間章 03
…どうすればいいの?
まさかこんなに早く婚約するなんて思ってもみなかった。
マナに尋ねた後、他のメイドたちにも聞いてみた。断片的な情報から、マナが言っていたことを要約すると、アンナは婚約間近で、しかも今週末だという。
アンナはこの1、2週間、ほとんど姿を消していて、完全に休暇を取っている。事態の深刻さを改めて実感した。
「エ…ンさん…」
今は宮殿で授業を受けているのだが、このことが気になって仕方なく、教科書をじっと見つめながら、授業を受けているふりをしている。
マナによると、二人は貴族街にあるレストランでお見合いをするらしい。東の王女と密かに会ったのと同じレストランだ。そんな高級な場所でのお見合い…本当に婚約するんじゃないかと思う。
アンナの状況を考えると、何かした方がいいんじゃないか?
知り合いが危機的な状況に陥っているのに、私はただ傍観しているだけで何もできない。
でも、もし助けるべきなら、どうすればいいんだろう?
「エ…ンさん…」
そんな考えが頭の中をぐるぐる駆け巡り、頭を悩ませていると、突然誰かが近づいてくるのに気づいた。
「エヴァンさん、具合が悪いのか?」
えっ!
顔を上げると、歴史と薬草学の先生、モーリス・マーティンだった。確か、彼は学者の家系の出身だったはずだ。彼は私に問いかけるような視線を向けていた。
そうだ!
興奮のあまり、私は飛び上がって「先生!助けてください!」と言った。
「え…エヴァンさん、どうしたんだ?」
先生は僕の慌てぶりに驚いたようで、数歩後ずさりした。
「レティシア嬢」
突然、背後から殿下の声が聞こえた。我に返った。
そうだ…そうだ、まだ授業中だ!
「先生、すみません、授業後に少しお時間をいただけますか?」
「ああ、ああ…もちろん、エヴァンさん。」先生は頭を掻きながら教壇に戻った。
顔を真っ赤にしながら、急いで席に着き、授業を再開した。背後には妙な空気が漂っていて、振り返るのが怖くて震えが止まらなかった。
うっ!殿下!後で説明します!少し待ってください!
結局、先ほどよりもさらに緊張してしまった。
「先生、ルパート・クインをご存知ですか?」
授業後、私は慌てて先生に問い詰めた。クラスメイトたちは教室を出ることなく、静かに私を見つめているようだった。
…どうしてみんなこんなに詮索好きなんだろう?
うっ!何だか妙なプレッシャーを感じる。
興奮しすぎたのが全て私のせいだ。もうみんなに知られてしまった。
今は放っておいて、後で説明しよう。先生は少し考えてから、「クイン伯爵…知っています。先輩で、何度か共同研究をしました」と答えた。
何度か共同研究…本当にそうだったかな。
「少し失礼かもしれませんが、彼の印象はいかがですか?」
「えっと…ああ、口数の少ない方だったと思いますが、好きな話題になると饒舌になる方でした。研究に情熱を燃やす先輩でしたね」
口数が少ない…?特に悪い印象ではないようだ。
先生は照れくさそうに付け加えた。「学者って大抵そういうものですよね。私も例外ではありませんが…はは」
はは…先生って本当にあまり話しかけてくれないんだよね。
「先生はすごく優しくて気さくで、教え方もとても分かりやすいんです。いい先生ですよ。」
「…エヴァンさん。」先生は突然、照れくさそうに微笑んだ。
私たちは顔を見合わせて微笑んだ。
…
はっ!待って、まだ聞きたいことが全部終わってない!
「先生、アール・クインさんが他の女性と付き合っているという噂って何かありますか?」
この機会にアール・クインの恋愛遍歴を知りたかったんです。もし浮気してたら、いい言い訳になるし。
「…覚えてないな。」
「そう…」
先生はごく普通の人に見える。本当に恋に盲目なだけなのかな?
「ああ、噂があったんだ。アール・クインはバルク教授とすごく仲が良かったらしい…当時、私たちの先生だった。中には、二人の間に何かあったんじゃないかと冗談を言う人もいた…ははは、まさかそんなことありえないよ。ただ学問に情熱を傾ける二人だっただけさ。」先生は乾いた笑いを漏らした。
…BLの噂!?それに…バルク教授は…
予想外の情報に、私は思わず目を瞬かせた。
先生は私の驚いた表情に気づいたのか、慌てて「はは、ごめん、エヴァンさん。今のことはなかったことにしてくれ。」と言って頭を掻いた。
待って…待って!もう一つだけ質問させてください。
「あの…すみません、先生。最後に一つだけ質問させてください。バルク教授も学問に情熱を傾ける先生なんですか?」
「ああ、歴史と宗教に深い情熱を持つ先生だよ。」
その後、私は先生にお礼を言い、教室を出ていく先生を見送った。
バルク教授…確かゲームの中では、皆が彼を校長先生と呼んでいたので、敬意を込めて校長先生と呼ばれていたはずです。記憶が少し曖昧ですが、リリスの両親を殺害した犯人、すべての黒幕は彼だったはずです。
彼はクイン伯爵と良好な関係にあった…ゲーム中ではそのことは触れられておらず、伯爵自身も登場しなかった。
情報によると、彼は誰かと繋がっているようで、クイン伯爵も怪しく思えてきた。何かがおかしい。
考えすぎだろうか?
いずれにせよ、彼はアンナの婚約者になる可能性が非常に高く、不安でたまらなかった。
要するに、アンナに関することはすべて先延ばしにして、時間を稼ぐのが最善だと感じた。
複雑な思考の渦に巻き込まれていると、突然背後から恐ろしい声が聞こえた――
「終わりだ、レティシア嬢。」
……
……その声に背筋が凍ったが、無視するしかなかった。
慌てて振り返り、無理に笑顔を作り、「はい、殿下」と答えた。
殿下も微笑み返したが、明らかに作り笑いだった。
ゲームの中では洗練された優雅な貴族だった彼が、なぜ今、魔王のような雰囲気を醸し出しているのだろう?
その時になって初めて、他の者たちも殿下の傍らに立って、私を見ていることに気づいた。
アルジャーは面白そうに見ていたが、デュークとアイリーンは心配そうな顔をしていた。
二人とも「説明しろ」と言わんばかりの雰囲気だった。
はは……襲撃されて、ひどい風邪を引いて、色々あった。きっと何かあったんじゃないかと心配しているんだろう。
どうやら、全部話さなきゃいけないみたいだ。




