第3章 09
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私は慎重に、扉の外にいた衛兵に到着を知らせるよう頼みました。間もなく、入室を許されました。私は殿下の婚約者ではありましたが、貴族の作法では男女が同じ部屋にいるのは不適切とされていたため、扉は開け放たれていました。
殿下の部屋は私の部屋より少し広かったものの、間取りは似ていて、やはり青を基調とした内装でした。唯一の違いは、床から天井まで届く大きな窓ではなく、普通の窓だったことです。おそらく防犯上の理由でしょう。
殿下は上品なテーブルに優雅に腰掛け、お茶を飲んでおられました。
「レティシア嬢、どうされましたか?」
「殿下のお邪魔をして申し訳ございません。」
私が殿下にお辞儀をすると、殿下は私に座るよう促されました。
召使いがお茶を勧めてくれましたが、私は丁重にお断りし、すぐに席を立つ旨を伝えました。
森での騒動の後、連絡を取った騎士たちとの交渉に殿下が最も多くの時間を費やされ、私たちの中で最もお忙しい方でした。ようやく休息を取られたので、あまり長く邪魔したくありませんでした。
「レティシア嬢はその後、何か変わった症状はありましたか?」
「ご覧の通り、全く問題ありません。」
「安心しました。」
「ご心配いただきありがとうございます、殿下。」
どう尋ねようか少し迷ったものの、時間が限られていることもあり、思い切って直接尋ねることにした。
「殿下、先ほど少しの間、広間にいらっしゃったと伺いました。何にご用だったかお伺いしてもよろしいでしょうか?」
殿下は必ず食事の前に毒がないか検査されるので、何でもかんでも召し上がるような方ではありません。こっそり一口でも食べられる可能性は極めて低いのですが……それでも知りたかったのです。
「……」殿下は私に微笑みかけた。
「……」私も微笑み返した。
私の意外な質問に、殿下は戸惑われたのかもしれない。
しかし、直接説明すれば、もし本当にこっそり一口でも食べていたとしても、簡単に隠蔽されてしまう。
……もし本当にこっそり一口でも食べていたとしたら、私には何も言えない。
「……殿下がお答えいただければ、大変助かります。」
「……」
私はしばらくの間、真剣に殿下を見つめた。殿下は苦笑いを浮かべながら、「なぜレティシア嬢がそんなことを尋ねられたのかは分かりませんが、アルから貴重な家宝の剣が見られると聞いていたので、興味がありました。残念ながらアルはまだ到着していませんでしたし、他にも用事があったので、先に離れる」と答えた。
もしそれが本当なら、殿下にはこっそり何かを食べる時間などなかったはずだ。
テーブルの上のティーセットをじっと見つめた。お茶に添えるお菓子は他に何もなかった。殿下がデザートをお召し上がりになるのを見た記憶がない。もしかしたらご興味がないのかもしれない。
しかし、家宝の剣…本当にあったのか!
…もしかして、さっき通り過ぎた剣だろうか?
デュークとの会話を思い出した。何かがおかしい――
(「ええ、スチュワートを探していました。アルジャーと他の人たちしか見かけなかったので、そのまま立ち去りました。」)
デュークの言う通り、アルジャー以外にも人がいたようだ。
一体誰だろう?
私は慌てて殿下に尋ねた。
「あの時、他に誰か広間にいましたか?」
「ジョニー卿がいました。」
そうか、アルジャーが通り過ぎた時に彼を探していたと言っていた!
「お尋ねのことはお答えできましたか?」
「はい、ご回答ありがとうございます、殿下。」
「よかった。」
アルジャーとジョニーはひどく怪しい。すぐに尋問しないと!
「レティシア嬢、何かお手伝いできることがございましたら…」
「ありがとうございます、殿下。どういたしまして。お手数をおかけしません。」
「…」殿下は何か言いたそうにしていた。
私は急いで立ち上がり、殿下にお別れを告げた。
もし殿下に私が不正行為の犯人を突き止めようとしていることが知られたら、からかわれるかもしれない。だから、早く立ち去るのが最善策だった。
「…早く真相が分かるといいですね。」殿下は苦笑いを浮かべながら言った。
「はい!」
殿下に報告した後、私は急いでその場を後にした。
しかし、冷静に考えてみると、本当に些細なことだった。衝動的な考えはかなり収まっていたが、それでも犯人が誰なのかを知りたい気持ちは残っていた。
道すがら、メイドたちにアルジャーの居場所を尋ねた。彼は別の、もっと人目のつかない部屋にいることが分かった。私は急いでそちらへ向かった。
ドアのところで、アルジャーとジョニーが作業しているのが見えた。 「…お邪魔して申し訳ありません。」と私は小声で言った。
「ああ、レティシア、ちょっと待って。」
「…」
ジョニーの動きを見ながら、私は頷いた。彼は剣に一心不乱に油を塗っており、アルジャーは静かに、そして注意深くその傍らで見守っていた。私も無意識のうちに息を呑み、見守っていた。
その剣は、先ほどアルジャーのそばをかすめるように通り過ぎるだった。普通の剣と見分けがつかないため、殿下がおっしゃっていた家宝かどうかは確信が持てなかった。しかし、二人の真剣な表情から、そうだろうと思った。
…まさか。もっと豪華なものだと思っていたのに。
「…」
「…」
しばらくして、ジョニーは剣に油を塗り終え、丁寧に鞘に収めた。それから、鞘の下に敷いていた布を取り、丁寧に鞘を拭き、以前よりもずっと輝きを増した。
「…終わりました。」
「…ああ。」アルジャーは珍しく安堵のため息をついた。
私も安堵のため息をついた。妙な緊張感が漂っていた。この作業に取り組むにあたって、あまり気を散らすわけにはいかなかったからこそ、あえてここでやることを選んだのかもしれない。
「何かあったんですか、レティシア?」アルジャーとジョニーが私のほうを見た。
「さっきまで別の部屋にいたんですか?」
「ええ、邪魔されたくなかったのでここに来た。」
「……」
そういうことか。
私は続けて尋ねた。「別の部屋にいた時、テーブルの上に何か気付いたものはありませんでしたか?」
「テーブルの上ですか……ああ、食べ残しがあったような気がします。」アルジャーは頭を掻きながら言った。
「……」
アルジャーは到着する前に食べられてしまったのか?待て、犯人は誰だ?
これまでの質問の情報をまとめてみよう。アイリーンはユラ夫人より先に到着し、デュークはアルジャーたちと一緒で、殿下はアルジャーが到着する前にジョニーと一緒だった。
……もしアルジャーでないとしたら、あの老紳士ジョニーなのか!?
どうやって突き止めればいいんだ?
頭を悩ませているうちに、ふとスチュワートの提案を思い出した。
(「混乱してる愛らしい妖精さんにちょっとしたヒントをあげよう。クレームブリュレは誰かの好物なんだ。」)
これは判断材料として使えると思う。
「アルジェはクレームブリュレ好き?」
「甘いものはあまり好きじゃないんだ。甘すぎるものは苦手で。」
昨日の夕食をあんなに美味しそうに食べていたのを思い出して、少し驚いた。
その時はダイエットのことばかり考えていて、彼がデザートを食べたかどうかは気にしていなかった。
それからジョニーの方を見て、聞きたいけど恥ずかしくて言えずにためらった。
「…」ジョニーは静かに剣を見つめた。
…彼は目をそらしたような気がした。
「あ、おじいちゃんは大好きなんです!クレームブリュレがきっかけで、おばあちゃんにプロポーズしたんですよ!」
「プロポーズだって!」
思いがけない秘密に驚愕した。
クレームブリュレがきっかけでユラ夫人にプロポーズ?全く予想外だ!「男の心をつかむには胃袋から」って、こういうことなのか?犯人は間違いなくジョニーだ!
「…ごめん。」
ジョニーはぎこちなく謝った。
「いや…いや、こうなってしまった以上…大丈夫だよ。」
何しろ、それは彼の好物であり、愛する妻の美味しい手料理なのだから。目の前にあったら、彼が抵抗できないのも無理はない。
…食べ物に年齢は関係ない、そうだろう?
それに、今回の調査で怒りも収まった。ただ真実を知りたいだけだ。真実は明らかになる。それで十分だ。
「ありがとう。ユラにまた作ってもらうよ。」
「いいよ、構わない。」
もともとはユラ夫人の招待だったのだ。
私たちの会話を見ていたアルジェは、ひどく困惑した様子だった。アルジェの前でジョニーの威厳を保つため、私はそれ以上何も言わないことにした。
…どうやら、知るべきではない秘密を知ってしまったようだ!
「昨晩は本当に申し訳ありませんでした、レティシアさん。」
今朝、私が帰宅の準備をしていた時、ユラさんとジョニーさんがまた謝罪に来てくれました。
「いえいえ、気にしないでください。」
「後でたくさん作りましたので、どうぞお持ち帰りになってご家族と召し上がってください。」
ユラさんはアンナにバスケットを手渡しました。中にはクレームブリュレがぎっしり詰まっているようでした。
「ありがとう。」
昨晩はもうどうでもよくなっていたけれど、目の前にこうして見ると、やっぱり胸がキュンとする!
まずは馬車の中で一つ食べよう!
「…」
籠を持ったアンナは、私が食べようとしていることを知っているかのように、不思議な気配を漂わせながら、黙って私を見つめていた。
本当は「昼間に食べても、夜に食べるより太るわけじゃないよ!」と言いたかった。
「ふふ、お礼を言うのは私の方よ。」
「食べ終わったら、味はどうだったか手紙で教えてね。」
「はい!」
こうしてクレームブリュレ騒動は収まり、私は馬車の中で喜びいっぱいにそれを食べた。家に帰る頃にはほとんど食べ終わっていた。それから間もなく、殿下が突然「最近、ずいぶん丸くなって可愛くなったね」とおっしゃった。それを聞いてショックを受け、本格的にダイエットを始めたのだが、それはまた別の話だ。




