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第92話 囮半分、遊び半分


 冒険者ギルドで受付統括の協力を約束してもらった翔太郎は早速依頼を出した。モニターの選別はギルドにお任せである。

 一人二人なら今日にも呼び出せるということだったが、講習はある程度の人数まとめて行いたかったので後日ということになる。

 聞くと、ギルドでは『初心者講習』も行っているようで、講習を開くノウハウはあるようだ。この世界、やはりラノベ的だなと思う祥太郎である。


 祥太郎は一旦冒険者ギルドを出て、次の目的地に向かった。

 ちなみに、祥太郎自ら工作員紛いなことをしているのは囮半分、遊び半分だ。実は人間そっくりのロボットたちがシンラ魔導王国の辺境各地に派遣され『魔力を使わない便利道具』の普及に努めている。祥太郎よりはスムーズに作戦を進めていることだろう。


「すみません、見ていただきたい商品があるのですが……」


 祥太郎が次に訪れたのは商業ギルドである。

 この辺もラノベそのままなのが気になったが、神サマのやることに一々ツッコミを入れても疲れるだけだし、割り切ってロールプレイを楽しもうと考えている。


 銀行か役場のような受付で担当者に来意を告げる。

 祥太郎の並んだ列の担当者は女性だった。狙ったわけではない。チラッと他の窓口を見たが、受付の男女比は3対7ぐらいのようなので当然といえば当然の結果だ。


「商会の斡旋をお求めですか? それともギルドの一括買取でしょうか?」


 祥太郎が以前読んだラノベからの考察とAIの調査でわかっていることだが、この世界の商業ギルドは店頭での小売はやっていない。登録している商人・商会への商品の斡旋、調整が主な業務である。だが、売買を一切しないということではない。一々商人と交渉するのが煩わしいと感じる人間も少なくないため、多少の手数料を払えば商業ギルドで品を引き取ってくれるのだ。また、貴族の中でも御用商人を使わずギルドから購入することも多い。

 ゆえに、祥太郎のように突然の売り込みがあっても受付嬢は動ずることはないのだ。


「どちらかというと斡旋でしょうか。商品サンプルがあるので、鉱山関係者、鍛冶関係者、木工関係者を紹介していただければ」


「サンプルですか? あの、商業ギルドへの登録はしていらっしゃいますか?」


「登録していないとダメなんですか?」


 AIがすでに調査をしているが、翔太郎はロールプレイ中なのであえて惚ける。


「そうですね。買取だけならこちらで税金も差し引くことができますので登録はなくとも構いませんが、他所の商会と商売をする形であれば登録は必須です。少量であれば見逃すこともありますが、商品サンプルまで用意しているということは、かなり大きな商売をお考えですよね?」


 翔太郎は『そうなんですか、知らなかった』と答えたが、もちろん事前に調査済みだ。地球の、日本との差異も、何となくではあるが、把握済みである。何となく、というのは、翔太郎は単なるサラリーマンだったため、日本の税制やら商業登録の実態など無縁だったからである。こちらの世界は神があえて文明の発展を抑えているので、現代日本よりも税制がいい加減なことは否めない。国だけではなく、地方領主によっても税制が違うのが当たり前な世界だった。しかも、戸籍制度も発達していないので個別の所得税など正確に徴収できるわけがない。なので大雑把に『人頭税』方式が取られることが多いのだが、給金の決まっている雇われ人や土地に縛られている農業関係者はともかく、外からは利益の多寡がわかりにくい商業関係は税額を決めるのが難しい。そんなわけでこの世界は商人に対する徴税は商業ギルドに丸投げしているのである。それゆえに登録なしでの商業活動は禁じられている。


 ちなみに、登録なしで商売をしている『闇商人』も数多くいるが、呼び方ほど悪辣な商売をしているわけではない。罪名は『脱税』ぐらいである。逆に、『死の商人』や『違法奴隷商人』などのテンプレ悪徳商人は正式に登録していて尚且つ国や貴族に受けがいい場合が多い。なんとも皮肉なことである。


「では、登録もお願いします」


「はい。こちらに記入を。入会金と年会費によってランクを選べますが、来年の税額によっては変動もありますのでご注意ください」


 そう受付嬢は説明する。やはりファンタジー派のテンプレートがあるのか、冒険者ギルドと同じく『ランク』制なのだ。

 だが、考えてみれば、日本でも収入の多寡や法人の種類で税率が決まる。中二的呼び方をしないだけで基本は同じではないか、日本人にだって自分の収入を誇示してマウントを取ろうとする人種はいるし、明確にランク付けするのもお国柄だと思えば『郷に入っては~』だろうと納得してロールプレイしている祥太郎であった。


 すでにAIからレクチャーされているが、真面目に受付嬢の説明を聞いているフリをしていた祥太郎が選んだのは、下から二番目のランク、店舗を持たないが拠点の街以外でも売買が可能なランクである。いわゆる行商人だ。

 登録には拠点も決めなければならない。宿でもいいとはいうが、冒険者ギルドと違って年に数度の監査があるらしく、拠点の変更も報告義務があるようだ。


 翔太郎は、今作戦において『非魔力グッズ』の店頭販売は自らはしないつもりなので拠点も要らないといえば要らないのだが、規則であれば仕方がないとばかりに受付嬢に不動産についても相談する。

 受付嬢は、ならばサンプルの確認のついでに物件を紹介するといって祥太郎一行を奥の部屋に案内するのだった。


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