞いて嬉しそうに頷いた。
アイリーンまでもが私たちを尾行していたのか…。
一体いつから尾行し始めたんだろう?殿下はご存じなのか?
突然、妙な予感がした。何も悪いことはしていないのに、まあいいか…。
今、私たちは誰かを尾行している。考えてみれば、尾行されている相手が知ったら、きっと複雑な気持ちになるだろう…。
ごめん、アンナ!これはすべて伯爵のことを探るためなんだ!
その時、アンナたちが道を歩いていると、突然馬車が突進してきた。クイン伯爵は素早くアンナを庇い、通行人たちは慌てて道を譲り、砂埃が舞い上がった。
少し距離はあったものの、私は無意識のうちに口と鼻を覆い、砂埃を吸い込まないようにした。
「一体何が起きたんだ?あの馬車は?」アルジャーは呆然とその光景を見つめていた。
アイリーンは「エンブレムがないから、普通の乗り合い客車でしょうね」と答えた。
「乗り合い客車には特に気をつけないと。後であそこの人たちに注意しておかないと」
赤毛の兄妹は冷静にそう言った。その集中力には驚いた。普通はそんなことに気を配る時間なんてないものだ。
ああ、そうだ!アンナはどこだ?!
馬車が通り過ぎた後、私は急いでアンナの方を見た。彼女はまだクイン伯爵に守られていた。
クイン伯爵の行動はなかなかいいじゃない!本当にアンナのことを気にかけているみたいだ。
しかし、現実は残酷だ。しばらくして、アンナはクイン伯爵の傍を離れ、彼に二言三言言葉を告げると、一人で歩き出した。クイン伯爵は一瞬立ち尽くした後、あまり感謝している様子もなく、慌てて後を追った。
私たちはゆっくりと後を追った。
「あの伯爵の今の腕前は…ちょっとおかしいように見えたわ」とアイリーンは突然言った。
「アイリーン、君も気づいたのか?あの伯爵は普通の人ではないようだ」アルジャーの目が鋭くなった。
私は驚いて尋ねた。「え?どういう意味ですか?」
「ああ、あの伯爵は本当の力を隠しているのかもしれません、レティシア。」
アルジャーの表情は真剣だった。冗談ではなかった。それを聞いて、私は身構えた。
アルジャーが話し終えるやいなや、伯爵はアンナに何かを言い、二人は別れたようだった。
えっ!どうしたの?
クイン伯爵とアンナが別れて間もなく、彼は人通りのない路地へと急いでいるのが目撃された。
「ちっ、見つかったのか?」
アルジャーは驚いた様子だった。
「私が先に追ってきます。」
「はい!」
アルジャーはそう言い終えると、あっという間に後を追い、姿を消した。魔法を使ったに違いない。突風を感じた。
「レティシアさん。」
アイリーンは私の方を見て、次にどうするか決めるのを待っていた。
確かに、これはかなり奇妙な状況だ。普通、帰るなら馬車か何かを使うだろう?
不安を感じた私は、すぐに「追ってみましょう」と答えた。
アイリーンは頷いた。
念のため、近くにいた私服騎士に連絡を取り、アイリーンは私に高レベルの隠密魔法をかけ、すぐに後を追った。嫌な予感がした。
「こっちよ!」
アイリーンに導かれ、私は以前よりもさらに速く走った。幸いにもアイリーンの魔法の力のおかげで、前回スラム街で息切れした時とは大違いだ。
「兄さんが先よ!」
やがて追いつき、アイリーンに教えてもらったおかげで、アルジャーの小さな姿が見えた。アイリーンが指さしてくれなければ、彼だと気づかなかっただろう。
彼は信じられないほどの敏捷さで走り、跳躍していたが、それでもクイン伯爵のペースにはついていけなかった。
大人は歩幅が大きいからだろうか?
しかし、これほど入り組んだ路地を、誰にも捕まらずに軽々と駆け抜けることができるということは、クイン伯爵はただの高貴な教師ではなく、ただの普通の人ではないに違いない。
「兄さんをここまで追いつかせるなんて…伯爵は本当にすごいわね」とアイリーンは驚いて言った。
私の予感は的中したのだろうか?
不安が募った。アルジャーが追いつけないかもしれないと心配していた矢先、アルジャーは突然加速し、徐々に距離を縮めていくのが見えた。アルジャーは知らず知らずのうちに相手を追い詰めていたのだが、姿を現すことなく、近くの隠れ場所に身を潜めたままだった。
近づくにつれ、アイリーンは突然速度を落とし、私も彼女の歩調に合わせて、静かにアルジャーの背後から近づいた。
「はぁ…はぁ…見つかってしまったのか?」
見つかってしまったのか?
伯爵は何かを警戒しているかのように、意味ありげに呟いた。




