第88話 腐っても神だな
「さて、NAISEIの時間だ!」
『オーナー。お言葉ですが、現政府は未だ健在です。というか、反政府側は組織の構築すらできておりません』
「何、一番面倒臭い仕事が終わったから、思わず思考が先走っただけだ。それに、実際の政治に口出しする気もないしな。せいぜい魔法を以外の技術普及に手を貸す程度でいいんだろ? まあ、プタルカを挑発するために俺主導的な形は取るんだがな」
シンラ魔導王国王都のスラム街の顔役であるエンドに接触してから二日目、エンドとその知り合い二人をも協力者に引き入れることができた翔太郎は、拠点に戻ってホッと一息ついているところだ。
エンドが『魔力枯渇対処薬』、つまるところ遺伝子治療特化のナノマシン入りの只の水を飲んで仲間入りし、その効果の確認ついでにもう一人のスラムの顔役・ダンバーと、エンドの知り合いで没落しかけていて現政府に敵意しか持てない下級貴族のミッセルの勧誘も行うことになった。
勧誘とはこの場合、意図的にそれも瞬時に魔力枯渇を引き起こさせることで力を誇示することに他ならない。少なくとも敵対を避けようと思われればいいのだ。
二人と、その護衛、手下たちは呆気なく魔力枯渇に陥り言葉にできない苦痛を味わった。何度も言うようだが、翔太郎は経験することは今後もないので想像することしかできない。
勧誘するため早めに叩き起こされた二人は、ニヤニヤしているエンドと、未だ目を覚まさない手下たちを見比べて割りとアッサリ軍門に下った。
始めから興味深そうにしていたミッセルはともかく、悪態をついていたダンバーの手の平返しは祥太郎に疑いを持たせるほどだ。
その後簡単に『ニセの』バックボーンを説明し、この国で革命を起こし魔力のない国造りを進めるのでその協力を要請した。
二人は、バックボーンについては半信半疑のようだったが、実際に体験した『魔力除去装置』の威力は信じたようで、これがあれば城の一つや二つ、どころか、大陸の一つや二つ落とすことができると理解したようだ。もちろん、装置の規模や数が問題なのも理解してくれた。
こうしてダンバーとミッセルも革命の協力者となったわけだが、革命の実行にはまだ時間がかかる。
この国から魔力をなくすのは簡単だが、それでは全国民が魔力枯渇に陥り、死を待つだけになってしまう。それでは意味がない。祥太郎とて大虐殺をしたいわけではないのだ。
政治に関わらない国民には騙してでも薬を飲ませて、魔力を使わない道具を配り生活を維持させる。これは祥太郎が担当すると宣言した。
エンドたち3人は祥太郎のことを得体の知れないヤツと思っているが、不思議で大きな力を持っていることは何となく理解していて、祥太郎ができると言うのなら出来るのだろうと、了解してくれた。
問題は政治に関わっている王侯貴族と騎士・兵士たちである。
これらについてはエンドたちが担当することになった。
勢力としては、大まかに三つある。祥太郎がこの国に目を付けた根本的な理由である『魔法至上主義』が基準になるが、肯定派と否定派、それ以外の中立派である。当然現在は『魔法至上主義』派が権力を恣にしているので、それ以外の否定派と中立派を味方につけなければならない。
また、肯定派といっても、個別に家門単位で見ればその内情は複雑で、当主のみが肯定派で次男三男が不遇の扱いを受けているところもあるのだ。その場合、家内制プチ革命、つまりお家騒動を起こして否定派に鞍替えを促すことも視野に入れなければならない。
そして、騎士や兵士は、魔法がなくなった世界では物理攻撃が力を持つので、味方につけなければ革命そのものが取って代わられる恐れがある。
こうなると貴族の一人一人、兵士の一人一人にアプローチしなければならないから、革命を起こすのも一苦労である。
「人間は最悪ナノマシーンたちにこっそり治療してもらうとして、動植物はどうするんだっけ?」
作戦を開始する前にAIたちが惑星プタルカの調査をして報告は受けていたものの、脳みそが凡人のままの祥太郎にとっては量が膨大に過ぎたため聞き漏らしがあるのはご愛嬌だ。
『魔力を利用できるように肉体が改変されているのは人間と一部の動植物のみです。その改変された動植物が魔物と呼ばれている存在になります。大半の動植物は長い年月魔力に晒されて自然に耐性を得ただけだと推測されます。実験によりますと、急激に魔力がなくなった環境でも人間や魔物のように直ちに魔力枯渇に陥ることはありません。ただ長期間魔力のない環境に置いた場合については目下調査中です』
「あー、そうだったな。放っておいていいって聞いて安心した覚えがある。虫や微生物もだったよな?」
『はい。その通りです』
すべての『ファンタジー派』がどのような世界を創っているかまではわからないが、少なくともプタルカの管理する世界では人間と魔物のみが魔力を扱えるように改造されているようだ。無論プタルカの意図しない進化を遂げた生物もいるかもしれないが、絶滅はしないだろうと言うのがAIの推察である。急激な環境の変化でも最低1割は生き残るというのが生物の基本らしい。
「そりゃよかった。人間なら俺でも数字が理解できる範疇だが、いくら高性能のAIでも虫の一匹一匹、雑草の一本一本数えてたら、繁殖するペースの方が速いに決まってる。仮に絶滅したら、それはプタルカが悪いってことで諦めてもらおう。で、魔物は絶滅してもいいんだよな? 治療したら普通の動物に戻ったりしないか?」
『魔物の起源によります。この惑星にはダンジョンなどの魔力だまりから発生した存在と、動植物が変異した存在の2種類がありますので』
「魔物が発生するって、ラノベ読んでるときはスルーしてたけど、ファンタジーが過ぎるよな。どんなメカニズムなんだよ」
『当要塞の性能では解析不能です。申し訳ございません』
「ああ、別にわーさんたちに不満があるわけじゃないよ。というか、そんなことしたらバチが当たるってモンだ。ん? バチってアーたんのか? プタルカのは絶対に拒否する」
単なる愚痴に律儀に反応してくるAI。
翔太郎は、超高度な謎科学なら似たようなこと、見かけは同じこともできるだろうとは思っているが、やはりそれは別物で、『魔法』や『神の奇跡』とやらは畑違いなのだと考えている。
「腐っても神だな~」
翔太郎はしみじみそう思った。
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