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第90話 『ゴールドダ』と迷ったらしい


「お待たせしました。こちらにどうぞ」


 しばらくして、先ほどの受付嬢が戻ってきて祥太郎に声をかける。どうやら追い払われずに済むようだ。

 翔太郎一行は受付嬢の案内でギルドの館内に入る。案内された先は、祥太郎のイメージでは小会議室といった部屋であった。ソファーとローテーブルではなく普通の椅子とテーブルだったからの判断である。

 受付嬢に勧められ翔太郎は椅子に座る。お供のロボットたちは祥太郎の後ろ、壁際に立ったまま控える。受付嬢が何も言わないので、この国の習慣でも普通のことなのだろう。

 お茶、祥太郎にとってかいだことのない香りだが、ハーブティーらしきものが出された。飛び込みの営業マンに大した歓迎振りだなと少し意外に感じた祥太郎だったが、AI情報によるとこのお茶は庶民レベルでも常飲できるグレードだそうで、特別な意味はないだろうとのことである。翔太郎は安心して口をつけた。毒などの心配はしていない。ナノマシンによって守られているからだ。


 祥太郎がお茶を飲み干した頃、受付嬢が戻ってきた。今度は中年の男性を伴って。

 翔太郎は立ち上がって目礼する。相手が誰だかまだわからないので、最低限のマナーで対応した。日本式は遜りすぎて変に思われるか舐められる恐れがあるので不採用だ。


「お待たせしました。こちらは当ギルドの受付統括です。それでは私はこれで」


 受付嬢も極めて簡単な紹介をして会議室を出て行った。後は勝手にしろということなのだろう。そういえば翔太郎はまだ名前も告げていなかったなと気付く。よく中に通してもらえたなと、今頃になって驚いた。

 しかし、保守的な日本の業界と違って、不特定多数を相手にする冒険者ギルドなら名前や身分はそこまで重要ではないのかもしれないと思い当たる。


「はじめまして。商人のマネーダと申します。といっても、正式な商人ではなくて、物作りが本業です。今回は自分の作品を広めようと思いまして、手始めにこちらを訪問させていただきました」


 AIに問い合わせると、受付統括はその名の通り客から依頼を受けたり冒険者に依頼を振り分けたりする部門の責任者で、先ほどの受付嬢の直接の上司である。地球に当て嵌めると課長クラスだが、組織としての規模が地球ほど発達していないので部長といっても構わないそうだ。どちらにしろ中間管理職には違いない。

 流石に一受付嬢ではいきなりギルドマスターやサブマスタークラスは呼べないようだ。祥太郎が紹介状すら持っていない飛び込みの客だからという理由もあるのだろう。順当と言えば順当である。部長クラスを引っ張り出せただけ幸運というものだ。

 ゆえに翔太郎は丁寧に挨拶をした。

 ちなみに今回は偽名を使った。お察しだろうが『金田』の捩りである。『ゴールドダ』と迷ったらしいのはAIには内緒である。もしかしたら他の土地で使うかもしれない。


「おお。俺はアクセルだ。冒険者上がりでな、丁寧な口は利けんが、まあ勘弁してくれ。商品の売込みだって? おっと、まあ座ってくれ」


 祥太郎が椅子に座りつつ観察するところでは、目の前の受付統括は祥太郎より年上に見える、がたいのいい中年だ。現役の冒険者を名乗ってもおかしくない雰囲気である。ラノベを参考にすると、冒険者相手の受付業務では荒事も多いからと用心棒的な役割もあるのだろう。後ろに控えているだけで抑止効果がありそうだ。口の利き方も、日本の企業では一発アウトだが、これもファンタジーあるあるなのだろう。おおらか過ぎだが、翔太郎にとっては都合がいい。詳しく身元を詮索されては面倒なのだ。


「ええ。今後は商業ギルドや職人ギルドにも行く予定ですが、その前に実際に試してもらって、製品の感想を聞こうかと。冒険者の仕事に直接関わる道具ではないのですが、野営にも使える日用品ですので、多くの人に使ってもらいたいのです。もちろんお試し品はタダで支給しますし、依頼料も払いますよ」


「ふーん。上の人間を呼べって言うから何事かと思えばそんなことか。普通に受付で依頼すりゃいいだろ? ギルドに商品を買えってんじゃねえのかよ」


「まずは宣伝が狙いですね。ギルドの上の人のお墨付きがあれば試してくれる冒険者も好意的に見てくれるかもしれませんし」


「……なるほどな。つまり、俺が先に認めれば冒険者たちも文句は言いにくいってわけだ」


「ええ。有体に言えばそういうことです。話が早くて助かります」


「おっと、依頼を出すなら受けてやるが、俺が宣伝とやらをしてやるかどうかは別だ。品物を実際に見なけりゃ話になんねえぜ?」


「もちろんですとも。ここに取り出してもよろしいですか?」


「おお。出せ出せ」


 受付統括の許可が出たので、翔太郎はロボットに命じてカバンの中から『非魔力グッズ』を取り出させた。


「お? そりゃマジックバッグか? いいの持ってるな」


「ええ、まあ……」


 エンドに見せた時もそうだったが、このファンタジー世界、お約束どおり『魔法の袋』がある。深くは突っ込まれなかった。実際は謎科学による『転送』なのだ。どちらにしろオーバーテクノロジーで祥太郎には説明できないので助かっている。


 さて、いずれ使われなくなる『マジックバッグ』はともかくとして、祥太郎が今回プレゼンするラインナップを見てみよう。

 前回と同じく、着火関連のアイテムが数件ある。これは人間の生活に欠かせない物だ。なるべくこの惑星の文明でも製造できる範囲に留めてある。原理は簡単なものばかりだ。その分労力がかかるのがマイナスだが、魔力を使わなくても済むことがどれだけ評価されるかが問題である。翔太郎はこの点だけをプッシュしなければならない。


 他に、携帯できる大きさの『浄水ろ過装置』がある。これもフィルターはこちらのテクノロジーで十分に製造できる、目の細かい布や活性炭を使っている。砂漠などでは意味がないが、泥水でもあれば煮沸と併用すれば飲用水が手に入る。日用品というよりはサバイバル用品なので魔法で水を出せない冒険者には受け入れられる余地があるかもしれない。


 そして、『マジックバッグ』に微妙に関わる問題として、輸送関連商品だ。

 今回は完成品ではなく部品を紹介する。金属製のベアリング装置と螺旋式スプリングのショックアブソーバーである。流石にダンパーはないが。

 これについては、この世界でも木製のベアリングらしきものや板バネくらいは存在しているが、その性能一段あげて、マジックバッグが使えなくなっても輸送量や移動時間でカバーできるだろうと考えている。マジックバッグが稀少であることも織り込み済みである。流石に謎科学の『転送』付きバッグは世に出せない。


 祥太郎が広めようとしている道具はまだあることはあるが、技術レベルとしてはおおよそこの程度のものだ。翔太郎は特にこの惑星を地球並みに押し上げようとは考えていない。魔力がなくなっても最低限生活できればそれで構わない。あとは生き残った人間が独自に文明を進歩させていけばいいのだ。

 アーテラスたちSF派のコンセプトどおりである。


 さて、受付統括の評価は如何に?


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