第4章 01
8/1更新休む
観客席からは、次から次へと人が押し寄せるにつれ、けたたましい騒音が響き渡った。
私は小さな手を必死に群衆に向かって振った。
…手と頬が激痛で悲鳴を上げていた。
これで十分だろうか?もう30分近く経っている!
今、私は王都の高い壇上から、笑顔を保ちながら小さな手を群衆に振っている。この仕草は、もうずいぶん長い間続けている。
今の私の位置は、実は観客席からかなり離れている。おそらく、私の姿は見えないだろう。
…少し気を抜いても、気づかれないはずだ…いや、いや、何を考えているんだ!
長い時間と絶え間ない手を振り続けたせいで、最初の緊張感はすっかり消え失せていた。ただ、一刻も早くここから立ち去りたい。
私は、隣に立つ殿下をちらりと見た。濃い緑を基調に白のストライプが入った正装のスーツを身にまとい、まさに王子の風格を漂わせる彼は、手を振り始める前と全く変わらず、完璧な笑顔と仕草を保っていた。
ああ!流石幼い頃から経験を積んできた人。
国王陛下が夏至祭の開始を宣言すると、王室の方々は壇上から人々に手を振り、挨拶をした。これは、王室と国民が一年で最も親密な時間を過ごす瞬間だ。
今年は特別ゲストとして招かれた私は、ひときわ目立っていた。もっとも、実際には、結婚によって正式に王室の一員となった者だけがここに立つことができるのだが。
事情を知っている者たちは、私の目的は皇太子殿下が不在であることを隠し、第二皇子とその婚約者に注目を集めることだと理解していた。大勢の人々は、おそらく殿下と私に興味を持って集まっていたのだろう。
私はロボットのように同じ動作を30分間繰り返し、ようやくその場から解放された。
***
ようやくロボットモードから抜け出し、宴会場へと向かった。会場は鮮やかな緑と白を基調とした装飾で彩られていた。アーチ型の天井の中央には、精巧に作られた大きなクリスタルシャンデリアが吊り下げられ、周囲には小さなクリスタルシャンデリアがいくつも並び、明るく優雅で豪華な雰囲気を醸し出していた。テーブルには美味しそうな料理がずらりと並び、床には色鮮やかな花々が咲き誇り、我が国の特色を際立たせていた。
「皆様、ようこそ。今年も皆様と共にこの祭りを祝えることを大変嬉しく思います。この素晴らしい機会を共に喜びましょう!」 国王陛下の挨拶の後、宴が始まった。楽団の演奏が始まり、客たちは談笑を始めた。その夜には社交ダンスが催される予定だったが、私はまだ未成年なので参加する必要はなかった。
ゲームのエンディング前に、学校で卒業ダンスパーティーが開かれ、ヒロインは自分が心を射止めた男性主人公にダンスに誘われる場面があったのを覚えている。二人が一緒に踊るイラストは息を呑むほど美しく、このゲームで最も視覚的に魅力的な部分だった。
レティシアは舞踏会の前に殺害されたので、当然出席できなかった。プレイヤー同士の会話では、「誰かが死んだのに、どうして学校は舞踏会を普通に開催できるんだ?」「王子はどうしてヒロインと平然と踊れるんだ?」といったコメントが見られたが、それらは単なる雑談だった。彼女は脇役であり、誰も気に留めていなかった。
…私は出席できるのだろうか?
そう考えると胃が痛くなる。もう考えないようにしよう!
考えるのはやめて、今の状況に早く向き合おう。
私は今、国王陛下と王妃陛下に付き添い、祝賀に訪れた様々な賓客を出迎えている。宰相も同席し、賓客の対応にあたっている。しばらく会っていなかった宰相は、以前よりもずっと元気そうに見える。デュークの失踪後、早く帰宅して休養していたようだ。
「陛下、この夏至祭が無事終了を願っております。」
「殿下、ご婚約おめでとうございます。」
「巫女の成功を心よりお祈り申し上げます。」
次々と到着した多彩な賓客たちは、まばゆいばかりの美しさだった。東王国出身と思われる褐色の肌をした者や、白髪の北王国出身者を除けば、西王国の賓客たちは見分けがつかず、宰相の紹介に耳を傾けるばかりだった。
「ついに、伝説のミス・エヴァンにお会いできるとは。巫女と同じように、彼女の未来は本当に楽しみですね。」
目の前に立つその女性は、鮮やかなオレンジイエローの髪、エメラルドグリーンの瞳、そして魅惑的なVネックの赤褐色のドレスを身にまとい、自信に満ちた佇まいから力強いオーラを放ち、突然私の名前を口にした。
私は慌てて記憶を辿り、名前を思い出そうとした。宰相は彼女が外国人だとは言っていなかったのだから、きっと貴族の誰か、つまり私は知ってべきの人。必死に探し回った末、最近必死に暗記していた貴族名簿の中から、ようやく該当する名前を見つけた。
「お褒めの言葉、ありがとうございます、ガルシア様。」
「ふふ。」
その鮮やかな髪の色と、女性の微笑みから察するに、私の推測は正しかったようだ。
突然話しかけてきた女性は、南部最大の領地を所有するガルシア家の女主人でした。その領地は国内で農業生産高が3位を誇るだけでなく、繊維産業も盛んでした。鮮やかなオレンジがかった黄色の髪は、ガルシア家の特徴でした。
そういえば…母の過去についてはまだ聞いていませんでしたね。
別荘から戻ってからは、より高度な礼儀作法のレッスンを受け始め、貴族の名前を必死に暗記しました。あまりの忙しさにめまいがするほどで、他のことを尋ねる暇など全くありませんでした。魔法については、両親には「魔女に啓示を受けた」とだけ伝え、関連する講座も何も受講していませんでした。両親の驚いた表情は今でも鮮明に記憶に残っています。
ガルシア様を見つめ、微笑んだ後、皇后様の方を見てこう言いました。
「陛下と皇后様はとてもお仲睦まじいようですね。羨ましい限りです。」
「ふふ、ガルシア様も同じです。」
皇后様はとても幸せそうだったが、ガルシア様の言葉には何か裏があるのではないかと、私は疑心暗鬼になっていたのかもしれない。もしかしたら、彼女にじっと見つめられているのが居心地悪かったからかもしれない。
陛下の右腕は皇后様の腰に回され、皇后は陛下に寄りかかっているように見えた。二人は耳元で囁き合い、とても仲睦まじく、羨ましいほどのカップルに見えた。参列者たちは皆、二人の素晴らしい関係を称賛した。
…何とも奇妙な。
壇上からはあまり気づかなかったが、今は疑念で頭がいっぱいだ。
次々と客人が到着し、私はますます戸惑いながら、こっそりと彼らに視線を向けた。
先ほどのお茶会を思い出し、今、二人の普段とは違う親密なやり取りを目にすると、皇后様は演技をしているようには見えなかった。心からの喜びのように見えた。
皇后様が今さら驚くようなことをするとは思えないが、この奇妙な感覚は私の心に残り続けた。
「レティシア嬢はもう母上の様子に気づかれたでしょう。」
私が皇后様をじっと見つめていたせいか、突然、殿下が私に話しかけてきた。
「…ええ。」
「息子である私にとっては複雑な心境だが…しばらくは平穏が続くようだ。」
殿下は私の傍らで囁いた。
「殿下?」
「二人は仲直りした。」
殿下は苦笑いを浮かべながら、国王陛下と皇后様を振り返られた。
「……」
私は頷き、再びお二人に目を向け、殿下の言葉をじっくりと考え込んだ。国王陛下と皇后様は、一体どのようにして関係を修復されたのだろうか。
私は再びお二人の表情を観察した。皇后様の喜びは明らかで、国王陛下もまた愛情を示されていた。
皇后様は、憎しみは愛から生まれ、愛は愛から生まれるなのだ。
じっと見つめるのは不適切だと感じ、私はさりげなく他の客たちに目を向けた。




