間章 02
…これはまずい。
普段なら気にも留めない足音の強弱が、今日は妙に気になった。
「…」
「…」
アンナと廊下を歩いていたのだが、背後に重苦しい気配を感じていた。
アンナは休暇から戻ってきて以来、ぼんやりしていて、足取りも明らかに重くなった。時々、彼女がそこにいることを忘れてしまうほどだったが、今は背後に彼女の存在を強く感じていた。
どうやら、何かがおかしいようだ。
最初は様子を見ようと思っていたのだが、ここ数日、状況は悪化しているように見える。魔法の授業中も上の空になっている。
助けてあげた方がいいかもしれない。
アンナはいつも真面目で、一緒に過ごす時間も多い。近所でこんなに苦しんでいる人がいるのを見ると、何か力になれることはないかと思ってしまう。
でも、どうすればいいのだろう?
アンナの状況を知っている人…父が一番よく知っているだろうけど、口出しするなと言われるかもしれない。
母は…うまくいくかどうか分からないけど、過保護すぎるから、おそらく無理だろう。
じゃあ、アンナの友達か同僚に聞くしかないかな?
でも、アンナの友達関係についてはあまり知らない。アンナは自分のことをあまり話さないし、口数も少なく、必要なことしか話さない。私もあまりおしゃべりな方ではない。アイリーンみたいに、共通の趣味を持つ人としか話さない。アイリーンとはとても気が合う。
…私たちは距離を置いている。
そう考えると、苦笑してしまう。身分や年齢、主従関係の違いはあるものの、別に不思議なことではない。
そう考えると、結局は同僚しかいないだろう。
アンナはほとんどいつも私のそばにいる。他のメイドたちは交代で私の世話をしてくれる。アンナは彼女たちと何らかの関わりがあるはずだ。彼女たちに聞いてみようと思う。もしかしたら誰か知っているかもしれない。
ふむ!聞いてみよう!
アンナは明日も休みだから、代わりのメイドに聞いてみよう。
翌朝、メイドたちが私の身支度を終えた後、私はすかさずこう尋ねた。
「アンナは最近何かトラブルに巻き込まれたの?心配で…」
私の質問を聞いて、メイドたちは一瞬動きを止め、私の方を見た。
「…お嬢様」一人のメイドがためらった。
「アンナは…トラブルというより、その…」
その…?
私はメイドの一人を見たが、別のメイドに遮られた。
「ちょっと待って、マナ」
口を開こうとしたメイドはマナという名前で、ミディアム丈のオレンジ色の髪、ライムグリーンの瞳、そして特徴的なアホ毛が突き出ていた。
「ええ、これは良い知らせです。ヴィオラさんもお伝えしてもいいと思いますよ。」
「たとえ良い知らせだとしても、当事者にとっては…」
もう一人のメイドはヴィオラという名前で、長い薄緑色の髪に茶色の瞳、眼鏡をかけていた。
「…」
「…」
二人のメイドは突然話し始め、私は会話から取り残され、ただ呆然と見つめるしかなかった。
えっ!良い知らせ?一体どういうこと?!
いや、二人とも知っているのなら、私が確かめなければ。
「マナ、ヴィオラ。」
私は少し大きな声で呼びかけ、二人の会話を止めた。
ああ…ふと気づいたんだけど、周りのメイドたちの躾もやらなきゃいけない仕事なんだ。なんだか変な感じ。
メイドたちの行儀はご主人様の評判に影響するから、必要に応じて躾けなくちゃいけない。
考えてみれば、アンナがいる時はいつも彼女が全部やってくれる。気づかないうちに、彼女に頼りすぎているのかもしれない。
アンナは女官としての経験があるから、実質的に私に割り当てられたメイドたちの面倒を見ている。
「申し訳ございません、お嬢様。」
二人は私の呼びかけにぴたりと動きを止め、慌ててお辞儀をした。
「アンナは私の専属メイドです。個人的なことではありますが、彼女の仕事に影響が出ているので、事情を知る権利があると思います。」
アンナ以外のメイドたちとも知り合っておいた方がいいかもしれない。
ああ…頭が痛くなってきた。
「…お嬢様。」
これまでこんなに直接的に話したことはなかったと思う。二人は少し戸惑っているようだった。このぎこちなさは、もっと二人とコミュニケーションを取るべきだということを示唆している。アンナに頼りすぎていた。
そう考えると、ふと殿下のことを思い出して、また頭痛がしてきた。
…
はぁ、まずはアンナの件を片付けよう。
二人は顔を見合わせ、それから私の方を向いて言った。
「大変申し訳ございません、お嬢様…アンナに求婚者ができたのです」とヴィオラが言った。
「アンナはとても幸運だわ。相手は伯爵家なのよ」とマナは言った。
「ええと…お嬢様、マナの言葉に惑わされないでください。これはアンナにとって決して幸運なことではありません」
「ふむ…これは明らかに良いことだ。彼女が望まないなら、私が引き取ろう」
「マナ!」
マナはどちらかというと率直な性格のようだが、率直すぎることが必ずしも良いとは限らない。状況にもよるので、必要に応じて修正すべきだろう。
「マナ、客観的かつ具体的な説明をしてください。」
「…はい、申し訳ございません。」
ふむ、教えれば直るタイプみたいだ。少なくとも謝るし。
「…ヴィオラ、ご提案ありがとうございます。アンナの求婚者について、もう少し詳しく教えていただけますか?」
ヴィオラは比較的落ち着いているように見えるが、やはり影響されやすい。決断力に欠けるようだ。
「お褒めいただき光栄です。アンナの求婚者はルパート伯爵です。夏至祭の政略結婚で出会いました。」
夏至祭から今まで…ということは、最近アンナを困らせているのは彼だったのか!
私は頷き、ヴィオラに続きを促した。
「あの…アンナは…明らかに彼のことが好きではないので、何度も断っているんです。」
ええ、それは明らかです。
私は頷き、こう言った。
「続けてください。」
ヴィオラは少し気まずそうな表情で私を見て、こう答えた。
「…あの…申し訳ありません、ヴィオラが知っているのはここまでです。」
「えっ!それだけ?わ…わかりました、ありがとう、ヴィオラ。」
彼女の表情から察するに、確かにそれが彼女の知っている全てだったが、あまりにも情報が少なすぎた。
彼女の経歴を調べてみるべきだろうか?でも、どうやって自分で調べればいいのだろう?
解決策を必死に考えていると、マナが突然口を開いた。
「お嬢様、もう少しお話させてください!」
彼女が急に自信満々になったので、私は頷いて話を続けさせた。
「相手はそれ以来ずっと彼女に言い寄っているが、アンナは何度も断りながらも諦めずに迫り続けている。何しろ彼は伯爵家の人間だから、アンナもあまり直接的な態度は取れない。それに、アンナの家族も賛成しているので、アンナが頷けばいつでも婚約できるのだ。」
婚約はいつでもできる!両家のご両親はもう合意済みみたいね?
この予想外の情報に一瞬驚いたが、マナは平然と話を続けた。
「婚約はいつでもできるわよ!両家のご両親はもう合意済みみたいね?」
この予想外の情報に一瞬驚いたが、マナは平然と話を続けた。
「クイン伯爵の次男、ルパート・クイン伯爵よ。学問の家系で次男だから、長男の重荷を背負うこともないし、騎士のように常に死の危険にさらされて奥さんを一人残す心配もない。しかも、今は安定した教師の職に就いていて、伯爵家との結婚にも抵抗がなく、伯爵家からの支援も受けているの。誰もが羨む、まさに理想の相手よ!どうして私じゃないの!?」
マナの興奮した言葉に少し戸惑ったが、幸いにも冷静さを保った。
つまり、マナの自己認識については今は一旦無視することにしよう。
もし相手が、マナが言ったように、一生に一度しか訪れないような絶好の機会であるならば。
しかし、これはアンナの家族にとって都合の良いことばかりだ。全く見知らぬ伯爵家が、なぜ突然アンナにこんなに親切にするのだろう?
諺にもあるように、一見完璧なものには必ず裏があるものだ。
だが、マナは意外と情報収集が得意なようだ。
私が様々な憶測や混乱に巻き込まれている間に、マナは衝撃的な事実を告げた。
「来週、またお見合いに行くらしいわ。もう婚約みたいなものよ。」




