第87話 ポチッとな
「おっさん、また来たぞ。あの恥ずかしい符丁は言わなくてもいいよな?」
「……こっちに来てくれ……」
エンドにプレゼンという名の脅迫をした次の日、翔太郎一行は約定どおり再び酒場を訪れていた。
惑星プタルカ時間での昨日は、小型宇宙船でしばらくプタルカの襲撃を待ってみたものの、ナシのつぶてで拍子抜けだった。その気が抜けたところでの襲撃でも企んでいるのかと深読みをしてみるが、結局現在まで何事も起きていない。
では、翔太郎が接触したエンドに神託という名の襲撃命令やプタルカの分体による人体乗っ取りでもあるかもしれないとナノマシンに24時間の監視をさせたが、こちらも空振りだった。
仕方なく『革命の手伝いをするテイで魔力を除去しプタルカを挑発する』作戦を継続する。
昨日とほぼ同じ時間にエンドを尋ねて酒場に向かった。
酒場には、昨日より多くの客がいて翔太郎一行に険しい目を向けている。しかし、いきなり絡んでくるような雰囲気がないことからエンドが半信半疑で念のため戦力を集めただけというのがわかる。というか、AIにはナノマシンでの情報収集で、この如何にもチンピラらしい連中がハッキリとした理由も教えられずに集められたことはわかっていた。
酒場の亭主はエンドから前以って説明されているらしく、翔太郎が軽口を利きながら話しかけても、それには反応せず隠し部屋に案内する。
隠し部屋ではすでにエンドが待っていた。
その隣には髭面の大男とエンドと似たような優男の二人が座っている。翔太郎を出迎えたのは3人だけだった。昨日と同じく手下たちは更に奥の隠し部屋に配置しているらしい。
テーブルの上には昨日置いていった魔力除去装置が鎮座している。
「来てくれてよかったぜ。これでメンツが立った」
「ふん、俺はまだ信じたとは言ってねえぞ」
エンドが立ち上がり、翔太郎を歓迎した。主に自分の都合でだが。
そして髭の大男が、こちらは座ったままだが、不機嫌そうに発言する。
「本当だと言ってるだろ。これからお前にも魔力枯渇の苦しみを味あわせてやる。その強がりがどうなるか楽しみだぜ」
「できるモンならやってみろよ。そのかわり、できなかったときにゃナワバリはもらうからな」
どうやらエンドは縄張りをエサにしてこの大男を引き込んだらしい。
「エンド殿。結論は出たのかな? 自己紹介は必要だろうか?」
翔太郎は、AI経由で状況は把握しているが、戸惑ったフリをしてエンドに話しかける。新規のお客さんもいるので、まだちょっと大物ムーブだ。
「ああ。その前にコイツらを説得してくれ。なに、昨日と同じようにこの魔道具を動かしてくれりゃいい。こっちでやってもよかったんだが、俺だと今一信憑性がな。ああ、薬はもっともらえるか?」
「ということは?」
「ああ。心の底から納得したってわけじゃねえが、アンタの話に乗ることにした。というか、乗らなきゃ負け組だ」
「あの後薬を試したのか?」
「ああ。魔法が苦手で、魔力がなくなっても特に困らないって思ってる連中、俺の思ってたよりも多かった。その中でも俺を裏切って魔道具を持ち逃げしなさそうなヤツを選んでな。昨日この場にいなくて魔道具の力を信じてねえ連中と一緒に試させたぜ。魔力枯渇から目を覚ました連中、薬を飲んでてピンピンしてたヤツを見て何て言ったと思う? 『俺にも薬をくれ!』だぜ? 悩んでた俺がバカみたいだろ?」
エンドは苦笑しながら語った。
それを大男は胡散臭そうな目で見ている。優男の方は興味深げにしていた。
「薬と装置の効果をわかってもらえて何よりだ。薬はいくらでも渡そう。樽で置いていく。ところでエンドは飲んだのか?」
「まだだ。結局手下どもに取られてな。こうしてアンタを待ってたわけだ」
翔太郎はエンドの言葉に納得し、ロボットの持つ『アイテムボックス』風・転送装置付きバッグから薬ビンを一つ取り出してテーブルの上に置いた。
エンドはそれを迷わず手に取る。
「それを飲んだら後戻りできねえぞ? いいんだな?」
「なんだ? 言葉遣いが変わってるぞ? それが素か?」
エンドは別のことに注目していた。
「交渉のためと思ってキャラを作ってたんだよ。意味がなかったし、めんどくさいからヤメた。俺のことはどうでもいいから、飲むならさっさと飲め」
「おお。そうだったな。じゃあ、飲むぞ」
そう言ってエンドは薬ビンに口をつけた。
その光景を見て、『俺は人間をやめるぞ!』というセリフが聞こえてきた翔太郎は重傷である。実際は『私たち、普通の女の子に戻ります!』なのだ。女の子とは限らないが。
「よし、飲んだ。しかし、手下もそうだったが、味もないし、飲む前と変わらんな。効いた気がしない」
「……試作品は苦くて、飲んだ後熱が出る副作用があったが、改良したんだ。ソッチの方がよかったか?」
AIから通信を受け、市場調査的なことをする翔太郎であった。副作用云々はウソだが、謎科学にかかればどんな症状でも演出できるのだ。味は言うまでもない。
「ん? そうだな、熱でブッ倒れたり、三日も四日も熱が続くんじゃなけりゃ、わかりやすくていいかもな」
「わかった。その方向で調整しよう。で? 魔力枯渇の実験はもうしていいのか?」
「おう! 頼む。範囲は調節できるんだよな。なるべくこの部屋だけにしてくれ。隣の部屋にも結果を見せてやりたいしよ。ダンバー、ミッセル、それでいいな?」
エンドが協力者になることが確定したので、翔太郎の任務はほぼ終了である。あとはエンドの仲間(?)の拡張だ。一々翔太郎がしなくてもいいようにエンドを引き込んだので、本末転倒気味ではあるが、もののついでということもある。エンドの要請どおり、今回も翔太郎が再びプレゼンすることにした。
エンドは実験の開始を了承し、同席者にも確認する。
「ふん。手下を呼ぶが、かまわんだろうな? もしお前たちの言うことが本当なら、俺が倒れたとき暴れるかもしれねえしな。それに、もしウソだったらお前らをすぐにぶっ殺せるようにな」
「そうですね。私もそうしておきましょう」
「構わんぞ。入れるだけ入れろ」
客の二人は念のために手下を呼ぶことを要求して来た。大男は物騒なことを言っている。
翔太郎はどうでもよかったし、エンドは昨日似たようなことをしていたので軽く了承する。
「じゃあ、頼む」
「りょーかい。ポチッとな」
今回はわかりやすく魔力除去装置のボタンを翔太郎が自ら押した。
結果は予定通り。翔太郎一行とエンドを除いた人間が魔力を失って倒れた。苦しみながら。
「これで少しは信じるようになるだろ」
昨日と同じく死屍累々の光景を見ながら翔太郎はエンドに言う。
エンドも、もう二、三度目であるにもかかわらず、顔を青褪めさせながら頷いていた。
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