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第89話 ソレはソレ、コレはコレ


 エンドたちが協力を約束してから数日。

 事態に目立った進展はない。惑星改造の一環である革命も、作戦の本命であるプタルカの介入もだ。


 だが、エンドたちも何もしていなかったわけではない。

 近しい関係者に連絡を取り、賛同者を増やしている段階だ。上手くいけばネズミ算式になるだろう。祥太郎も口を出す必要はない。


 では祥太郎は何をしているのかというと、商人の真似事をしているのだった。


 これは、やはり惑星改造の一環で、いきなり人々から慣れ親しんだ魔力を取り上げて『あとは勝手にしろ』と放置すると文明の衰退どころか人類が絶滅する恐れがあるため、魔力を除去する前に、魔法に頼らない生活方式を広めようとしているのだ。


 この件については何度もAIと相談している。

 実は翔太郎個人では、環境に優しいという点ではファンタジー派のほうが優れているのではないかと葛藤しているのだ。魔法で火が点けられ、水が出せる。エネルギーは、この世界では魔物の身体から取れる『魔石』を利用でき、実質無限ともいえる。薪や化石燃料の消費は低いだろう。ひいてはインフラにかかる経費も低いというわけである。魔法というと、つい『中二』的な発想をしてしまいがちだが、生活面でも実に羨ましいことである。


 しかし、『ソレはソレ、コレはコレ』という名言があるように、SF派の神の手先となってしまった以上ファンタジーにはサヨナラしてもらわねばならないのだ。


 そんなわけで訪れたのが、とある地方の『冒険者ギルド』。

 王都からでないのはエンドたちの活動が始まったばかりなので頻繁に接触してボロが出ては困るからだ。それに、おそらく革命は中央を抑えれば成功すると思われるので、革命の情報が後からもたらされても混乱を最小限に抑えるために辺境から『非魔力グッズ』を広めていく方針を採ったのだ。

 そして、何故『冒険者ギルド』を訪ねたかといえば、効率半分、祥太郎の興味半分だ。

 効率に関しては、あちこち移動すると思われる冒険者たちに広まれば自然と庶民にも知られるようになるだろうとの思惑があるが、これは言い訳半分でもある。当然後で雑貨を扱う商会にも売り込みに行く予定である。

 そして、祥太郎の興味半分の部分だが、これは特に詳細を語る必要はないだろう。祥太郎も男の子であるということだ。

 強いていえば、惑星アーテラスでは、奴隷にされる前の短い時間に会話の端に上ったぐらいで、その時は後日改めて聞けばいいやと後回しにしたことと、大穴ダンジョンに潜る前は前で、檻の中で奴隷仲間であるアンドンの職業が冒険者だったためいくらか話を聞けただけだったが、処刑同然の扱いに心を折られていた翔太郎は楽しく冒険者談義などする心境ではなかった。その後も宇宙船に引き篭もり惑星脱出の準備に明け暮れ、脱出後も宇宙要塞の整備、プタルカ討伐の準備などで忙しかった。結局今日の今日まで『冒険者』の『ぼ』の字も関わることがなかったため、絶好の機会とばかりにグッズの販売先に冒険者ギルドを推したというわけである。

 優秀なAIは快く承諾してくれた。きっと温かい眼差しをしていたことだろう。要塞に目があるかどうか、神のみぞ知るであるが。


「ここが冒険者ギルドか。映像で見たけど、実物は思ってたよりでかいな。ファンタジー派の惑星には標準装備されてるのかね?」


 宇宙船で予習はして来たものの、やはりライトオタクとしては感動したようである。同時に、神々の内情を知っているためどうしてもメタな発想をしてしまうのが玉に瑕だ。


 翔太郎は冒険者ギルドの中を見渡して独り言を呟くと、満足したのか受付カウンターに向かった。時刻は午前10時ごろ。朝とも呼べない、ラノベ的には冒険者たちの依頼を受けるラッシュアワーが疾うに終わって職員たちが暇をしているとされる時間帯だ。無論ナノマシンからの情報もある。

 ちなみに、祥太郎の装いは、この国の一般的商人のソレである。どこぞの宇宙海賊のキャプテンのコスプレはAIたちに懇願して換えさせてもらった。ないとは思っているが、王都でエンドたちに接触した謎の研究者だと見破られると面倒だからだ。

 お付きのロボットたちも商家の使用人といった出で立ちである。といっても『船長』が白い客船の制服を変えただけだ。メイドはいるところにはいるものであるし、ゴブリン顔を隠すための包帯グルグル巻きのゴブさんはそのまま迫力のある護衛だと思わせればいいと考えてである。


「すみません。ギルドマスターとはいいませんが、上の役職の方にお会いできないでしょうか?」


 ガラガラのカウンターで暇そうにしている受付嬢に話しかける祥太郎。これでも日本でサラリーマンをしていたのだ。飛び込み営業の一つや二つどうということはない。

 ちなみに、この受付嬢は、ラノベではよくあるようなギルドマスターの仮の姿、ということはないのはナノマシンの調査で確認済みだ。


「依頼ではないのですか? 約束は……その分だとなさそうですね。どのようなご用件でしょうか?」


「依頼になるかどうかは、商談次第ですね。実は冒険者の方々に役立つ商品があるのですが、その販売に関してアドバイスをいただけないかと、そう考えまして……」


 商品に秘密があるわけでもないし、逆に広まってほしいと思っているので、受付嬢には隠すことなく告げた。


「えーと、それなら商業ギルドへ行ったほうがいいんじゃないですか?」


 正論である。

 単に翔太郎の観光気分で訪問順を決めただけだ。


「もちろん、それも考えましたが、まずは冒険者の方々の意見をと思いましてですね。ほら、餅は餅屋というじゃないですか」


「はあ、モチが何だかはわかりませんが、ちょっと待っててください。今の時間なら誰かいると思いますから」


 祥太郎の粘り勝ち、というほどではないが、どうやら取り次いでもらえるようだ。


「……日本でもこんなにスンナリ行けばなあ……」


 奥に向かう受付嬢の後姿を見つめながら、日本の報われない営業時代を思い出していた祥太郎だった。

 胃が痛くなる思いもあるが、同時に懐かしく思えたことで、すでに過去のことだと割り切るのだった。


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