第91話 第一関門突破
「こんなものが売れるのか?」
祥太郎の説明を聞いた受付統括・アクセルは呆れたようなコメントをした。
それはそうだろう。回転ヤスリ式の発火装置とベアリングはともかく、残りは石と金属片、木の板と木の棒、穴の開いた筒に砂やら炭が詰まっているだけのシロモノだ。その辺で拾ってきたのかと思われても仕方がない。
「確かに魔法で火や水を出せば済む話でしょうが、これがあれば魔力の節約になります。いざという時、パーティーに一つあると安心じゃありませんか?」
「う~ん……魔力の節約なあ……言いたいことはわかるが、ウチの連中がそこまで気にするかどうか。それに、こんな板っキレ、買わなくてもその辺で拾ってくりゃいいだろ」
やはりそう思われたようだ。
「それはそれで構いません。ノウハウも教えますし、魔法を使わずに火を熾すことができる方法もあるってことを広めてもらえれば十分ですから」
「……アンタ、マネーダって言ったか? ひょっとしてイスターナ王国から来たのか?」
「……よく二つも三つも離れた国の名前を知ってましたね」
「やっぱりそうか。なに、これでも冒険者は長いからな。魔法を使わないって聞いて何となく思い出しただけだ」
うまく誤魔化せたようだが、翔太郎はYESとは言っていない。ウソを積み重ねても今更なのだが、具体的な地名や人名はいずれ齟齬が発生するかもと思い避けたのである。
イスターナ王国。それは祥太郎がプタルカ誘き出し作戦のため惑星改造前倒しとしての候補地に選ばれていた国である。その理由はその国がこの大陸で最も魔法に対する依存度が低かったからである。惑星改造など凡人の祥太郎にとって初めてのことなので、魔力排除に抵抗が薄そうな土地を選んだのだ。
しかし、AIの分析によると、確かに『魔法使い』の重要性は他の国に比べ低いが、『魔力』への依存度は他と変わらないという。これは、惑星アーテラスと同じく、『ステータス』や『レベル』が存在しているからである。国民の多くは『身体強化』や『武技』、ゲームで言うところの『スキル』のようなものを重視しているらしいが、AIに言わせると、これらも『魔力』を消費しているようで、多用すれば魔力枯渇を引き起こすことからも『魔法』の一種だと思われるが、この世界では見かけで『魔法』とそれ以外に分かれているらしい。
つまり、『魔法』は排除できても『魔力』の排除には抵抗が大きくなるだろうとの結論である。
ならば、最終的な目的はともかく、現在の優先順位はあくまでもプタルカを誘き出すことであるから、『見た目』が派手な『魔法』の排除の方が騒ぎも大きくなり、プタルカも座視できないだろうと考え直し、最初の標的を『シンラ魔導王国』に変えたわけである。
RPG的に言えば、『はじまりの村』をスルーして『首都』からスタートしたようなものである。何なら『魔王城』スタートでも構わなかった。この惑星でいうと宗教国家『神聖タルカ教国』がそれに近い。プタルカ本人(?)が住んでいるわけではないだろうが、一番影響がありそうなところである。
なぜ『神聖タルカ教国』が後回しになったかと言えば、単に『革命の火種』ができていた『シンラ魔導王国』の方が労せずして騒ぎを起こせそうだったからというのが大きかった。
「しかし、魔法を使わない道具か。そういや、首都の方じゃ魔法使いに反発している連中がいるらしいな……」
祥太郎の扱う商品から何かを感じ取ったらしい受付統括のアクセルは思わせぶりに噂話をはじめた。
「ええ。その噂は聞いてます。というか、もしそれが本当ならウチの商品が売れるかもと考えてこちらの国に来てみたのですよ」
「ふん。尤もらしいことを言いやがって。だが、まあ、これだけで怪しむこともできねえな。で? これを依頼にするって、どうしたいんだ?」
どうやら第一関門突破のようである。王都の革命組織と繋がりがあるだけに翔太郎はヒヤヒヤしていた。
「あ、はい。できれば、よく野営しているパーティーをいくつか紹介してもらえるとうれしいです。それから、実家住まいの方がいれば、そちらにも試してもらいたいのですが」
「その道具だと洞窟ダンジョンじゃ使えねえな。薪を持ってくわけにはいかねえからな。商隊の護衛も飯や野営の準備は向こう持ちで護衛に専念しろって場合もあるからな。余計な真似はできねえ。ま、調べてやるよ。それ以外なら報酬次第で受けるヤツはいるだろうよ。家族と住んでるかどうかまでは知らん。ま、これも調べろって言うんなら調べてやるが、それは別依頼になるぞ?」
「そこまでしなくとも。まあ、明らかにウソだとわかる人は弾いてほしいですが。あ、依頼を受けてくれた場合、使い方の講習をしたいです。それも報酬出しますよ」
「気前が良いな。そんなんで元が取れるのか?」
「そのためにも多くの人に知ってもらいたいんですよ」
翔太郎は、自分でも面倒なことしているな、という思いはある。謎科学で一気に惑星改造と人間の治療をした後非魔力道具を配るという方法も取れるのだが、プタルカが常時惑星を監視しているか、それともどこかに引き篭もってほとぼりを冷まそうとしているのか判断できない。ジワジワ侵略する手段を選んだのは、やはりプタルカを挑発するためである。もし、時間をかけての惑星改造が完了してしまったら、その時は只の人間である祥太郎にはどうしようもない。SF派の神々に依頼の差し戻し案件だ。自分の手で『ザマァ』ができないのは残念だが、神同士で勝手にやってほしいところである。
「……わかった。その依頼受けてやる」
「ありがとうございます」
こうして翔太郎は辺境からの侵略の一歩目を踏み出していった。
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