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転生した元公務員の俺は、 貧乏辺境伯領を教育改革で立て直す ~文字も読めなかった領民が王国を支えるまで~  作者: 芋平


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第21話 越えてはならない線

 それは、朝の報告で知らされた。


「……逮捕者が出ました」


 トーマの声は、硬い。


「抗議集会の参加者です」

「警告線を越えた、と」


 数は少ない。

 三人。


 だが――十分だった。


「暴力は?」

「ありません」


「武器は?」

「ありません」


 あるのは、声と紙と、人の数だけ。


 俺は、ゆっくりと息を吐いた。


「……誰の判断だ」


「治安局です」

「現場判断、と」


 それもまた、正しい。

 秩序維持という意味では。


 昼前。

 抗議の場は、昨日より人が多かった。


「釈放しろ」

「何が違法なんだ」


 声は、鋭くなっている。

 だが、まだ統制されている。


 ミレイユは、前に出ていなかった。

 意図的だ。


 誰かが、叫ぶ。


「俺たちは、学んだんだぞ!」

「言葉で、要求してるだけだ!」


 その言葉に、ざわめきが走る。


 ――教育された怒り。


 最も扱いづらい。


 正午。

 王城から、正式な通達が下りた。


『本日夕刻、再審制度に関する説明会を開く』

『代表者一名の発言を認める』


 事実上の、最後通告だった。


 抑えるか。

 聞くか。


 どちらに転んでも、犠牲は出る。


 会場は、半屋外の広場だった。

 兵は配置されているが、武器は下げている。


 緊張が、空気を張りつめさせていた。


 壇上に立ったのは、エドガーだった。


「制度は、試験運用中です」

「変更は、結果を見て判断する」


 冷静な説明。

 だが、火に油だった。


「結果って何だ!」

「俺たちが落ちることか!」


 怒号。


 エドガーは、動じない。


「感情では、制度は変わらない」


 その一言で、場が傾いた。


 ――危ない。


 俺は、一歩前に出た。


「……発言します」


 エドガーが、こちらを見る。

 止めなかった。


 それが、答えだった。


 壇上に立つと、無数の視線が突き刺さる。

 期待、怒り、不信。


 全部、俺が作った。


「再審制度は」

 声を張る。

「全員を救うためのものではありません」


 ざわめき。


「ですが」

 一拍置く。

「全員を切り捨てるためのものでもない」


 沈黙が、落ちる。


「今の制度は、不完全です」

「声を上げた者が、有利になる」


 あえて、言う。


「それは、事実です」


 ざわめきが、怒号に変わりかける。


「だから」

 声を、さらに強める。

「ここで、線を引きます」


 人波が、静まる。


「暴力は、認めない」

「威圧も、認めない」


「だが」

 続ける。

「声を上げること自体は、止めません」


 ざわつき。


「今日、逮捕された者は」

 一瞬、言葉を噛む。

「処罰対象ではない」


 エドガーの視線が、鋭くなる。


「制度上の手続きに従い」

「釈放されます」


 広場が、どよめいた。


 だが。


「代わりに」

 拳を握る。

「この先、暴力に転じた者は」

「私が、必ず切ります」


 その言葉は、脅しだった。

 そして、誓いだった。


 誰も、拍手しない。

 誰も、完全には納得していない。


 それでいい。


 正しさを掲げる場で、

 全員を満足させることなど、不可能だ。


 ミレイユが、人混みの奥で、こちらを見ていた。


 表情は、読み取れない。


 だが、目は――覚悟していた。


 説明会は、混乱の中で終わった。

 流血は、なかった。


 だが。


 帰路につく途中、トーマが言った。


「……両方から、睨まれましたね」


「ああ」


 制度側からも。

 抗議側からも。


 俺は、どちらの味方でもなくなった。


 その夜。

 エドガーから、短い書簡が届いた。


『今日の発言は、記録に残る』

『覚悟しておけ』


 それは、忠告でもあり、宣告でもあった。


 教育は、もう戻れない。


 声を生み、

 衝突を生み、

 そして――責任を、生んだ。


 俺は、その中心に立っている。


 逃げ道は、もうなかった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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