第24話 資格という壁
最初の通知は、淡々としていた。
『教師資格制度、施行』
『無資格者による授業行為を禁止する』
王城内では、それは「当然の整理」だった。
責任の所在を明確にし、思想の暴走を防ぐ。
誰もが、正しいと言う。
だが。
「……早すぎます」
トーマが、報告書を握りしめていた。
「地方では、対応が間に合いません」
「資格試験の実施地が、王都と三大都市のみです」
「把握しています」
把握している。
だが、止められなかった。
制度は、滑り出した瞬間から、
現場を置き去りにする。
昼過ぎ。
地方から、緊急の書簡が届いた。
『教師が、辞めました』
『資格を取れないため、教壇に立てないと』
嫌な予感が、背中を這い上がる。
「……何人だ」
「現時点で、七名」
「ほとんどが、元夜学出身です」
胸が、締めつけられる。
彼らは、理論ではない。
現場で、子供と向き合ってきた人間だ。
「理由は?」
「……“自分は、国に認められていない”と」
資格。
それは、能力の証明であると同時に、
**存在を許可する印**でもある。
夕方。
内部会議。
「資格制度は、必要です」
発言したのは、別の官僚だった。
「教師は、思想を扱う」
「無資格者に任せるのは、危険だ」
反論は、正しい。
理屈としては。
「異論は?」
視線が、俺に向く。
「……異論はありません」
一瞬、会議室が静まる。
だが、続けた。
「ただし」
「過渡期の措置が、足りていない」
「現場教師の多くは」
「試験以前に、移動手段も、時間もない」
「猶予期間を」
「最低でも、一年は」
ざわめき。
「一年?」
「長すぎる」
「思想の浸透が――」
「だからこそです」
声を、抑えて言う。
「現場を一度、空白にすれば」
「その空白は、必ず別の思想で埋まります」
それは、警告だった。
沈黙。
エドガーが、口を開く。
「……三か月」
「それ以上は、認められません」
短い猶予。
だが、ゼロよりはいい。
「承知しました」
それしか言えなかった。
夜。
執務室で、一通の手紙を読む。
差出人は、辺境伯領。
『学校の授業数を、減らしました』
『教師が、足りません』
行間に、疲労が滲んでいる。
俺は、紙を握りしめた。
資格は、秩序を守る。
だが同時に――。
**秩序は、現場を切り捨てる。**
その夜、もう一通、別の報告が届く。
『地方にて、私塾が増加』
『無資格者による非公式教育』
予想通りだった。
教育は、止まらない。
止めれば、地下に潜る。
俺は、椅子に深く座り込み、天井を見る。
制度を作れば、誰かが溢れる。
溢れた者は、別の道を探す。
それが、どんな道かは――
選べない。
資格という壁は、完成した。
次に問われるのは、
**その壁の外で、何が育つか**だ。
国家教育編は、
さらに、深い段階へ進み始めていた。
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