間章 07
店を出た後、私たちは予定通りのルートを進みました。しばらくすると、遠くに人影が見えました。先生と、クイン伯爵に似た人物です。私たちは偶然の出会いをしました。
レディの俳優モード発動!
私が先に気付いたふりをして、「先生だ!」と声をかけました。
「ああ、エヴァンさんか。」
先生は小声で答えました。何しろ殿下がいらっしゃるので、大声を出せば通行人の注目を集めてしまうでしょう。
殿下は先生に視線を向けましたが、目立たないように黙っていました。
殿下の変装は魔法で姿を変えており、知り合い以外にはほとんど誰だかわかりません。私は白いフリル付きの帽子だけでした。
殿下は軽くお辞儀をし、隣にいた伯爵も少し驚いた様子で軽くお辞儀をしました。
クイン伯爵は短く明るいブロンドの髪と茶色の瞳をしており、洗練された学識のある雰囲気を漂わせていました。彼は教師というより、何日も寝ていない、エネルギー不足の大学院生のように見えた。
一方、モリス先生はどちらかというと古風な雰囲気で、教師のイメージにぴったりだった。それはむしろ意外だった。
「先生も買い物にいらっしゃったんですか?」
「ええ、はは、偶然ですね!」
近くに立っていたらしいクイン伯爵は、私の後ろにいるアンナに気づき、それから私を見てこう言った。
「この方はもしかして…?」
「ええ、私の教え子、レティシア・エヴァンです。」
「孤児院を救った聖女がここにいらっしゃるとは、実に驚きです。あなたのことよく耳にする。」
クイン伯爵の表情が突然明るくなり、じっと私を見つめた。
「お褒めいただきありがとう…」私は微笑んで軽く受け流した。
「エヴァン嬢は謙遜しすぎだ。」
気のせいかもしれないが、彼の視線は少しばかり熱狂的すぎるように感じた。私はそんなに特別な存在ではないはずなのに。
はは…でも、孤児院の件で私の評判は広く知れ渡ったようですね。まさか聖女と呼ばれるとは思いませんでした。本当に意外です。
しかし、この一件のおかげで、父をはじめとする皆が私を神殿のトラブルからより効果的に守ってくれるようになったのは、思いがけない幸運だった。
後日、殿下から北神殿の件は課題の一環として皇太子殿下に委ねられたと伺った。一体どうなったのだろうか。
「エヴァンさん、こちらは以前ご紹介した先輩のルパート・クインだ。」
私は驚いたふりをして、「アンナと婚約する方なんですね!」と言いました。
「はい、光栄です。お会いできて光栄です、エヴァン嬢」伯爵は私に頭を下げました。
「こちらこそ」と私は笑顔で答えました。
まずは少しおしゃべりをしてから、先生に合図をして二人きりになろうと思いました。
まるで恋に夢中な女の子のように、私は尋ねました。「お見合いで出会ったと聞きました。クイン先生はアンナの第一印象をどう思われたんですか?」
「…氷山に咲く美しい赤いバラのようでした」
…えっ?
予想外の答えに、私の笑顔は一瞬消えました。
学者だから?だからそんな特別な表現を使ったの?
…きっと褒め言葉ですよね?
「はは…先輩の表現、本当に素晴らしいですね。アンナさんは先輩にとって特別な存在なんですね」
先生が場を収めてくれたおかげで、私はすぐに現実に戻った。
「アンナはクインさんにとって本当に特別な存在みたいですね。本当に羨ましい限りです。」
「…ええ、アンナは確かに特別な存在です。」
ああ…彼は本当にストレートに言ったのね!
クイン伯爵の表情は変わらず、本心なのか冗談なのか判断できなかったが、予想外のストレートな返答に驚いた。
こっそりアンナの方を見ると、彼女も無表情だったが、顔がほんのり赤らんでいた。
うーん、アンナにストレートに言わなかったから、彼女は彼の好意に気づかなかったのだろうか?
「じゃあ、クインさんはあの時、お見合いの時からアンナのことが好きだったの?」
「…ええ。」
伯爵の予想外のストレートさに、私は大いに驚いた。アンナの表情から察するに、彼女自身もかなり驚いていたようだ。
…でも、彼と校長先生の関係は一体何なんだろう?
こう考えると、まだ彼を完全に信用できない。
…あんなにストレートに言うのだから、もっと慎重に聞いてみるべきだろう。
でも、今の状況はまるで俳優から記者になった気分だ。
…まあいいや!さあ、続けよう!
「クインさんはアンナのどんなところが好きなんだろう?すごく気になる!」
「これ…これ…」クイン伯爵は頭を掻きながら、少し躊躇した。本心からなのか、それとも照れからなのか、判断し難かった。
「…お嬢様。」
私はアンナに微笑みかけ、それからクイン伯爵を見た。
「もうすぐ婚約するお二人ですから、いろいろと気になることがあるでしょう?とても心配なんです!」期待を込めて、私は続けた。
じっと見つめる…じっと見つめる…
キラキラ…キラキラ…
私の視線はクイン伯爵に釘付けになり、クイン伯爵はあちこちをさまよった。
…私の隣にいる殿下は、震えているように見えた。
アンナのためなら!もう自分の体面なんてどうでもいい!
クイン伯爵はためらいがちに言った。「あの…僕は…アンナの…香りが好きなんです。」
…香り?
その答えを聞いて、私は一瞬呆然とした。
「先輩…?」先生は驚いて彼を見つめた。
クイン伯爵は突然興奮した。「そうだ!匂いだ!アンナ嬢は特に不快な匂いはしない!」
私は彼の威圧的な態度に圧倒され、一歩後ずさった。
「…そうなんですか?」私は戸惑いながら答えた。
この人、ちょっと変わっている。
でも、体臭…確かに敏感な人もいる。それは事実だ。
こんなことで…これが愛というのか?
「匂い…どうやら繊細な紳士のようだ」と、私の隣でかすかに震えながら、殿下は静かに言った。
殿下はこの光景を楽しんでいらっしゃるんですね!全然手伝ってくださらないじゃないですか!
私は憤りを感じた。
しかし、こんなことで婚約を急ぐのは少しおかしいと思い、さらに尋ねてみることにした。
「でも…でも、これはちょっと…」
「いいえ!エヴァンさん、失礼ながら、これはとても重要なことなんです!あなたがほのかに甘い香りを放ち、モーリス君がハーブの香りを放つように、人それぞれ好みによって特別な香りがあるのですが、アンナさんだけがそうではないんです!」
…
だから甘い匂いがするのか…ああ、なるほど…デザートを食べ過ぎたせいか?
突然自分の体臭に気付いた。妙な感覚だ。
…はっ!待てよ…こんなに近くにいるわけじゃないのに、匂いがするはずがない!
この伯爵は変態だ!変態め!
数歩後ずさりしようとしたその時、殿下は突然微笑み、数歩前に進み出て、私の傍らで囁いた。「この伯爵はちょっとやりすぎだ。」
ありがたいことに、殿下の庇護のおかげで安心できた。
…やっと役に立ったな、殿下。
「ええと、先輩!」先生は慌ててクイン伯爵の肩を叩いた。
「…申し訳ありませんが、これは私にとって非常に重要なことで、妥協はできません!」
クイン伯爵は興奮気味にその重要性を説明し始めた。
「あのね、体臭とか…」
…今にも爆発しそうな彼を見て、私の頭は少し混乱した。
伯爵は私の傍らで震え続けていた。
伯爵はアンナへの愛情を公言していたが、彼女の香りに執着するようになったのは、まさにその理由からなのだろうか……?
そのため、伯爵が本当にアンナを愛しているのかどうか、私には分からなくなってしまった。
伯爵の理由は分かっていたものの、どこか曖昧で、アンナ自身の気持ちと相まって、それが正しいのか間違っているのか分からず、頭が真っ白になってしまった。
途方に暮れ、私は無意識のうちに尋ねた。
「……アンナはどんな匂いがするの?」
クイン伯爵は即座に答えた。「クールビューティーな香りだ!」
…………………………
背後のアンナから、なぜか静かな重圧を感じた。




