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015 家族の反応

本日より、一日二話投稿にります。

12時と20時です。


 ボールドウィン侯爵家を訪問したあの日から、もう一カ月経つ。 エリック様に出会った時はまだ寒さの残る春だったのに、今はもう夏の足音がすぐそこまで聞こえてきていた。


 両家からの許しを得た私たちは、無事に婚約を結んだ。私がボールドウィン侯爵家からの婚約の打診を聞いた時には、すでにアンドリューとの婚約は両家の納得の元、解消されていた。そのため、エリオット様との婚約は何の支障もなく結ぶ運びとなった。


 同時にアンドリューが、キャンベル伯爵家のシンディー嬢と婚約を結んだと父親から聞かされた。私の婚約の話は、ボールドウィン侯爵家の意向があり新しく婚約したことは伝えられたが家名は伏せたということだった。


 ボールドウィン侯爵家と縁を結ぶには低い爵位であり、何の対策もなく社交界に知れ渡ってしまうと何をされるかわからないという、エリオット様のお父様の計らいだった。


 ガルシア子爵家に何かあってはいけないからと、エリオット様のお父様と私の父親が色々話し合っていた。意外だったのだけど、両家の父様は今回初めて顔を合わせたのにも関わらず、どうやらいい関係が築けているらしい。一番の心配だった、エリオット様のお母様のことは、私が何度も二人に言い聞かせたのが効いたのか、両家の顔合わせでも特に問題なくことが運んだ。


 エリオット様が、こまめにうちの屋敷に顔を出してくれたのもきっと良かったのだと思う。最初の頃は、どうしたって彼の容姿に萎縮する様子も少なからずあった。けれど、私に接する優しさや彼の誠実さを目の当たりにして、今ではすっかり彼の虜になっている。両親だけではなく、使用人も含めた屋敷の人たち全員から暖かく迎えられて、エリオット様もそれを凄く喜んでくれている。


 しかも、私のお母様とエリオットのお母様が、手紙のやり取りをするようになったみたいで、母に新しい友達ができて嬉しいとエリオット様が言っていた。


 私も、最近では父親と母親に感謝している。アンドリューと婚約していた時は、彼の肩ばかりもつからそれが嫌で距離を置いていたくらいなのに……。今では、二人に感謝しているなんて人生ってわからない。


 それというのも、アンドリューと婚約を解消した時によくよく両親と話し合った。彼と婚約解消をしてエリオット様と婚約を結び直す時に、何度もしつこく本当にこれでいいのかと確認されたのだ。アンドリューと婚約解消になって傷心して、やけっぱちになっているのでは? と心配された。


 そこで、そんなことはなく心底アンドリューには嫌気が差していたのだと初めて告白した。あんなに仲が良かったじゃないと、二人には理解できないような困惑顔だった。学園や社交活動で、自分がどんな扱いをされていたのか丁寧に説明すると二人は黙ってしまう。


 薄々気づいてはいたようだけれど、思春期特有の反抗期だろうと大目にみていたのだとか。両親も、仲が良かった時代を知っているだけに、結婚したら今のように邪険にすることなくアンドリューも大人になって弁えてくれるだろうと期待していたみたいだ。アンドリューの肩を持っていたのも、小言ばかり言う嫁の両親よりも、彼を大切にしてくれる義理の両親の方が、後々私を大切にしてくれるだろうという願いからのものだった。


 そんな親心を理解していなかった私も、まだまだ子どもだったのだと反省した。


 私の新しい婚約が結ばれてから、周囲も少し変わった。私には、六歳上の兄と三つ上の姉がいる。二人とも既に結婚していて、それぞれが盤石な家庭を築いている。たぶんこの婚約に一番驚いていたのは、この二人だと思う。


 まだ、公にはできないからと、兄と姉を呼んで家族だけの食事会を開きそこで話をした。二人とも、最初は冗談だと思っていたようで本当に驚いていた。


 大切な話があると言って兄と姉を呼びよせた父親は、食事が出される前に切り出した。


「わざわざ、集まってもらったのは他でもない、エリーナの婚約の話だ」

「もう、そんなに改まって一体なんなの? エリーナったら、アンドリューに愛想をつかされたの? 昔からこの子って、フワフワしているところがあるのよね」


 父親の言葉に、姉は、頬杖をついてちょっと呆れたように私を見ながらしゃべる。私は、姉の言葉にムッとしながらも我慢して黙っていた。すると今度は、兄が口を開く。


「何か最近、やたらと父上が忙しそうにしていたのってエリーナの婚約話のことだったのか? てっきり、ガルシア子爵家の商売で何か多大な損害でもあったのかと思って、俺めっちゃ心配していたのだけど? 父上に聞いても何も教えてくれないしさ」


 心配して損したとばかりに、兄に睨まれてしまった。色々と正式に婚約を結ぶまではと、兄と姉にも内緒にしていたので、それは本当に悪いと思っている……。


「二人とも、話が進まないから最後まで聞きなさい。いいか、これから話すことは、まだ身内だけの秘密だ。もろもろ、公にする準備が整うまでは絶対に口外するなよ」


 父親が、厳格な声で二人に鋭い視線を向ける。二人は、一体何事だと言わんばかりの顔をしているけれど、素直にうなずいていた。


「まず、エリーナだが、アンドリューとは婚約解消となった」

「マジかよ?」

「えっ? 嘘でしょ?」


 兄と姉の言葉に、父親が「ゴホンッ」と大きな咳をする。さっき、黙って聞きなさいと言われたことを思い出した二人は、ギュッと口を閉じる。


「そして、新たにボールドウィン侯爵家の嫡男であるエリオット様と婚約を結んだ」

「はっ?」

「あの?」


 一気に言い切った父親の言葉に、兄と姉はこれでもかと驚きを隠せない。


「色々と聞きたいことはあるだろうが、後にしてくれ。お前たち二人も知っているだろうが、ボールドウィン侯爵家と言えば我が国でも王族と関わりの深い家だ。国にとって、とても重要な家だと言っても過言ではない。そこに、うちみたいな小さな家の娘が嫁に行くことになった。これが公になったら、どんなやっかみや妬みを受けるかわからない。今、ありがたいことに、ボールドウィン侯爵様が色々と策を講じてくれて、ガルシア子爵家と高位貴族との縁を結んでくれている」


 父親の話に、兄も姉も唯々驚くばかりで私と父の顔を交互に見ながら嘘でしょう? と疑惑の目を向けている。そんな中でも、父親は淡々と話を続けた。父親の斜め左隣には、母親もいたのだけれど口を挟まずにずっと黙って夫の話を聞いていた。


 私は、父親の話を聞きながら本当に有難いことだと深く感謝の気持ちを強くする。エリオット様からも聞いてはいたけれど、危険なことがないように色々と手をまわしてくれている。そこまでする必要があるかと思わなくはなかったけれど、貴族の嫉妬ほど怖いものはないのだから念には念をということらしい。


 お金や爵位目当てに、次期ボールドウィン侯爵夫人の座を狙っていた人も多くいるみたいで、公に公表することになったら私も身辺に重々注意するようにと言われている。それを聞いて、私はとんでもない世界に足を踏み入れたのでは? とちょっと尻込みした。


 あらかた父親の話が終わると、食事が運ばれてきて夕食の時間となった。ガルシア子爵家次女の新しい婚約祝いも兼ねているみたいで、私の好きな物ばかりがテーブルに乗っていていつもよりも豪華だった。


 テーブルの上の食事に目を輝かせていた私だったけれど、兄と姉は食事どころではなかったみたいで、色々な質問が飛んでくる。


「ちょっと、エリーナってば一体何がどうなっているのよ? あなたアンドリューのこと好きだったじゃない?」


 姉が、納得がいかないような顔だ。


「確かに私の初恋だったと思うけれど……最近のアンドリューの態度に凄く傷ついていたの……。そんな時にエリオット様と出会って……」


 出会った時のエリオット様を思い出して、頬が赤くなる。


「おいおい、エリーナ、あのボールドウィン侯爵家の令息だぞ? その、なんだ……。怖くないのか?」


 兄は、歯切れ悪く遠慮しながらだが、エリオット様の容姿のことを遠回しに聞いて来た。姉も隣で、それが一番聞きたいとばかりに頷いている。


「あの! これだけははっきり言っておきますけど、エリオット様ほど優しくて素敵な方はいません。顔が整い過ぎてて怖いなどという固定概念で、彼のことをみるのはやめて下さい。それに二人とも知っているはずです。エリオット様のお顔を、私が好きだってこと」


 私は、分厚くて肉汁が染み出しているお肉にナイフを通すのをやめて、二人に向き合ってしっかりと釘をさす。二人は、さっきほどではないけれど驚いた顔でこっちを見てくる。


「も、もしかしてエリーナったら小さい頃と同じように、整った顔立ちの男性の方が格好いいなんて今も言っているの?」

「嘘だろ? 俺てっきり童話か絵本に影響されているだけで、大人になってから間違いに気づいた、みたいな話だと思っていたよ」


 二人とも、それぞれ勝手に都合のいい解釈をしていたらしい。ふと両親を見ると、父と母も頷いている。きっと二人も同じようなことを考えていたらしい。


「もう、二人とも、大体、整っている顔が怖くて恐ろしいって誰が決めたんですか? お花だって、絵画だって、自然だって、綺麗な物はみんな好きじゃないですか。何で人間だけ、綺麗だと怖いになるんですか。人間だって、綺麗な人は綺麗でいいじゃないですか!」


 今まで、こんな風に声を張り上げて主張したことなんてなかったのだけれど……。エリオット様や、彼のお母様の境遇を知ってしまったから、言わずにはいられなかった。こんな可笑しな固定概念は、私の身近な人たちだけでも取っ払っていかなくちゃと使命感みたいなものが芽生えた。


「いや、まあ……そう言われたらそうだけど……。でもな、実際に遠くから見ただけでも何て言うか近寄ってはいけないようなオーラがな……」

「そっ、そうよ。何かされたって話は聞かないけれど……。でも、みんな怖いって言うのは本当だから……」


 兄も姉も、ボールドウィン侯爵家の社交界での評判を思い出してか怯んでいる。


「あのね、二人とも……。きっと、エリオット様に会えばそんな考えは吹っ飛ぶわよ。正確に言うと、エリーナと一緒にいるエリオット様なのだけど」


 今まで、一言も口を挟まなかったお母様がおもむろに喋り出した。


「どう言うことよ、お母様」


 姉は、意味が分からないようで母に聞き返している。


「二人とも信じられないかもしれないけれど、エリオット様はとてもエリーナを好いてくれているの。エリーナと一緒にいるエリオット様は、とても雰囲気が温かくてそれは幸せそうに微笑んでいらっしゃるのよ。そんな姿を見たら、怖いなんて思えないわよ。むしろ、微笑ましくて応援したくなるの。多分、一緒にいるのがエリーナなのが良かったのだと思うわ」


 母親が、私たちのことをそんな風に見ていたなんてちょっと驚きだ。しかも、エリオット様が、私のことを好きだなんて……。本当は、お互いの利害が一致したことが一番大きな理由なのだけれど……。はっきりと、エリオット様に好きだと言われた訳ではないので、そこの部分は自分としても気になっている部分ではある。


 そうはいっても、私自身もエリオット様のお顔が好きだと告げはしたけれど、エリオット様自体が好きだと言ったわけではない……。でも、もう、自分を誤魔化せないくらいエリオット様のことが好きになっていた。それを改めていう機会もなく、このまま結婚に向かっていいのか少し悩んでいるところだったりする。


「その、エリーナだから良かったってのは、なんなんだ?」


 私が考え込んでいる傍で、兄が今度は疑問を口にしている。


「ほら、母親の私が言いうのもなんだけど……。エリーナってどこをとって見ても普通の子でしょ? 顔も飾ったところがないし、性格だって大人しくていい子だし。もちろん、私にとったらとっても可愛くていい子なのだけど。普段、恐れられているような人が、そんな普通の子と一緒にいるのって、やっぱり普段の印象も柔らかく感じるものなんじゃないかしら?」


 母親の言葉に、兄と姉の視線が私に突き刺さる。褒めているのか乏しているのか、紙一重のような印象を受けるが、母親自身は悪いことを言っている自覚はなさそうだ。それに、私も母の言葉をじっくり受け止めてみると確かにと思わなくもなかった。


「ふーん。よくわからないけど、地味なのが良かったってことか」

「良かったな、エリーナ。地味なことが役に立って」


 姉と兄が、交互に失礼なことを言ってくる。でも、二人とも心なしかちょっと嬉しそうな顔をしている。こんな風に意地悪なことを言ってくる二人だけれど、本質的にはいつも私を可愛がってくれていた。兄と姉にも喜んでもらえたみたいで自然と頬が緩む。


「そういうことだから、お前たち二人は気を引き締めとくように。一カ月後のボールドウィン侯爵家の夜会で、正式に婚約を発表する予定だ。発表後は、お前たちにも色々な声がかかるだろう。ちゃんとしっかりと見極めて、交友するように」


 父親が、最後にしっかりと兄と姉に釘をさす。ことの重大さに気付いた二人は、神妙な顔で頷いていた。


ブクマ登録、評価、リアクション、いつもありがとうございます。


7月10日(金)20時に完結予定です。

最後まで、お付合いのほどよろしくお願いします。

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