第3章 08
食後の小休憩の後、ユラ夫人と私は広間で談笑した。アイリーンもそこにいたが、一時的に席を外した。
「ユラ夫人がシェパーズパイを作ったんですね!すごい!」
「ふふふ、お世辞を言われて。実は、レシピはとっても簡単なんですよ。」
「実は、ちょっと恥ずかしいのですが、小さい頃から料理が好きだったんです。それに、うちの領地は畜産業が中心なので、作る料理はほとんど畜産に関係しているんです。」
「なるほど。」
ユラ夫人はウォーカー子爵家の出身だ。領地は我が国の北部、国境近くに位置し、山々に囲まれている――平野が広がる我が国では珍しい光景だため、最近熱心に調べている貴族名簿でよく見かける人物だった。
「今、改良版のクレームブリュレを作っているところなんです。レティシアさん、いかがですか?」
私、クレームブリュレ食べたい!
食後だったにもかかわらず、ユラさんのシェパーズパイの美味しさが脳裏に焼き付いて離れず、他の料理も食べたくなってきた。
「お誘いありがとうございます。もし可能なら、ぜひ試させてください。」
前世で食べていた市販のものと、どちらが美味しいのだろうか。これらは全て天然素材で作られているのだから、きっと新鮮で美味しいに違いない。
嬉しくて、思わず笑みがこぼれそうになるのを必死で抑えた。
「すぐにお持ちします。」
ユラさんは微笑んでドアの方へ歩いて行った。
「…お嬢様。」アンナが私を見た。
「ここ数日運動していたから大丈夫よ、アンナ。」アンナの方を振り返って微笑み、安心させた。
デザートは別の胃袋に入ってるよ!クレームブリュレ!
「…」
言い訳だと分かってはいたけれど、目の前にこんなに美味しそうな料理があるのだから、絶対に逃したくなかった!
しばらく待っていると、突然メイドが外に現れた。
「お嬢様、明日の帰路について、いくつかご意見を伺いたいことがございます。」
「…すぐに参ります。」
今日の午後の騒ぎで、明日の朝は早く帰宅することになりそうなので、旅程の変更について彼女と相談する必要があるだろう。
他のメイドたちに、ユラ夫人にすぐ戻ると伝えてもらい、その後、アンナと部屋に戻って話し合うことにした。
部屋に戻る途中、アルジェとすれ違った。
「おう、レティシア。」アルジャーは手に剣を握っていた。
「それは…」
「この剣は少し錆びていて。ジョニーに見せたくて、急いで広間まで来た。」
「なるほど。」
そう言うと、アルジェは慎重に剣を拾い上げ、足早に立ち去った。
「これは本当に困ったことだ。」
部屋で話し終えてホールに戻ると、ユラ夫人が片手を頬に当てて困った様子で立っているのが見えた。
「ユラ夫人?」
「レティシアさん、大変申し訳ございません。お味見はできない。」
「どうしたのですか?」
私のクレームブリュレが!
「クレームブリュレをお持ちした後、メイドから伝言が入ったので、先にこちらのテーブルに置いたのです。」
テーブルを見ると、空になった容器の残骸だけが残っていた。
……まさか……?
「テーブルに置いた後、今朝の漬物を確認するのを忘れていたことにふと気づき、キッチンに戻って確認したら、こんな状態になっていたんです」と、ユラ夫人は苦笑いを浮かべながら言った。
「…どうしてこんなことに?」
…まさか、私のクレームブリュレが食べたなんて!
ショックを受け、思わず少し怒りがこみ上げてきた。
「レティシアさん、大丈夫です。後でまた作りますから…」
「ユラ夫人、犯人探しをさせてください。」
食べ物に対する人の恨みは侮れない!
前世では甘いものが大好きだった私は、この世界で美味しくて新鮮なデザートに出会ってから、甘いものへの愛はますます強くなった。しかも、ユラ夫人が作ってくれたものなのに、食べられないなんて、本当に心が痛む。
「…無理しなくてもいいと思うわ…え?」
頭が真っ白になり、ユラ夫人の最後の言葉も聞き取れずに、誰かに尋ねようと部屋を飛び出した。
近くにいたメイドたちによると、最近私たちの部屋には5人が来ていたらしい。殿下、デューク、アルジェ、アイリーン、そしてジョニーだ。私がいない間にこんなにたくさんの人が来ていたとは驚きだ。一人ずつ尋ねに行かなければならない。
メイドたちに尋ねた後、誰を最初に探そうかと考えていると、廊下でアイリーンに会った。
「レティシアさん、申し訳ありません、遅くなってすみません。」
「いいのよ、私も後で用事があったから。」
「ああ、そうか。さっき戻ったんだけど、誰もいなかったわ。」
アイリーンはついさっき私たちと話していた。もし気づいていれば、私たちに関係することかもしれないと分かって、うっかり食べてしまうはずがない。でも、何があったのか聞いてみるべきだろう。
「アイリーンさん、戻った時に何か気づいたことはあった?」
「何か?どういう意味?」
「以前見たものと何か違っていたの。」
少し考えてから、アイリーンは「…覚えていません」と答えた。
アイリーンの言う通りなら、彼女はユラ様がクレームブリュレを持って戻ってくる前に到着していたのだろう。
「そうですか、ありがとう、アイリーンさん」
「どういたしまして」
アイリーンに別れを告げようとした時、彼女は突然「レティシアさん、この招待がこんな形で終わってしまい、本当に申し訳ありません」と言った。
アイリーンはおそらく、その日の午後の森での騒動のことを言っているのだろう。彼女が連絡を取った騎士たちが私たちに事情を尋ねた後、さらなる調査のためにその地域を封鎖した。そのため、私たちは翌朝早く帰宅しなければならなかった。
…両親も心配して、馬で手紙を送ってきました。
「いえ、まさかこんなことになるとは!皆さんと一緒に来られて本当に嬉しいです!それに、目的も達成できましたし、私の乗馬の腕も上達しました!」
「…それはよかった」
アイリーンの安堵した様子を見て、私もほっとしました。彼女に別れを告げ、現在地を確認した殿下の部屋へと向かいました。
門をくぐると、デュークがスチュワートと談笑しているのが見えました。声をかけるべきか迷いましたが、二人は私に気づきました。
「レティシアさん?」
「失礼、お邪魔して申し訳ありません。」
「可愛いお嬢様、何かご用でしょうか?」スチュワートは紳士らしいお辞儀をしました。
わあ…なんてハンサム!
単なる社交儀礼だと分かっていても、胸が高鳴りました。
もし彼がもう少し若かったら!
ふふ!彼は男爵の准男爵です。これはかなりの身分差のある関係になるでしょうね!
…禁断の恋、素敵!
「…」
ぼんやりと空想にふけっていると、ふとデュークの視線に気づき、慌てて事情を説明した。
「デューク、ちょっとお時間をいただいて、お願いがあるのですが…」
「…ん。」
「どうやら、ここでは何もできないようだ。」スチュワートは少しがっかりした様子だった。
あぁ!若い頃はきっと数えきれないほどの女性を魅了したんだろうな。
「今度こそ必ずお願いする。」
平静を装いながら、彼に微笑みかけ、デュークに尋ねた。
「デューク、ちょっと急なお願いなのですが、先ほどリビングにいらっしゃいましたか?」
デュークは食べ物を盗むをするようなタイプには見えなかったが、念のため確認したかった。
「ああ、スチュワートを探していたんだ。アルジャーたちしかいなかったので、出て行った。」
「ほんの少しの間だけだったんですね?」
「ああ、外から様子を見ていただけだ。」デュークが不正行為をするとは考えにくくなり、アルジャーともう一人への疑念が深まった。
「何か変なことに気づいた?」
「変なこと?」
どう聞いたらいいかな?
「例えば、何か食べてる?」
「食べてる?剣を拭いてるよ。」
え?剣?アルジャーがさっき剣って言ってたような気がするんだけど?
「…どうやら食いしん坊の悪ふざけみたいだな。」スチュワートが突然口を挟んだ。
私はスチュワートを見た。彼は私の目線に合わせてしゃがみ込んだ。
「混乱してる愛らしい妖精さんにちょっとしたヒントをあげよう。クレームブリュレは誰かの好物なんだ。」
スチュワートは意味ありげな笑みを浮かべて言った。
…愛らしい妖精さん。
そう言われると、私の頬はたちまち赤くなった。
「……………………」デュークは何か言いたそうだった。
私は拳を握りしめ、慌てて平静を取り戻した。
「…ありがとうございます。」
彼らに別れを告げ、次の目的地へと歩き出した時、背後からかすかな声が聞こえた。
「…………スチュワートさん。」
「ははは……デュークさん、そんなに睨まないでください。お嬢様、なかなか面白いでしょう?」




