第3章 05
翌朝、思いがけず早く目が覚めた。朝食の準備がまだ終わっていなかったので、湖畔を散歩することにした。起きていたのはロバーツ夫婦だけで、他の人はきっとまだ寝ているのだろう。
なんて美しい!湖底が見える!
もう少し近づいて覗いてみた。水はとても澄んでいて、たくさんの魚が泳いでいるのが見えた。底もそれほど深くはなかった。
「お嬢様、あまり近づきすぎないようにしてください。」
「はい。」
しばらくして、アンナの忠告に従い、湖から少し離れてから、再び湖畔を歩き始めた。
ふぅ~ふぅ~
上機嫌で、前世で好きだったテーマソングを口ずさんだ。
両親が言っていた通り、本当に遊びに来たという気持ちになれる。
まあ、目的が達成できればそれでいいか!
そんなことを考えながら歩いていると、ふとデュークが草の上に座って湖を眺めているのが見えた。
「デューク。」
私の声を聞いて、デュークは振り向いた。
私は頭を下げて、「デュークさんも湖畔の景色を楽しみにいらっしゃったのですか?」と尋ねた。
「…」デュークはうなずいた。
「朝の空気がとても気持ちいいので、ランニングに来たん。」
私は少し驚きながらデュークに尋ねた。
「デュークは朝ランニングが習慣なのですか?」
「ええ。」
「私も走りますよ。朝ではなく午後ですが。」と私は言った。
「…ちょっと驚いた。」デュークは少し驚いた表情をした。
驚いた?どういう意味よ!私は普通のお嬢様じゃないわ!
わたしは将来、犯罪者と戦うんだ!
「…いや、いいんだ」
もしかしたら、表情でバレちゃったかもしれないなとデュークは慌てて付け加えた。
「最近、父さんが早く帰ってくるようになったから、以前より一緒に過ごす時間が増えたんだ」
「それはよかったね」
デュークは湖畔を見つめながら言った。「改めて思ったんだけど…心の内を相手に伝えなければ、決して伝わらないんだ」
私も湖畔を見つめた。
「以前より、父さんの気持ちをもっと信じられるようになった」
私はデュークの言葉に頷いた。
本当によかった。
過去を振り返ると、私は子供の頃、両親がそばにいなかったために物事を誤解することがよくありました。大人になってから、徐々にそういった感情を手放すことができました。デュークが幼い頃にそういった問題を解決できたことは、本当に素晴らしいことです。
そう考えていると、ふとデュークの視線に気づき、彼のほうを見た。
「でも、逆に、あることを口にすると、かえって面倒なことになるかもしれないって気づいたんだ」デュークは苦笑いを浮かべた。
え?戸惑いながら、私は慌てて尋ねた。「どういう意味?」
「もうすぐ朝食の時間だ。行こう」デュークはそう言って立ち上がった。
彼はそれ以上説明せず、別館の方へ歩いていった。
まだ戸惑いながらも、私はただ彼についていくしかなかった。
「…なんて美しいんだ!」
丘の上から見下ろすと、色とりどりの花々が幾重にも重なり、まるで虹のような光景が広がっていた。まるで前世の花の博覧会のようだった。
いいえ、想像をはるかに超える広さです!まるで異国の秘境にいるようです!
「これが伝説の春の告げ花海か?」殿下は意外にも興味津々といった様子で見渡されました。
「…想像していた以上に素晴らしい。」デュークはめったに驚いた表情を見せなかった。
我が国の土壌はあらゆる植物の生育に最適で、他国よりも高品質な農産物を生産し、開花期間も長いのです。これが我が国が農業で名高い理由の一つです。
この花海は、王都の端に最も近い、目立つ丘の上に位置していることから「春の告げ花海」と呼ばれています。王都からその鮮やかな色彩を眺めると、まるで春の訪れを告げられているかのようです。
アルジャーによれば、スチュワートはかつてジョニーの副官だった。平民の生まれではあったが、その卓越した才能ゆえに副官に選ばれた。数々の功績を挙げ、最終的には准男爵に昇進した。ジョニーの昇進に感謝していたため、引退後もジョニーを支え続けた。生涯独身で、現在は屋敷全体の管理を担う執事となっている。
アルジャーの祖父母と同様、彼の髪は白髪だったが、たくましい体格、鋭い顔立ち、そして数々の古傷跡から、今なお相当な力を持っていることがうかがえた。若い頃は、きっと荒々しく、手に負えない男だったのだろう。
これまで出会った誰よりも荒々しく、手に負えない男だったので、思わず何度か彼を見つめてしまった。
荒々しく、手に負えない男…なんて素晴らしい!
「やあ、スチュワートさん、久しぶりだね」とアルジャーは手を上げて挨拶した。
「お久しぶりです、スチュワートおじいちゃん」とアイリーンが言った。
「若様、お嬢様、お二人ともお元気そうで何よりです」とスチュワートは笑顔で言った。
「スチュアートおじいちゃんは今も元気ですね」とアイリーンは答えた。
「この花の海は、重なり合う色彩によって独特の奥行きを生み出していますね」とデュークは興奮気味にスチュワートに言った。
「若様のお褒めの言葉をいただき、光栄です」
デュークは大興奮だった!
その後、デュークとスチュワートは繁殖経験について語り合い、私たちは花畑の脇の小道を馬に乗って散策した。
「波のようにギャロップすると、馬とのリズムを感じやすくなるよね?」
「ええ。」
今日はみんな交代で私の隣に乗ってくれたんだけど、アルジャーは私の隣で滑らかな波のような動きを実演してくれた。
波乗りとは、速歩で立ったり座ったりを交互に繰り返してリズムに合わせる乗り方だ。速歩の間ずっと座りっぱなしの乗り方と比べて、騎手の負担が軽減される。これが「波乗り」と呼ばれる所以だ。
私も疲れるけど、ずっと座って振動に耐えるのとは全く違う体験だ。
乗馬は本当に体力を使う運動だ。
アルジャーはいつもの明るい表情とは違い、少し真剣な顔で言った。「あの…リボン…レティシア、アイリーンを受け入れてくれてありがとう。」
「急にどうしたの?」
アルジャーが急に真剣な顔をしたので、私は彼をからかうのをやめた。
「アイリーンは…まあ、ご存じでしょう、彼女は隠そうとしているけれど、やはり他の女の子とは違うんです。女友達もあまりいないし、私にもどうすることもできないんで。」
「なるほど。それは構いませんよ。アイリーンとずっと良い友達でいられたら嬉しいです。」
貴族社会の淑女の基準は、確かに非常に厳しい。
まだ他の若い女性と会ったことがないことを考えると、夏至祭での公の場での振る舞いの後には、かなりの数の招待が来るだろう…考えると緊張してくる。
「ああ、彼女の面倒を見ていただくようお願いするよ。本当はそうしたいんだけど、今は都合が悪くて、彼女にはとても申し訳ないと思っているんだ」とアルジャーは苦笑いを浮かべながら言った。
「本当はそうしたいんだけど、今は都合が悪くて」とはどういう意味だろう?
アルジャーの沈んだ表情を見て、個人的な問題だと悟り、それ以上は追及しなかった。
アルジャーは普段は気楽そうに見えるけれど、実は重要なことにはちゃんと気を配っているのだと、私はふと気づいた。
ゲームの概念は、私の彼らに対する認識に、微妙ながらも深く影響を与えてきました。
いつもあなたを馬鹿にしていて、本当にごめんなさい!
「レティシア、何かお手伝いが必要でしたら、遠慮なくお申し付けで。あまり複雑でなければ何でもできる。」
「あまり複雑でなければ」と私は笑いながら彼をからかった。
「そうだ、あまり複雑でなければ大丈夫だ」とアルジャーは笑いながら素直に答えた。
私たちは色とりどりの花壇沿いをしばらく馬で進み、分かれ道で休憩するために立ち止まった。ふと、彼にずっと改善してほしいと思っていたことを思い出した。
「…ちょっと、あなたの助けが必要なことを思い出したわ。」
「どうぞ。」
「もうリボンって呼ばないで!」
ちなみに、私の乗馬服も母がデザインしてくれたものだ。リボンはそのまま残っているが、いつもより少し低い位置で結んでいる。いつか母にこのことについて相談しないといけないな。
「あ~、まあ、なるべく。」
「なんで!」
「リボンがないと、君らしくない。」
「…」私は冷たく彼を見つめた。
「私の本当の姿はリボンなの?!」
もう我慢できなくなって、思わず口走ってしまった。
「本当の姿?」アルジャーは困惑した表情で私を見た。
アルジャーって本当にバカ!
心の中で叫んだ。




