第5章 06
「見て、新鮮な鶏肉だよ!」
「全部届いたての新鮮な果物!甘くてジューシー、保証付き!お見逃しなく!」
「ぜひ食べてみて!全部手作りだよ!」
街の中心部に足を踏み入れると、まず聞こえてきたのは露店商たちの叫び声。その後も絶え間なく続く声と値切り交渉の声が響き渡る。周りを見渡すと、昨日よりも明らかに人が多い。このままでは人混みに押し流されてしまいそうだ。急な変化に少し戸惑い、思わず立ち止まった。
まるで昔ながらの、雑然とした市場のようだった。
昨日はこんな風に考える余裕はなかったけれど、今は落ち着いてきて、新鮮な感覚とともに、どこか懐かしく、懐かしい雰囲気が漂っている。
ジーンは私が人混みについていけていないことに気づき、すぐに振り返って「レディ、大丈夫か?」と声をかけてくれた。
「大丈夫です、ちょっと慣れていないだけです」と私は慌てて答えた。
「お嬢様、明らかにこの状況に慣れていないようですね。貴族は普通、貴族専用の店で買い物をするから」とジーンは意地悪く笑った。
ジーンの少し皮肉っぽい言葉に、私は少々戸惑った。
どうやらそれが常識らしい。もし一般人に聞かれていたら、あまり見栄を張っているように思われないように、軽く受け流していたかもしれない。
しかし、相手は貴族を目指すジーンなので、将来笑いものにならないように、貴族の基本的な知識を彼に伝えるべく、我が家の事情をきちんと説明することにした。
「…他の方は知りませんが、我が家ではいつも商人が家に来てくれます」
日用品はもちろんのこと、服もすべて仕立て屋にオーダーメイドで作ってもらっています。母はいつも私の服を熱心にデザインしてくれて、仕立て屋さんには大変迷惑をかけているけれど、そのことを考えると家族のことが心配で胸が締め付けられる。
早く家に帰らなくちゃ!
この話を聞いたジーンは驚いて叫んだ。「屋敷まで商人が直接来るなんて…!さすがはお嬢様だわ!」
「うーん…まあ、上流階級の貴族ならそうなのかもしれないわね。他の人たちはどうかしら。自分で店に行かなきゃいけない人もいるかもしれないし。」
「こんな振る舞いをするのは、上流階級の貴族か、裕福な貴族だけでしょうね。」
「想像以上にすごい方ですね、お嬢様。失礼いたしました。」
ジーンは意地悪く微笑み、形式的な敬礼をした。
まったくもう!
私は思わず頬を膨らませて不満を表した。
貴族の家に生まれ、殿下の婚約者として、私は階級制度の厳しい現実を目の当たりにしてきた。他の貴族たちの模範となるべき存在なのだ。リーダーが無謀な行動をとれば、下の階級もそれに倣うことになる。
私は微笑んで言った。「ジーン、私たちは今、対等な、互いに支え合う関係なのよ!」
しかし、前世の記憶がまだ残っているため、私はまだ世間知らずなところがあり、だからこそこんな風に考えてしまうのだ。私たちは今、互いに支え合う関係にあります。少なくとも家に帰るまでは、友好的な関係を維持し、お互いを平等に扱いたいと思っています。
「えっ!」ジーンは一瞬にして言葉を失った。
そんな彼を前にして、私はさらに慎重に言った。「家に帰るまでは、上下関係のない、対等な関係を築きたいと思っています。」
ジーンは平静を取り戻し、「お…レディ」と答えた。
私は彼をまっすぐ見つめながら続けた。「あなたが私を家に帰るさせてくれたら、私はあなたの孤児たちの未来を助けます。」
「…………」
ジーンは突然うつむき、黙り込んだ。
騒がしい話し声は続いていたが、まるで防音壁で隔てられているかのように、私たちの間には完全な静寂が訪れ、何の音も聞こえなかった。
静寂は続いた。私はジーンを見つめ続けたが、次第に不安を感じ始めた。
……これはあまりにも突然で、あまりにも不自然だったのだろうか?
彼の突然の沈黙に、私は緊張し始め、何か言いたくて口が動きそうになった。
ジーンは突然顔を上げ、「……ありがとう……」と言った。
ジーンは何か言ったようだったが、私には聞こえなかった。
彼がいつもより声が小さかったので、もっとよく聞こうと近づいた。
私が近づくと、ジーンは突然「ああ、なんて変なお嬢様だ!いつも私のリズムを乱すんだ!」と叫んだ。
ジーンはそれから、ひどく動揺している様子で、慌てて頭を掻いた。
しかし、なぜ彼がそんなに動揺しているのか分からなかったので、私はじっと立ち尽くし、彼が落ち着くまでその様子を見守っていた。
ジーンが落ち着くと、彼は私を見て「さあ行こう…レディ」と言った。
レディ!
その名前を聞いて、私は嬉しくなって「はい!」と答えた。
私たちは立ち止まることなく、警備所に向かって歩き続けた。
ジーンが私の名前を呼んだということは、私の言葉を受け入れてくれたということだった。




