間章 05
殿下の作戦は、毎月のやり取りを利用して、私が首都の街に出てアンナへのお祝いの贈り物を買いに行くよう両親に提案することでした。こうすれば、私は合法的に家を出られるというわけです。もちろん、殿下がどのように両親を説得したのかは分かりませんが、両親が私の家を出られるを許してくれたことから、殿下の説得力は相当なものだったに違いありません。
数日後、アンナに戻るを命じた後、私たちは馬車に乗って商店街へ向かっていた。アンナと私はようやく二人きりで話す時間ができた。
「アンナ、水臭い!婚約するなんて知らなかったわ!」
私は頬を膨らませ、腰に手を当て、アンナに怒ったふりをして話しかけた。こうすればもっと効果的だろうと思ったのだ。
こんなに怒ったことは今までなかった。アンナには効くはずだ。
「…申し訳ございません、お嬢様。」
「アンナ…物事を甘く見ていたのかもしれません。」アンナはうつむき、悲しげな表情で謝罪した。
アンナの落ち込んだ様子を見て、少し気まずさを感じたが、こうすればお互いに正直になれると思った。
私はアンナに近づき、そっと彼女の手に触れながら言った。
「アンナ、あなたの状況を話してくれる?」
アンナはためらいがちに私を見た。
「もしかしたら、私にも何かできることがあるかもしれない。だって、アンナは私の侍女なんだから!私の周りの人に不幸が訪れるのは見たくない!」
「お嬢様…」アンナは私を見た。
「アンナはこの婚約に同意していないのね?」
「…もしかしたらアンナは恩知らずなのかもしれないけれど…ええ、アンナは婚約したくないの。」
アンナはついにそう認め、苦笑いを浮かべた。私は彼女が続けるのをじっと見守った。
「お嬢様が襲われた日、私はルパートさんとブラインドデートで出会いました…母の無断の同意のおかげで。」
アンナ…それはちょっと怖いよ。
アンナは話し終えると表情を冷やし、母親の計らいに不満を感じているようだった。
つまり、私が襲われた日、東の王国の王女と皇太子が密会した日だったのね。
「アンナが会ったのは、その日だったのね。」
アンナは頷き、続けた。「もしアンナがあの日、約束の場に行かなかったら、お嬢様は姿を消さなかったかもしれない…本当に申し訳ありません。」
「アンナ…先ほども言ったように、こんなことになるとは誰も予想していなかったの。」
「お嬢様…ありがとうございます。アンナは今もあなたにお仕えしたい、あなたのそばにいたいと願っています。」
「それは嬉しい。」
そう言って、アンナと私はかすかに微笑んだ。彼女の滅多に見せない笑顔を見て、私は少し嬉しくなった。
本当に良かった…アンナは私のことを嫌っていないんだね?
「その後どうなったの?」
「お見合いではあまり話さなかったし、帰る時に丁寧に断ったの。お互いそういうことは気にしないと思ってたんだけど、まさか…」
まさか?
「数日後に色々なプレゼントを送ってきて、それから何度もデートに誘ってくるなんて、想像もしてなかったわ。」
話を聞きながら、マナの話と全く同じ内容だった。
「アンナは彼の優しさをずっと拒んでいたけど、止められなかった…。結局、アンナの両親に何を言ったのかは知らないけど、婚約はもう決まってしまったみたい…。もうアンナも止められないわ。」
…アンナ。
まさか彼がアンナの両親にまで手を付けるとは思わなかった。確かにこの世界では、女性の結婚はほとんど親が決めるものだけど、私も例外じゃない。
…そう考えると、少し悲しくなる。
(「しかし、レディが殿下を大切にしてくださることを心から願っております。お二人は多くの要素を考慮した上で一緒になられたとはいえ、まだ長い時間があります。もっと顔を合わせ、お互いをより深く理解すれば、愛情は育まれるでしょう。」)
母の言葉がふと頭をよぎった。
私の状況は…まあ、まだすり合わせする時間はある。アンナよりははるかにマシだ。
そう考えると、苦笑いを浮かべた。
アンナの沈黙を見て、すぐに二人きりになれる時間がなくなるので、どんな手がかりをつかもうかと急いで考えた。
(「お見合いではあまり話さなかったし、帰る時に丁寧に断ったの。お互いそういうことには興味がないと思っていたんだけど、まさかあんなに…」)
アンナの話からすると、彼は彼女にあまり興味がなかったようだ。
「アンナはクイン伯爵のことをどう思っているの?その後、彼はアンナに特に好意を示していた?」
「ルパート氏は本当にいい人よ。婚約後も、結婚後も、アンナは仕事を続けられるって言ってくれたの。」
それを聞いて、私は考え始めた。
この世界では、既婚女性が仕事を続けるのは確かに容易ではない……伯爵は素敵な人のように見えるけれど?
本当に当事者が決めることなのだろうか?
「……でも、ルパートさんは私にそこまで夢中になっているようには感じなかったんです。」
アンナの最後の言葉は、クイン伯爵が何らかの下心を持っていることをはっきりと示唆していた。
殿下と私は変装して、広場近くの商店街を歩いた。夏至祭とは違い、歩行者はずっと少なかったが、店や商店はひときわ目立ち、新鮮な雰囲気が漂っていた。
周りを見渡すと、花屋、洋服店、武器屋、防具屋、薬草屋、レストラン、酒場…そして商人ギルドや冒險者ギルドまであります!
目にするものすべてが新鮮で、私は見入ってしまった。
おそらくこの通りは正門に直結していたのだろう。そのため、主要な商店はすべてここに集まっており、主要な店舗も恐らくここにあったのだろう。どの店も威厳を漂わせ、庶民街の雰囲気とは全く異なっていた。行き交う人々は実に多様で、明らかに外国人や冒險者も含まれていた。
「レティシア嬢、今からそちらへ向かいます。」
「…はい、はい。」
殿下は右側の分かれ道を指さした。そこはギフト売り場へと続いているようだった。
殿下とギフトを選びに出かけると、数人の変装した騎士に囲まれ、アンナと数人の護衛がすぐ後ろに続いていた。
私たちの計画はこうだ。私が殿下とギフトを選びに出かけ、商店街を歩いている途中でクイン伯爵とモーリス先生に偶然出会う。二人が会話している間に、殿下、モーリス先生、そして私はそれぞれアンナと伯爵を二人きりにするための口実を見つける。そしてその場を離れるが、実際には遠くから二人の様子を観察するのだ。
尾行を体験するなんて!最高!
私はすぐに、自分が獲物を狙ってこっそりと行動している姿を想像した。
すごい!
アイリーンとこの話をしているうちに、ますます興奮が高まり、今もなお楽しみで仕方がない。
ちなみに、モーリス先生の件ですが、後日、手紙で助けを求めたんです。贈り物を買うことだけを伝えたのですが、教授はアンナと私の絆になぜか心を動かされ、快く協力を申し出てくれました。本当に感謝しています。
自分の気持ちをきちんと伝えられなかったことを少し申し訳なく思っていますが、教授を巻き込まないためにも、できるだけ何も知らない方が良いでしょう。
すみません、先生!
「面白い?」
「ええ」私は頷き、視線をあちこちにさまよわせました。
ところで、殿下はこの辺りをどうしてこんなによくご存知なのですか?
……もしかして、殿下も以前こっそり抜け出したことがあるのですか?
とはいえ、王子様が……自分の国がどんなところか知らないというのは……
急に葛藤が湧いてきました。殿下も以前こっそり抜け出したことがあるのなら、私もいつかこっそり抜け出して探検してみたい。そうでなければ、どこかアンバランスを感じてしまうでしょう。
「…レティシア嬢、こちらへ。」
殿下の言葉に、私は戸惑いながら振り返った。
殿下は左腕を差し出し、私に手を置くように促した。それは、紳士が淑女をエスコートする際に用いる礼儀正しい仕草だった。以前、夏至祭で人前で、私たちは似たようなことをしたことがあった。
私の顔はたちまち赤くなった。
うっ…
少し躊躇してから、私は手を置いた。この仕草は、やはりどこか居心地が悪かった。
すぐに、ほのかに紅茶の香りが漂ってきた。
うっ…なんて気遣い。
「ここにはもっと人がいる。」
私が手を置いた後、殿下はさりげなく周囲を見回した。
いつもの殿下の姿を見て、私は奇妙な憤りを感じたが、平静を保とうと努めた。
殿下に導かれ、私たちは人混みの少ない場所へと歩いていった。
「なんて美しい…」
私たちは宝石店に入った。内装は意外にもシンプルで、深紅を基調とした清潔感あふれる明るい空間が、商品の美しさを一層引き立てていた。ショーケースに並ぶ宝石はどれも精巧に作られ、まばゆいばかりの輝きを放っていた。
「ようこそ、お客様。何か必要なことがあればお申し付けください。」
「はい。」
店長は私たちに敬礼し、一歩下がった。
人が少ないエリアは高級店が集まる傾向にある。人が少ないのも当然だ。
店内はがらんとしていたので、私たちはゆったりと店内を見て回った。
「レティシア嬢、何かお気に召すものはございますか?」と、殿下が突然尋ねた。
物心ついた頃からかなりの数の宝石を見てきて、品質を見分ける目はほぼ身についているつもりだが、この店の品々はどれも格別な優雅さを放っており、ほとんどが本物だろう。
店内を見回し、アンナに目をやったが、彼女に特に似合うものはないと感じたので、殿下に首を横に振った。
「…お嬢様」とアンナは苦笑いを浮かべた。
私は彼女に軽く微笑みかけた。
アンナが婚約するつもりがないことは分かっていたが、何かプレゼントしても損はないだろう。何しろ、彼女は私をよく世話してくれたのだから。
「では、行こう」と殿下は微笑んだ。
出口に着くと、店の雰囲気とは全く異なるものがドアの近くにあることに気づいた。
それは、ドアの奥のテーブルの上に置かれた、丸くてふわふわした、白の猫のようなデザインだった。そのぬいぐるみは、愛らしく明るい笑顔を浮かべていた。
招き猫?
「あ…あぁ、かわいい!」
思わず口走ってしまった。
みんなが振り向いた。
しまった!
「すみません、これはうちの子が作ったんです。」
振り返ると、店長が立っていた。
「息子がこれに興味を持っていて…オリジナルデザインなんです。」店長は申し訳なさそうに言った。
「息子さん、才能豊かですね。」私はぬいぐるみに微笑みながら言った。
丸くてふっくら…かわいい!
「…ということは、商品なんですね?」殿下が尋ねた。
え?
「はい…はい。」
殿下は何か呪文を唱えたようで、その品物を置くと、「…問題ない、レイ!」とおっしゃった。
「はい。」殿下の後ろに控えていた護衛は、すぐに店主と交渉しに行った。
え?
気づけば、私はぬいぐるみを抱えて店を出ていた。




